彼がこの夏、出演するのが、2012年に演劇集団キャラメルボックスが初演し、人気を博してきた舞台『無伴奏ソナタ』のミュージカル版です。
人間の職業が幼児期のテストで決定される、という管理社会に生まれた主人公の数奇な運命を描く物語には、大東さん自身、大いに衝撃を受けたのだそう。
明確な答えのない作品や役を“読み解く”楽しさ
僕は明確な答えのない作品が好きで、よく舞台を観た後に“あれはどういうことだったんだろう”と考えたりするのですが、この作品を観た時も、数日間余韻に浸りましたね。“感動した”という言葉だけでは表現しきれない“すごさ”がありました。
出演者の方々の一体感も印象的でした。皆さん支え合っていらっしゃったんだろうな……、と稽古の様子まで想像してしまいました」
主人公は、音楽の天才として生まれたクリスチャン。幼い頃から音楽に身を捧げてきた彼は、あることをきっかけに、音楽と関わることを禁じられてしまいます。
大東さんが演じるのは、抜け殻のようになったクリスチャンが出会う、ギター弾きの作業員ギレルモ。心から音楽を愛し、無邪気に歌う彼の姿が、クリスチャンの本能を呼び覚ます……という、本作のキーパーソンともいえるキャラクターです。
「日頃アーティスト活動をしているので、その経験は生かせると思いますし、音楽の楽しみ方という点では、ギレルモは僕自身に近い部分もありますが、役としては難しいと思っています。
一番難しいのは、まっすぐな人柄というか、ひねくれた部分が全くないところ。主人公(の心)を動かす役どころなので、どういう人間性だったら人の心を動かせるのか、本番まで毎日考えないといけない、と思っています。ギレルモの何が、トラウマを持った人間の心を開かせたのか。主人公もピュアな人間ですが、彼とはまた違った系統のピュアさがあるのかもしれません。そこの研究は必要だな、と思っています」
「まだ現時点での解釈ですが、ギレルモはあまりとらわれないタイプなのかな、と思っています。“職業は関係ないじゃん”というか、どんな仕事をしていても、自分は自分、という強さがある。そこに彼の真っすぐな心がつながってきているのかもしれません。作業員の仕事を真面目にこなしながら、音楽を楽しめるという人なんじゃないかな。
それとちょっと似ているのが、彼の“音痴観”。皆で音楽について話す中で、ギレルモは“世の中に音痴なんていない”と言うのですが、彼の観点というのは“音程を外す、外さない”ではなく、“音楽を楽しめるかどうか”であって、職業観に似ているんですよね。ポジティブというか、彼ならではのモノの見方があるんだな、と感じます」
奇想天外なストーリーを通して“人間の幸福とは何か”を問う、SF的ともファンタジー的ともいえる作品ですが、大東さんはそれ以上に痛切に感じることがある、と言います。
「本作では、管理社会の中で、ど直球に残酷なドラマが展開しますが、そこにとらわれてはダメなんだろうな、という気がしています。その状況を理解した上で、1番感じるべきなのは“人と人との関わり”だったり、一人の人間が周りの人々にどれだけ支えられているか、ではないのか。(特殊な設定に見えるけれど)実は普遍的な物語なのかな、と今のところ感じています」
さまざまな角度から作品にアプローチできる大東さんは、もしかして考察好き……?
「はい、どちらかというと、読み解くのが好きなタイプです!(笑)」
今回、大東さんは書き下ろしのミュージカル・ナンバーに加えて、アメリカのフォークソング『ケンタッキーのわが家』を歌う予定。誰もが聞いたことがある(と思われる)有名曲だけに、ミスはできないというプレッシャーがありそうですが……。
「1番大事なのは、僕がギレルモとして舞台に居る時に、緊張やプレッシャーを少しも感じないことなのかな、と思っています。“ギターは何年もやってました”と思い込んで(笑)、心から音楽を楽しむことが大事なんじゃないかな。技術面はお稽古が終わるまでに完璧に仕上げないといけませんが、本番が始まったらそこは考えず、楽しい気分の中で自然に歌がギレルモの中から出てくるといいな、と思っています」
クリスチャン役の平間壮一さんはじめ、ミュージカル界、演劇界の第一線で活躍する方々との共演も楽しみだと言います。
「すごい方々とご一緒できるので、学びの姿勢でいっぱい吸収していきたいです。
作品についてはこれから見えてくる部分も多いと思いますが、絶対に変わらないだろうと思うのは、観た人にとって、人生が変わるきっかけになるような舞台になるんじゃないか、ということ。とらえ方は人によって違っても、それぞれに“何か”を受け止めていただけたらうれしいです」
目指すのは“一人の人間としての感覚を大切にする表現者”
「音楽にもお芝居にも憧れがあり、いろんな分野に挑戦したいと思っていました。その思いは今も全く変わっていません。
例えば音楽だけ、というようなことではなく、“エンターテインメント全体に対して、全力でやっていく”という気持ちです。何か1つが本職で、合間に他のことをしている……というのではなく、言ってみれば全部が本職なのかな。舞台にしても、生半可な気持ちでご一緒したくないし、実力がなければ通用しない世界なので、日々備えていますし、ひたすら学ばせてくださいという精神で臨んでいます」
となると、肩書は1つには絞れないかも……?
「強いて言うなら“エンターテイナー”でしょうか。皆さんに幸せを届けるために生きる人になりたいです」
まだ19歳。可能性は無限ですが、目指す“表現者”像はというと……。
「いわゆる“スター”ではなく、一人の人間としての感覚を大切にする表現者になりたいです。
そう思うのは、これまで周りの方々に支えられ、すてきな経験をたくさんさせていただいて、それが今の自分を作っていると思えるから。スタッフさんたちに対しても対等に感じていますし、そんな感覚を大事に、着飾らず、精進していきたいです」
<公演情報>
『無伴奏ソナタ -The Musical-』7月26日~8月4日=サンシャイン劇場、8月10~11日=森ノ宮ピロティホール