気象予報士の片山美紀が解説していきます。
(今回の質問)
Q.気象台の職員による「目視観測」がなくなると、日常生活に影響はあるのでしょうか?
(回答)
2024年3月下旬、気象庁や気象台の職員が行う天気や大気現象の「目視」による観測が東京と大阪を除く各地の気象台で終了し、機械による自動観測に切り替わりました。これにより「快晴」や「薄曇り」、「虹」などの発表がなくなりましたが、技術の向上により人の目を介さなくても精度の高いデータを得られるため、防災上は私たちの生活に大きな変化はありません。
明治時代から続く「人の目」による観測の歴史に幕
そもそも目視観測とは、「晴れ」や「曇り」などの天気や「虹」や「ひょう」、「雷」などの大気現象を気象台の職員が目で見て判断する手法です。1日7回、午前0時を除く3時間ごとに行われてきました。
目視観測の歴史は長く、1872年(明治5年)に函館気候測量所で始まりましたが、近年は気象レーダーや気象衛星の技術が発展し、2019年以降、目視観測を行うのは主要地点限定になり、規模が大幅に縮小されたのです。さらに今年、2024年3月には、新たに札幌、仙台、名古屋、新潟、広島、高松、福岡、鹿児島、沖縄の9カ所で目視観測が終了し、残るは東京と大阪のみになりました。
「薄曇り」「虹」「黄砂」の発表が消える……!
正確な天気予報の作成には精度の高い観測データが不可欠ですが、人の目を介さなくても、機械で十分に精度の高いデータを得られるようになったため、天気予報や気象警報・注意報、防災気象情報の発表に影響はなく、防災上は私たちの生活に大きな変化はありません。
機械による観測は、ばらつきのある人の目よりも均質なデータを得られるというメリットがあります。
ただ、自動観測への切り替えによって、「快晴」や「薄曇り」のほか、「虹」や「ひょう」、「雷光」、「雷電」、「黄砂」など人の目でないと判断が難しい項目の発表はなくなります。これまで蓄積してきたデータが途切れると、長期的に気候がどのように変化してきたかなど検証しにくくなるのではないかといったことは危惧されます。
「生物季節観測」も大幅に縮小、変わる気象観測の世界
全国的な目視観測の終了によって思い出されるのが、「生物季節観測」の大幅な縮小です。気象庁では、1953年よりサクラやアジサイなどの植物の開花、ウグイスなどの動物の初鳴きなどの観測を行ってきましたが、2021年に大半の項目が廃止されました。近年は開発による環境の変化などの影響で、適切な観測を行うことが難しくなったためです。
長く続いてきた観測が終わるのは少し寂しいですが、科学技術の発展や環境の変化によって、世の中は目まぐるしく変化しています。天気予報や気象観測の世界も例外ではありません。
<参考>
「地上気象観測」(気象庁)
「気象官署の目視観測通報の自動化について」(気象庁、令和6年2月9日発表)
この記事の執筆者:片山 美紀
1991年生まれの気象予報士。現在は『首都圏ネットワーク』(NHK総合)などで気象解説を担当。防災情報を正しく活用してもらうための普及啓発として講演活動にも取り組む。
1991年生まれの気象予報士。現在は『首都圏ネットワーク』(NHK総合)などで気象解説を担当。防災情報を正しく活用してもらうための普及啓発として講演活動にも取り組む。