働き方改革推進の流れを受け、近年は労働時間の短縮や業務の効率化を目指し、さまざまな取り組みを進める企業が増えています。その試みの1つとして注目を集めているのが、「ノー残(ノー残業デー)」です。しかし、意義を正しく理解していないと、「早く帰る」ことが目的になり、取り組みが形骸化してしまう恐れがあります。今回は、「ノー残」の意味やメリットのほか、施策を成功に導くポイントについて、現役フリーアナウンサーの新保友映が解説します。
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<目次>
・ビジネス用語「ノー残」の意味
・「ノー残」の使い方と例文
・「ノー残」を導入するメリット
・「ノー残」を導入するデメリット
・「ノー残」を推進するためのポイント
・まとめ
ビジネス用語「ノー残」の意味
はじめに、「ノー残」の意味を改めて整理しておきましょう。・「ノー残」はノー残業デーのこと
「ノー残」とは、「ノー残業デー」を略した言葉です。「ノー残業デー」は、「定時で仕事を終え、残業しない日」のことです。企業は、特定の日あるいは曜日を「ノー残業デー」と定め、その日は従業員に対して定時で退社することを指導・推奨します。
企業によって運用方法はさまざまですが、週に1日、所定の曜日にノー残業デーを実施するケースが一般的です。
・ノー残業デーが生まれた背景
「ノー残業デー」という言葉そのものは、1970年代には存在していたといわれています。高度経済成長期だった当時の日本では、長時間働くことこそ美徳であるという価値観が一般的でした。そして、バブル経済に突入すると、日本の貿易収支は黒字が続き、諸外国との間に貿易摩擦が発生します。これを問題視した欧米諸国からは「日本人は働きすぎだ」と批判を受けたほか、国内でも社会問題として取り上げられるようになり、労働時間を削減しようとする動きが出てきました。
とはいえ、実際にノー残業デーの取り組みが広まり始めたのは、時短や週休2日制が定着し始めた1990年代前半です。バブルの崩壊で賃上げが難しくなった代わりに、労働時間短縮を求める動きが活発化し、春闘でも「週1回のノー残業デー」を掲げた労使交渉が行われました。さらに、近年では過重労働によるうつ病や過労死などがクローズアップされることが増え、従業員の心身の健康を害する働き方が問題視されるようになりました。
国も「働き方改革」を掲げ、長時間労働の是正などによる働きやすい環境の実現と、企業の生産性を高める取り組みを推進しています。このような社会環境、時代背景の変化を受け、ノー残をはじめとする労働時間短縮のための施策はますます重要なものとなっています。
「ノー残」の使い方と例文
「ノー残」が略語であることを踏まえると、オフィシャルな場ではなく、比較的カジュアルな場面や会話で使うことが望ましいでしょう。ここでは、「ノー残」の例文を3つご紹介します。【例文】
「自社にもノー残が導入されたが、浸透するまでには少し時間がかかりそうだ」
「水曜日はノー残だし、飲みに行かない?」
「ノー残のおかげで、コンサートの開演時間に間に合った」
「ノー残」を導入するメリット
「ノー残」を正しく導入、運用することで、企業と従業員双方にさまざまなメリットが生まれます。ここでは、「ノー残」により得られるメリットについて紹介します。・業務の効率化を図る
ノー残業デーを導入することで、業務の効率化を図ることができます。今までと同じやり方では、定時に仕事を終わらせることは難しいでしょう。「優先して進めるべきことは何か」「無駄な作業はないか」と、仕事の進め方を見直したり、ITツールを活用したりすることで、より効率良く業務にあたることができます。従業員の意識も「仕事が終わるまで会社に残る」から「定時までに仕事を終わらせるにはどうすればよいか」へと転換されるため、高い集中力で業務に取り組めるでしょう。
・生産性を高める
ノー残業デーを実施するもう1つのメリットは、組織全体の生産性が高まることです。上司が残業しているから先に帰りづらい、残業代を目当てに本来不要な残業をする、といった無駄をなくすことができます。残業によるコストが削減され、一人ひとりの仕事の質が上がれば、企業の生産性・業績の向上につながります。
・ワークライフバランスを整える
ワークライフバランスの充実も、ノー残業デーを行うメリットの1つです。ワークライフバランスとは、「仕事と生活の調和」という意味で、「プライベートを充実させたい」「家族との時間を大切にしたい」など、従業員一人ひとりの価値観に合った働き方の実現を目指す取り組みです。
ノー残の導入は、プライベートの時間を増やすことにつながります。家族とゆっくり過ごす、趣味や習い事に励む、スキルアップのための勉強をするなど、それぞれ有意義な時間を過ごすことができるでしょう。
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「ノー残」を導入するデメリット
業務効率化の手段として有効な「ノー残」ですが、新たな課題が生じる場合もあります。「ノー残」を実施することによるデメリットについても理解を深めておきましょう。・ノー残業デーが形骸化しやすい
ノー残業デー導入の最も大きなデメリットは、取り組みが形骸化することにあります。「ノー残だから早く帰る」という部分が目的化してしまうと、それ以外の日に仕事が持ち越されて負担が増えるだけで、労働時間の短縮や業務効率化といった本来の目標が達成されません。
また、ノー残を周知していても、それらを後押しする企業独自の制度やルールがない場合、個人の判断で残業を行う従業員が出てきて、実効性が失われてしまう可能性があります。
・イレギュラーな業務や急な顧客対応が難しい
自社がノー残業デーを実施していても、取引先や顧客が同様であるとは限りません。ノー残として設定している曜日が違う、そもそも制度がない、といったケースも少なくないでしょう。
そのため、イレギュラーな業務やトラブル、急な問い合わせが発生した場合に、すぐに対応できない可能性があります。スピーディーな対応が難しくなる点は、ノー残のデメリットと言わざるを得ません。
・従業員の中には企業に不信感を抱く場合もある
ノー残業デーは、業務改善や生産性向上につながるその他の取り組みと併せて実践することが求められます。残業代が減る、他の日にしわ寄せが行く、といったデメリットを解決する方法が伴わなければ、従業員は「人件費を減らしたいだけだろう」「世間の評判を上げるために形だけやっているのだろう」と捉え、企業への不信感を募らせてしまうかもしれません。
「ノー残」を推進するためのポイント
「ノー残」を形骸化させず、実効性のある取り組みとして推進していくためには、企業が制度を適切に運用していく必要があります。最後に、「ノー残」を成功に導くためのポイントについて解説します。・社内にノー残業デーを周知する
まずは、全ての従業員に対し、ノー残業デーの実施内容と目的を丁寧に周知しましょう。特に、導入の目的は一人ひとりが正しく理解していることが大切です。社内説明会を開くなど、直接伝える機会を設けることも有効です。
また、ノー残当日は朝礼でアナウンスを行う、イントラや社内SNSなどで発信するなどして、実施の徹底を図りましょう。
・管理職が積極的に実施する
上司が残業をしていると、「なんとなく先に帰りづらい」と感じる部下は少なくありません。管理職がリーダーシップを発揮し、率先して「ノー残」を実践することが重要です。また、必要に応じて個々のメンバーの進捗状況を把握し、問題なければ定時退社を促すなどのフォローも行いましょう。経営層やマネジメント層が積極的に実施し「本気で取り組む姿勢」を示すことが、定着と浸透につながります。
・評価の項目に含める
評価項目の見直しも、ノー残業デー定着の一助となり得ます。「残業が多い=熱心に仕事をしている」というイメージから、残業時間が長いほど高い評価をつけるという企業もゼロではありません。
しかし、残業が多いからといって、必ずしも仕事ができる人材であるとは限りません。むしろ現代では「限られた勤務時間内に最大限の成果を上げる」従業員こそが、企業にとって真に「優秀な人材」と言えます。
また、部署やチーム全体の残業時間が少ない場合、適切にマネジメントが行われていることを示唆します。これらを評価項目に含め、人事考課に反映することで、取り組みのさらなる加速が期待されます。
まとめ
働き方改革の推進とともに、「ノー残」への注目も高まっています。「ノー残」は、業務の効率化や生産性向上といった企業側のメリットだけでなく、ワークライフバランスの充実、ひいては従業員一人ひとりの「理想の働き方」の実現も期待されています。「ノー残」を正しい形で定着させるには、組織全体が目的を理解しておくこと、トップが率先して推進していくことが重要です。導入前には丁寧に周知を行い、着実に取り組みを進めていきましょう。■執筆者プロフィール 新保 友映(しんぼ ともえ)
山口県岩国市出身。青山学院大学卒業後、2003年にアナウンサーとしてニッポン放送に入社。『オールナイトニッポンGOLD』のパーソナリティをはじめ、『ニッポン放送ショウアップナイター』やニュース情報番組、音楽番組など担当。2018年ニッポン放送退社後はフリーアナウンサーとして、ラジオにとどまらず、各種司会、トークショーMC、YouTube、Podcast、話し方講師など幅広く活動。科学でいじめのない世界をつくる「BE A HEROプロジェクト」特任研究員として、子どもたちの授業や大人向け講座の講師も担当している。