韓国でも暴力が鮮烈に描かれた映画がコアな人気を得ていますが、近年の日本でもそれらと遜色(そんしょく)ない、絶大なインパクトのある映画が世に送り出されています。ここでは、2021年以降に公開された、R15+指定されるほどの暴力描写にも確かな意義がある、いや“必要”だと思えた日本映画を5作紹介しましょう。監督の名前も併せて知ってほしいのです。
1:『辰巳』(2024年)小路紘史監督
長編デビュー作『ケンとカズ』が各所で絶賛を浴びた小路紘史監督の8年ぶりの新作かつ、製作に5年を要した労作です。物語は、裏稼業で生計を立てる男が、殺害された元恋人の妹と反発しあいながらも、やがて復讐(ふくしゅう)への道へと進むというもの。プロットそのものはシンプルながら、複雑な裏社会の人間関係、いい意味で胃が痛くなりそうな怖いお兄さんたちの描写も大きな魅力になっています。 年の差がある男女2人の逃避行と戦いが描かれることから『レオン』『ローガン』といった作品を連想させつつも、安易な予想を裏切る話運びにはオリジナリティーも存分。ヒロインはツバやガムを吐く攻撃的な性格で、すぐには守りたいとはとても思えないのですが、だからこそ自己保身的な行動原理も見えていた主人公の、彼女に対する「変化」にも感動があります。 全員がオーディションで選ばれたという役者陣全員が素晴らしく、特に主役の遠藤雄弥と森田想の掛け合いには、「この映画にしかないマジック」が起こっていました。自主制作だからこそのしがらみがない「作り手が作りたいものを作った」ことが実感できるとともに、万人が共感しやすい普遍性と娯楽性もあわせ持っているのも美点です。 公開後すぐに称賛の声が相次ぎ、記事執筆時点でFilmarksで4.0点を記録するのも納得です。公開館数は少ないですが、映画館で集中して見てこその演出や話運びもふんだんなので、ぜひ劇場で鑑賞する機会を逃さないでほしいです。2:『首』(2023年)北野武監督
日本のバイオレンス映画の第一人者といえばやはり北野武監督。総製作費約15億円をかけた豪華キャストが集結した大作ながら、ジャンルとしてはかなりブラックコメディー寄り。コントのような滑稽なやりとりだけでなく、誰もが知る歴史上の戦国武将が「どいつもこいつも狂ってやがる」というキャッチコピー通りに狂気に満ちた言動をする様は、いい意味で「悪い冗談」のようで、怖いと同時に笑ってしまうところもあるのです。物語の流れは『アウトレイジ』に通ずる一触即発のパワーゲームで、異常な事態それぞれが「人があっさりと死んでいった戦国時代では日常茶飯事だったのかもしれない」と思えるのもゾッとします。実質的な主人公と言ってもいい、木村祐一演じる曽呂利新左衛門の皮肉たっぷりの言葉には、共感する人もきっと多いことでしょう。
3:『グッバイ・クルエル・ワールド』(2022年)大森立嗣監督
物語の発端は、一夜限りの強盗団がヤクザの金を強奪し、それを知った悪徳刑事が「クズ同士の潰し合い」を提案するというもの。その後は、「居場所を見つけられなかったために悪に堕ちざるを得なかった者たち」による切なさもたっぷり表れていました。借金を抱えた元会社員、元政治家秘書の肉体労働者、そして西島秀俊演じる「元ヤクザながら静かに生きたいと願う男」の心情は特に切実でした。“過去”は、彼を簡単には逃してはくれず、「人はいつかやり直せるが、過去が重いものであればあるほど、それは簡単ではない」という残酷かつ普遍的な事実も突きつけられます。宮沢氷魚と玉城ティナが扮(ふん)する若者たちが破滅的な行動をせざるを得ない様も強烈な印象を残すでしょう。人間の暗部も含め、丹念に描く大森立嗣監督の作家性が存分に発揮された、いい意味で爽快感とは無縁の「フィルムノワール」を求める人におすすめします。