目玉は、やはり藤ヶ谷太輔×奈緒のダブル主演でしょう。後述するように2人は共に原作の大ファンで、そのかいもあってか「この2人以外はもう想像できない」ほどのハマり役、いや「この世に本当に存在している人にしか思えない」ほどのキャラクターを体現していました。
かつ、監督と脚本家などスタッフたちの誠実なアプローチが結実した、優れた恋愛映画になっていました。その理由を本編のネタバレにならない範囲で記していきましょう。
失踪した婚約者の「うそ」を知っていくミステリー
あらすじを簡単に紹介しましょう。仕事も恋愛も順調に過ごしてきた男性は、マッチングアプリで婚活を始め、そこで出会った控えめだけど気遣いもできる女性と付き合い始めますが、1年たっても結婚まで踏み切れずにいます。 そして、彼女に告白されたのはストーカーの存在。主人公は彼女を守らなければと、ようやく婚約するのですが、その直後に彼女は突如として失踪してしまうのです。「なぜ失踪したのか」という謎を発端として、その後は彼女の両親、友人、同僚、過去の恋人を訪ねて居場所を探すうちに、主人公はその過去と「うそ」を知っていくミステリーになっています。「人はなぜうそをつくのか」という根源的な問いにも肉薄しているようで、惹きつけられるのです。
いい意味で文句が出るほど「本当のことを言ってしまう」内容
本作はマッチングアプリや結婚相談所が登場し、恋愛と結婚に対して、「なるほど」と思える真っ当な分析や視点が告げられます。同時に、見る人によっては「もう! 分かったから! そんなことまで言わないでよ!」といい意味で文句が出るほど、「恋愛や結婚についての残酷な本質を突いてしまう」内容でもあるのです。 それが最も強烈に表れているのは、劇中の結婚相談所の所長の言葉です。所長は、ジェーン・オースティンの名作『高慢と偏見』が「恋愛の先に結婚が必ず結びついて考えられているので、“究極の結婚小説”である」としつつ、「対して、現代の結婚がうまく行かない理由は『傲慢さと善良さ』にある」という言説を語ります。その“傲慢さと善良さ”が具体的にどういうことなのかはここでは伏せておきますが、失踪した婚約者の過去とうそを踏まえれば、所長の分析は確かに当てはまるのだろうと、より痛切に感じられるようになっています。
さらに、その後に語られる婚活中の相手への「値段(点数)」に関する言説は、主人公の男性に当てはまるかもしれませんし、現実に婚活に挑んでいる人にとってはショッキングに聞こえるかもしれません。 原作小説から強烈なインパクトのある場面でしたが、映画では前田美波里がとてつもない貫禄で結婚相談所の所長を演じているため、有無を言わせない説得力を持たせていて、いい意味で“居心地の悪さ”を感じられるでしょう。
もちろん、物語はそうした「恋愛と結婚の残酷な本質」をただ示すだけでは終わりません。語られた「本当のこと」は確かにあるのかもしれない、「しかし、それでも」と劇中での葛藤を経た上での選択と、たどり着いた「答え」には大きな感動があり、そのためにも前述してきた言説は必要だったと思えるのです。