水温計測、塩素消毒…教員のプール管理「水泳授業の民間委託」で負担に変化は?体育主任に聞いた

プールの老朽化や管理負担が課題となり、民間施設を利用して水泳指導をする学校が増えている。民間委託によって教員の負担や児童の様子はどのように変化したのか、小学校で体育主任を務める中澤先生(仮名)に話を聞いた。

教員の負担も大きいプール管理。水泳指導を民間委託する学校の実情とは

小学校のプールで誤って水を出しっぱなしにしてしまい、教員が賠償を求められる――。そんなケースが、全国で相次いでいるという。

「業務上のミスに対して、個人が賠償責任を負うべきなのか?」と疑問を抱く声も耳にするなか、学校でのプール使用に伴う教員の業務負担の大きさにも注目が集まっている。
水温の計測、塩素消毒などのプール管理
朝早くからプールの水温を計測・記録したり、塩素消毒剤を入れたりなど、プール管理の負担感は大きい
水泳指導はもちろん、プールを使用する前後の点検や緊急時の対応などを教員がすべて引き受けているのだ。そんな状況を鑑みて、水泳指導を民間のスイミングスクールに委託する学校が増えている。

体育主任を務める中澤先生(仮名)が勤務している長野県の公立小学校では、5年ほど前から水泳指導を地域のスイミングスクールに委託しているという。それによって、教員の負担や児童の様子はどのように変化したのだろうか。

授業はインストラクターが担当。発達段階に合わせた水泳指導が可能に

中澤先生が勤めている学校では、プールの老朽化により授業ができる状況ではなくなったことがきっかけで、市内でも早い段階で水泳指導を民間に委託することになった。

1~4年生と5、6年生で使う施設が違い、それぞれの発達段階に合わせた水泳指導が受けられるという。

「5、6年生が使う施設には、波のプールや流れるプールがあるので、海や川で流されたときを想定した学習もさせてもらっています。また、両施設とも室内の温水プールなので、天候や気温の影響を受けず、児童たちも落ち着いた状態で水泳学習ができます。」

さらに、授業はスイミングスクールのインストラクターが担当するため、教員は水泳指導以外の部分で児童と関わることに専念できる。

「施設まではバスで移動するので、基本的には学級担任や特別支援学級の担任、場合によっては支援員も添乗します。施設についてからは、着替えやシャワーの誘導をしたり、集団での行動が難しい子の個別対応をしたりしています。インストラクターの方も複数人で対応・指導してくださるので、とても手厚い環境で水泳学習ができています。」

水温・気温の計測、塩素消毒… 体育主任が担うプール管理の仕事は激減

以前はプールがある中学校に勤務していたという中澤さん。体育科の教員として、プールの管理には多くの時間を割いていたという。

「そのときは、部活動の指導をしながらも朝早く出勤して気温や水温の計測・記録をすることが夏の業務のひとつでした。塩素消毒剤を入れて衛生面の管理をすることはもちろん、塩素を測る機械の管理も教員の業務でした。気温や天候によって、その日に水泳の授業を実施するかどうかの判断もします。また、夏休みにプールを解放する日もあったので、子どもたちが夏休み中でも体育科の教員で分担してプール管理を担当した学校もありました」

水泳指導をスイミングスクールに委託することにより、体育主任の業務はどのように変化したのだろうか。

「プール管理をする必要がなくなったため、すごく楽になりました。夏休みにプールを解放することもなく、休みも取れるようになりました。日常的な業務として今やっているのは、主に1.スイミングスクールや教育委員会との打ち合わせや日程調整、書類提出、2.移動する際に使うバスの申し込みや子どもたちが乗り降りする場所の確認、3. 教員の引率計画を立てることです。」

水泳の民間委託による子どもたちの変化は? 

室内プール
天候の影響を受けない室内プール。インストラクターの水泳指導により、スイミングスクールに通いたいという子も
スイミングスクールで水泳指導を受けることについて、児童はどのように感じているのだろうか。

「授業の最後にはウォータースライダーを使わせてもらえることもあって、子どもたちにはそれが楽しみのひとつにもなっています。学校のプールではできないことなので、ありがたいですね」

さらに、インストラクターが水泳指導を担当することで、泳ぐことを楽しむ児童も増えたという。

「スイミングスクールでの水泳の授業がきっかけで、夏休みに家族でプールに行きたいという子や、習い事として水泳をやりたいという子もいます。夏休みの楽しみを見つけられたり、運動する習慣につながったりもしているので、余暇を楽しむことや生涯スポーツの視点から考えても、民間施設を使わせてもらうメリットは大きいなと思います」

一方で、プールに入れる回数が減ってしまう点は、数少ないデメリットともいえそうだ。民間施設の利用に伴い、移動時間を含めると1回の水泳指導に3時間程度は確保しなければいけないという。

「朝出発しても帰ってくるのはお昼くらいになるため、水泳の授業だけで午前中が終わってしまいます。それによって授業時数が減ってしまう教科もあるため、事前に調節する必要はあります。学校のプールであれば1シーズンに10回程度は入れますが、民間施設を使う場合は4、5回くらいなので、少ないと感じる子もいるかもしれません」

教員の負担の大きさやプールの老朽化によって、全国で進みつつある水泳指導の民間委託。メリットとデメリットの両面があるものの、教員の負担が減ることだけではなく、児童が設備の整ったプールで専門家から指導を受けられる点も含めると、肯定的に受け止める人が多いのではないだろうか。

今後、それぞれの学校に合ったかたちでの運用に期待したい。
 
この記事の執筆者:建石 尚子
大学卒業後、5年間中高一貫校の教員を務める。フィンランドにて3カ月間のインターンを経験したのち、株式会社LITALICOに入社。発達に遅れや偏りのある子どもやご家族の支援に携わる。2021年1月に独立。インタビューライターとして、教育や福祉業界を中心にWEBメディアや雑誌の記事作成を担当。
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