ヒナタカの雑食系映画論 第88回

R15+指定がされるほどのバイオレンスが「必要」だと思えた最新日本映画5選

暴力描写のためR15+指定がされた、最新日本映画を5作紹介しましょう。いずれも露悪的なだけでない、「痛み」を感じさせるバイオレンスこそが、作品には必要だと思えたのです。(C)小路紘史

4:『激怒』(2022年)高橋ヨシキ監督

映画ライターの高橋ヨシキが企画・脚本・監督を手掛けた作品で、激怒すると見境なく暴力を振るってしまう悪癖を持つ刑事が、度重なる不祥事の末に海外の医療機関で治療を受けるも、その治療半ばで日本に呼び戻され、雰囲気がガラリと変わった街で過酷な現実に直面するという物語です。初めから違和感だらけの場所に隠された陰謀のおぞましさには、現実の日本社会にはびこる権力者への怒りも込められていました

正直に言って作劇や演出には荒削りなところもありますが、だからこそのパワーがありますし、メッセージ性もストレートに表れています。フレッシュなアイデアのバイオレンスも、残酷描写のある映画を支持し関わってきた高橋ヨシキというその人らしさ。怒りをためにためてからの「爆発」にカタルシスを求める人にはうってつけの映画です。

5:『孤狼の血 LEVEL2』(2021年)白石和彌監督

前作は同名小説を原作としていましたが、今回は前作から3年後となるオリジナルストーリーが展開。最大の注目ポイントは白石和彌監督から「日本映画史に残る悪役にしてほしい」と重すぎるプレッシャーをかけられた鈴木亮平で、「私自身が1番怖いと思う人は、“自分を悪いと思っていない人”だと思い至りました」と鈴木亮平自身が語っている通りの、「悪の自覚がない悪」には身震いするほどの恐ろしさがありました。

松坂桃李が新米刑事だった前作から一転、広島弁が板についた切れ者になっていて、見るからに優しそうな中村梅雀との“バディ”ぶりも見どころ。村上虹郎演じる経験の浅いスパイの活躍も重要で、彼を心配する姉役の西野七瀬との関係性も感情移入しやすいものでした。怖いお兄さんがたくさん登場する暴力にまみれた作品ですが、「普通の人」の描き方も秀逸な映画ともいえるでしょう。

なお、その白石和彌監督の最新作『碁盤斬り』が5月17日に公開予定。こちらはG(全年齢)指定で暴力描写は最小限、親しみやすい作風ながら緊張感のある演出も冴えわたる万人向けの傑作となっているので、主演の草なぎ剛のファンはもちろん、多くの人に見ていただきたいです(「なぎ」は、弓へんに前の旧字体、その下に刀)。

R15+指定&暴力描写に意義がある傑作はほかにも

そのほか、最近のR15+指定のバイオレンスな日本映画で、特におすすめしたい傑作は以下の3本です。

『グリーンバレット』(2022年)……「殺し屋育成合宿」の模様を追ったフェイクドキュメンタリー。『ベイビーわるきゅーれ』の阪元裕吾監督らしくダメな人たちが愛おしく描かれています。R15+指定にしては残酷描写は控えめ。

『見えない目撃者』(2019年)…… 韓国映画『ブラインド』のリメイクで、吉岡里帆が視力を失った元警察官役を熱演。高杉真宙演じる少年とのバディ感も魅力的で、万人向けです。

『宮本から君へ』(2019年)……テレビドラマ化もされた人気漫画の映画化作品で、正義感の強い営業マンの戦いを描く。全身全霊で役にぶつかる池松壮亮と蒼井優が素晴らしいという言葉では足りません。

いずれの作品でも、R15+指定されるほどの暴力描写はただ露悪的なだけでなく、物理的にはもちろん精神的な「痛み」を感じさせるためのものであり、それでこそキャラクターに思い入れもできるようになっています。バイオレンスに恐れ慄くのももちろん正しい反応ですが、それだけでない意義を、それぞれの映画から考えてみてほしいです。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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