ヒナタカの雑食系映画論 第126回

藤ヶ谷太輔&奈緒の「実在感」に圧倒される。『傲慢と善良』で、恋愛や結婚の“残酷な本質”を突く意義

映画『傲慢と善良』が公開中です。本作は恋愛や結婚に「本当のことを言ってしまう」、辛辣(しんらつ)とさえ言えるところがありつつも、それこそが重要な「優しい」作品でした。(※サムネイル画像出典:(C)2024 映画「傲慢と善良」製作委員会)

萩原健太郎監督の「花」に込めた演出にも注目

萩原監督は直近でも映画『ブルーピリオド』を、原作の再現度や演出も含めて高いクオリティーに仕上げていました。今回の『傲慢と善良』で注目すべきは「花」の演出です。
傲慢と善良
(C)2024 映画「傲慢と善良」製作委員会
例えば、冒頭に出てくる白いバラは「善良さ」のモチーフであり、それを「ぐしゃぐしゃにする」ことで「傲慢さ」も表現しているのだとか。その他にも、部屋で水をあげているゼラニウムが、母親の実家にもあることで、「母親の影響から抜け出せていない」ことを表現しているのだそうです。白いゼラニウムは「偽り、優柔不断、あなたの愛を信じない」という花言葉を持っています。

他にも小道具にはロケ地には大いにこだわりを感じますし、それぞれのシーンの「含み」を考えると、より面白く見られるでしょう。

萩原監督は、傲慢と善良とは一体何だろうと考え続けていたそうで、それはきっと「表裏一体」なのだと気付いたそうです。
傲慢と善良
(C)2024 映画「傲慢と善良」製作委員会
その上で「今の社会で生きづらさを抱えている人たちが、自分の中のネガティブな部分を受け入れて、完璧ではない自分を愛して前に進めるような映画になっていたらいいなと思っています」と語っています。

劇中の主人公2人はあまりに不完全で、選択も何度も間違ってしまっているように見える、欠点ばかりの人物です。

しかし、それでも、その不完全さも含めて「自分も相手も愛せる」のであれば、それを踏まえた選択を肯定できるし、希望があるとも思えます。前述した通り、「恋愛と結婚の残酷な本質」を示す内容ながら、実はとても「優しい」作品なのです。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
最初から読む
 
Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

連載バックナンバー

Pick up

注目の連載

  • 恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」

    静岡の名所をぐるり。東海道新幹線と在来線で巡る、「富士山」絶景ビュースポットの旅

  • ヒナタカの雑食系映画論

    『グラディエーターII』が「理想的な続編」になった5つのポイントを解説。一方で批判の声も上がる理由

  • アラサーが考える恋愛とお金

    「友人はマイホーム。私は家賃8万円の狭い1K」仕事でも“板挟み”、友達の幸せを喜べないアラサーの闇

  • AIに負けない子の育て方

    「お得校」の中身に変化! 入り口偏差値と大学合格実績を比べるのはもう古い【最新中学受験事情】