9月18日、広東省深センで深セン日本人学校に通う10歳の日本人生徒が地元の中国人に刺殺される事件が発生した。6月24日にも江蘇省蘇州で日本人学校のスクールバスが刃物を持った中国人に襲われる事件が起き、止めに入った中国人女性が死亡している。数カ月の間に、日本人学校が2度も襲われるというのはヘイトクライムにも近い異常事態である。
ただそんな深刻な状況でも、中国は相変わらずのらりくらりと日本人の感情を逆なでするような態度を続けている。深センの事件後、日本側の抗議を受け王毅中国外交部長は、被害者へのお悔やみすらなく、事件は「個別の事案」だとして「政治化を避けるべきだ」と述べている。
安全保障に目を向けても領土問題で挑発を続け、日本国内でも中国人訪日客などの問題行為が連日報じられている。こうした動きに、日本政府が国民の納得がいく毅然とした対応をしているとは言い難い。
10月1日には、日本で石破茂首相が誕生したばかりだ。とはいえ、「新政権にガツンと言ってもらおう」と願っても、残念ながら、そうはならない。それどころか、中国が日本に対してますます強硬に出てくる可能性もある。今回は、日本の新しい政権に私たちがどんな対応を期待できるのか考察してみたい。
中国は「石破首相」をどう見ているのか
結論を言うと、残念ながら、中国側は石破首相を与(くみ)し易いと見ている。というのも、石破首相は中国が何よりも嫌う靖国神社参拝をしない。さらに石破首相がこれまで繰り返し、日米の安全保障体制を規定した地位協定を改定すると主張してきた経緯から、中国から見ると、石破首相の主張は日米関係が不安定化する要素として歓迎しているはずだ。さらに石破首相は、「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」の構築なるものを掲げている。アジア版NATOとは、アジア諸国で互いに軍事的に共闘する同盟のことだ。もっとも、日本は専守防衛(攻撃されるまで何もしないと宣言している)を定めた憲法9条と、アメリカとの地位協定によって、アメリカまたは日本が他国から攻撃を受けないと国は戦闘に加わることができない。
そんな日本が軍事同盟を結んでもほかのアジア諸国を助けることはできるはずもなく、言っていることが意味不明なのだ。中国からは、「石破首相はアメリカとの同盟関係を信用しておらず、軽視する傾向がある」と見られるだろう。
加えて韓国でも、石破首相は以前の取材にて「慰安婦問題については被害者が納得するまで謝罪するべき」と答えたと報じられている(本人は「謝罪」という単語は使っていないと主張)。こうした姿勢により、慰安婦問題がまた日韓で物議になれば、中国がその混乱に乗じる隙ができる。
中国関連企業、再エネ賦課金から年間20億円
石破首相はこれまで、原子力による発電を限りなくゼロにするとも主張していた。そうなると再生エネルギーにさらに頼ることになるが、その動きは太陽光パネルなどの関連ビジネスにおいて、日本でもうけている中国側を利する可能性もある。ただ石破政権発足後、周囲からの助言を受けて、原発については活用する方向で訂正したようで、それには中国側が拍子抜けした可能性がある。一方で、ベテラン政治家である石破首相の考え方がそう簡単に根本から変わるはずがなく、太陽光による電力にわれわれの電気料金から賦課金(ふかきん)を徴収している「再生可能エネルギー発電促進賦課金」が大幅に見直される兆候はない。ちなみに筆者の取材では、再エネ賦課金から中国関連企業などが得ている概算値は年間20億円ほどといわれている。