ヒナタカの雑食系映画論 第97回

『マッドマックス:フュリオサ』の8つの魅力。前作とは異なる評価軸、強化されたフェミニズムの精神とは

『マッドマックス:フュリオサ』 の8つの魅力を解説しましょう。「スピンオフ作品としてこれ以上のものは考えられない」理由ばかりなのです。(※サムネイル画像出典:(C) 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. )

フュリオサ
『マッドマックス:フュリオサ』 5月31日(金)全国ロードショー!日本語吹替版同時上映 IMAX(R)/4D/Dolby Cinema(R)/SCREENX (C) 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. IMAX(C) is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories.
映画『マッドマックス:フュリオサ』が5月31日より劇場公開中。本作は2015年に公開され、革命的なアクションが特に絶賛の嵐となった『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の前日譚にして、女戦士「フュリオサ」を主人公とした作品です。

その評価は数多くのスピンオフ作品の中でもトップクラス。アメリカの批評サービスRotten Tomatoesでの批評家および観客の支持率は90%に達しており(5月31日時点)、実際の本編を見ても『怒りのデス・ロード』の精神と面白さを引き継ぎつつも、その二番煎じにもならない異なる評価軸も備えた素晴らしい作品でした。
 
ここでは、その8つの魅力および特徴を解説しましょう。

1:『マッドマックス』を見たことがなくてもOK

今回の映画は『マッドマックス』シリーズを全く知らない人でも楽しめる内容だと断言します。フュリオサという1人の人物の幼少期からその半生を追う物語で、今作から見ても彼女の過酷な運命を見届けたくなるでしょう。
フュリオサ
(C) 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
ただ、上映時間が2時間28分とやや長尺であることにご注意を。スピンオフ作品にして『マッドマックス』シリーズ最長となったことに不安を覚えている人もいるでしょうが、実際の本編はなるほどそのボリュームを必要とする物語が紡がれていました。

一定の物語間隔で区切られた「章立て」の構成のおかげもあるのか、個人的にはダレを感じることはありませんでした(ただ、直前のトイレはほぼ必須です)。
フュリオサ
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なお、レーティングは「全篇にわたり殺傷をともなうアクションが続く」という理由でPG12指定となっています。

『怒りのデス・ロード』の時はR15+指定だったため「そこまで露悪的なエログロ描写はないし、若い人にこそ見てほしい内容なのに納得できない!」との声も続出しましたが、今回は中学生も映画館で熱狂できるようになったのです(とはいえ、もちろん暴力的な描写があるのも事実なのでご注意を)。

2:引き継がれたフェミニズムの精神

『マッドマックス:フュリオサ』は前作『怒りのデス・ロード』に引き続き、フェミニズムの精神がはっきりと表れた作品になっています。

『怒りのデス・ロード』で描かれたのは、文明が崩壊して資源は乏しく、独裁者が全てを牛耳り、人間はモノのように扱われ、若者たちがその価値観に支配され自決することもいとわない、狂った世界でした。それでも強い女性たちが団結し、「自らの力で抑圧的な状況を変える」様に、女性ならずとも勇気や希望を抱いた人が多いのではないでしょうか。
フュリオサ
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前日譚である今回の『フュリオサ』では、冒頭から幼い娘を救おうと奮闘する「母親」の強い姿がはっきりと打ち出されています。そして、故郷や家族を奪われたフュリオサは、憎むべき相手のディメンタス将軍の元で「表向きは娘として」生きることを余儀なくされ、しかも前作の最大の敵であるイモータン・ジョーとの土地の覇権争いにも巻き込まれます。
フュリオサ
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また、前作『怒りのデス・ロード』は、「行って帰るだけ」ともいえるシンプルな物語であると同時に、鮮烈な世界観の構築、そして尋常ではない熱力のアクションを盛り込むことでこそ語られる、キャラクターの奥行きや「語られていない余白」を想像できることも魅力になっていました。
フュリオサ
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対して、今回の『フュリオサ』の主人公は、2つの勢力の板挟みにも近い立ち位置で、アクション以外のドラマパートの割合も増えており、それでこそ「前作で語られていない余白の一部を語る」ようになっており、やはり異なる魅力を打ち出しています。

そのため、今回の『フュリオサ』では「強い女性が奮闘する」「その強い女性の意思も無惨に踏みにじられてしまう」「それでも決して消えない心がある」という構図もまた強調されています

『怒りのデス・ロード』の「革命」への行動に至るまでの彼女に何があったのか、どれほどの思いがあったのか。その過程のドラマにも注目してほしいのです。

3:前作にも引けを取らないアクション

ただ抑圧される苦しい状況が描かれるだけでなく、前作にも勝るとも劣らないアクションが、キレキレな演出と共に怒濤(どとう)の勢いで繰り出されるのも大きな見どころです。

実際にオープニングから感じられるのは「速さ」。追われる者と追う者、それぞれの一挙一動が通常の映画よりもかなり速く動いているように感じられ、それは「少しでも遅いほうが負ける」過酷な世界の攻防戦が「こうなる」と納得できるテンポでもあったのです(実際にジョージ・ミラー監督は、1.3倍ほどの速さで俳優たちが演じるべきだと意識していたのだとか)。
フュリオサ
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その後も「勢い良く寄っていくカメラワーク」「空間を意識した大胆な構図」「“ウォー・タンク”という巨大な乗り物の先から後ろまで全てを生かしたギミック」などを、これでもかと楽しめるでしょう。特に、中盤の15分間にもわたるアクションの撮影には78日もかかり、毎日200人近くのスタッフが作業にあたったそうです。
 
それらのアクションは見ていて頭がクラクラしてくるほど、褒め言葉として狂っているようにも思えるのですが、実際は極めて計算し尽くされていることも、前作から引き継がれた大きな魅力です。

何しろ、その15分間の中盤のアクションでは、フュリオサの戦闘スキルや、その知恵や不屈の精神もはっきりと表れているのです。それもまた「アクションでこそ物語を語る」という『怒りのデス・ロード』の魅力をストレートに受け継いでいるポイントでしょう。
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主演を務めたアニャ・テイラー=ジョイの「眼光」
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