マーケティング用語「ロングテール」の意味とは? 企業の成功事例も解説

マーケティングにおいて近年注目されるようになった「ロングテール」。インターネット販売などの販売戦略の1つです。今回は「ロングテール」の正しい意味や、ロングテール戦略を使った企業の成功事例などを、現役フリーアナウンサーの酒井千佳が解説します。

マーケティング用語「ロングテール」の意味とは? 企業の成功事例も解説
マーケティング用語「ロングテール」の意味とは? 企業の成功事例も解説

マーケティングにおいて近年注目されるようになった「ロングテール」。ECサイトを使ったインターネット販売が一般的になった現在では重要な販売戦略の1つです。今回は「ロングテール」の正しい意味や由来、ロングテール戦略を使った企業の成功事例などを、現役フリーアナウンサーの酒井千佳が解説します。

関連記事:【必須】マーケティング用語59選|施策のフェーズ別・手法別に解説

<目次>
「ロングテール」の意味とは?
「ロングテール」が誕生した背景
「ロングテール」と「パレートの法則」の違い
ロングテール戦略のメリット
ロングテール戦略のデメリット
ロングテール戦略を行った企業の成功事例
まとめ

「ロングテール」の意味とは?

「ロングテール」というのは、主にマーケティングの分野で使われる言葉です。売れ筋の人気商品の売り上げを、ニッチな商品群の売り上げの合計が上回ることを表し、インターネットを通じた販売形態などで見られるものです。販売数量の少ないニッチな商品は1つ1つの売り上げは大きくはありませんが、商品数を多く取りそろえることによって、総売り上げ額を大きく伸ばすことができます。

このように、売り上げを売れ筋商品に依存するのではなく、需要の少ない商品を多数扱うことによって大きな利益を出すことを「ロングテール戦略」といいます。

・英語の語源「Long Tail(長い尻尾)」
「ロングテール」は、アメリカのテクノロジー雑誌『ワイアード』の編集長、クリス・アンダーソンが2004年に提唱したもので、商品ごとの売り上げ額をまとめたグラフの形に由来する言葉です。取り扱う商品を売り上げ額の高い順に左から並べた場合、一部の売れ筋商品によって左側に高い山ができ、右側にはその他多くのニッチな商品によって低く緩やかなスロープ状の形が作られます。このグラフの左側の山が恐竜の体、右側のスロープが恐竜の長い尻尾(long tail)に見えることから、「ロングテール」という言葉が使われています。

・マーケティング用語「ロングテール」が表すもの
取り扱い商品の売り上げごとのグラフでは、ニッチな商品の取り扱いが多いほど、右側のテール(尻尾)が長くのびた形になります。実店舗を中心とした販売形態では、人気商品の売り上げに全体の売り上げが支えられ、売れ筋ではない商品は入れ替えたり、取り扱いをやめたりする場合が多いため、グラフのテールは短い形になるのが一般的です。

グラフのテールが長いということは、人気商品に絞らず、売れ筋ではない商品も広く取り扱っていることを意味し、その数が多く多様であるほど小さな利益が積み重なって総売り上げを押し上げることになります。そのため、マーケティング用語で「ロングテール」という場合は、ニッチな商品の取り扱いが多く、その売り上げが総売り上げの大部分を占めていることを表します。

「ロングテール」が誕生した背景

従来の実店舗型の販売スタイルでは、売り場に陳列できる商品の数や、在庫を保管しておく倉庫の広さなどに制約があるため、売れ筋の人気商品を中心に販売し、取り扱う商品を取捨選択する必要がありましたが、インターネット販売の台頭によって状況は変わりました。

ECサイトを使ったインターネット販売では、商品を陳列する物理的なスペースがなくても、商品ページを整えるだけで販売できるようになり、取り扱う商品の種類を大幅に増やすことが可能になりました。また、インターネット検索が一般的になったことによって、ニッチな商品であっても需要のある顧客層に訴求できるようになり、広く浅く売るロングテール戦略が有効になりました。

「ロングテール」と「パレートの法則」の違い

ネット販売で有効なロングテール戦略に対して、在庫管理のコストがかかる店舗中心の販売で重視される考え方の1つが「パレートの法則」です。これは、イタリアの経済学者ビルフレッド・パレートが1896年に提唱した法則で、「結果の8割は、全体を構成する要素のうち2割によって生み出されている」という経験則を表したものです。「80:20の法則」とも呼ばれ、ビジネスやマーケティングに限らず、時間管理やスポーツなど、さまざまな分野における一般的な現象を表す考え方です。

これを商品の販売にあてはめて考えてみると、総売り上げのうちの80%は、取り扱っている商品のうち人気の上位20%の商品によって生み出されている、ということになります。パレートの法則に基づく販売戦略では、上位20%の人気商品に集中して販売戦略を立てることで大きな利益を生み出すことを目指します。

一方、ロングテール戦略では、個別の売り上げ額が少ないニッチな商品を多く取り扱うことで小さな利益を積み重ね、人気商品の売り上げに依存することなく大きな利益を生み出すことを目指します。

ロングテール戦略のメリット

ここからは、ロングテール戦略をとることで期待できるメリットを解説していきます。

・安定した売り上げを得られる
ロングテール戦略では、一部の人気商品に売り上げを依存することがないため、トレンドの影響を受けにくく売り上げが安定するというメリットがあります。人気商品に注力した販売戦略では1つの商品の売り上げに全体の売り上げが左右されるため、流行が過ぎるなどして人気が衰えると全体にも大きなダメージを受けてしまいます。その点、多くの商品から少しずつ売り上げを積み上げるロングテール戦略では、人気商品の売り上げが下がったとしても全体への影響は少なく、流行や季節に左右されずに安定した利益を確保することができます。

・コスパが良い
ロングテール戦略と相性の良いインターネット販売は実店舗を構える必要がないためコストパフォーマンスが良いのも特徴の1つです。実店舗を用いた販売形態では、テナント代などの店舗の維持費がかかりますが、インターネット販売では、はじめにECサイトを作ってしまえば、運用するうえでの金銭的なコストは大きくありません。また、販売する商品がデジタルコンテンツなどの場合、在庫を保管しておく場所も必要ないため、低コストで多くの商品を展開することができます。

ロングテール戦略のデメリット

インターネット販売などで有効なロングテール戦略ですが、注意点もあります。

・短期的には利益が出にくい
まず1つめの注意点は、短期的には利益が出にくいということです。ロングテール戦略は、個々の売り上げ数の少ないニッチな商品によって全体の利益を支えますので、何か1つの商品が売れれば総売り上げが伸びるというようなことはありません。さまざまな種類の商品が広く購入される仕組みが確立し定着するまで、長期的な視点で運営する必要があります。

・在庫管理コストがかかる
ロングテール戦略を展開するためには、売れ筋ではない商品でも多くの種類をそろえ在庫を持っておく必要があります。デジタルコンテンツであれば物理的なコストはかかりませんが、現物の商品を取り扱う場合は保管しておく場所や配送のコストがかかります。

・ECサイトの運営ノウハウが必要
また、インターネット販売を行う場合は、ECサイトを立ち上げ、適切に維持管理する必要もあります。運営するサイトに顧客を流入させるための対策が必要になるほか、大量の商品ページを適切に管理し更新していく作業が発生します。実店舗を構えた場合のテナント料や光熱費のような金銭的な負担はありませんが、効果的にサイト運営をするためには、ある程度の時間や手間をかける必要があります。

ロングテール戦略を行った企業の成功事例

最後に、ロングテール戦略に成功した企業の事例をいくつかご紹介します。

・大手通販サービス
ロングテール戦略の成功事例として最も有名なのが、大手通販サービスです。日本だけでも1億点を超える膨大な量の商品を掲載することで巨額の利益を生み出すことに成功しました。掲載されている商品は全てが人気商品というわけではなく、そのほとんどは年に数個しか売れないような販売数の少ない商品です。しかし、商品1つ1つの売り上げは少なくても、多種多様な商品を取り扱うことによって全体としての売り上げは莫大(ばくだい)なものになります。また、商品を保管する倉庫を地価の安い郊外に置くことで在庫管理のコストを抑えたことも成功につながりました。

・ホームファニシングブランド
ロングテール戦略が成功する事例の多くはECサイトなどですが、実店舗を持つ販売形態で成功した事例もあります。大手ホームファニシングブランドは、地価の安い郊外に倉庫と売り場が一体となった大型の店舗を構えることでロングテール戦略に成功しました。幅広い商品を取りそろえていることに加え、モデルルーム型の商品展示によって購入後の生活をイメージしやすくすることで、大型の家具から雑貨、消耗品まで生活に必要なあらゆるものを一括で購入してもらえるモデルを確立しています。また、地価の安い郊外に店舗を構えて売り場に巨大な倉庫を併設させることで、コストを抑えながら、多種多様な商品の在庫を大量に確保することに成功しました。

・デジタルコンテンツプラットフォーム
動画配信のサブスクリプションサービスを提供するデジタルコンテンツプラットフォームもロングテール戦略に成功した事例です。映画などの動画コンテンツはデータが商品となりますので、在庫管理のコストがかかりません。そのため、マイナーなテレビ番組や映画なども含めた莫大な商品数を維持することができ、顧客のニッチなニーズに応えることができました。この仕組みでは、ランキングが5万位の商品であっても売り上げをあげることができるそうです。

まとめ

マーケティングにおける「ロングテール」は、インターネットによる販売形態が台頭したことで注目されるようになったモデルで、主力商品の売り上げを、その他のニッチな商品群の売り上げの合計が上回る現象を意味します。ニッチな商品を多く取り扱うことで総売り上げを底上げする「ロングテール戦略」は、商品の陳列スペースに制約がなく多種多様な商品を取り扱うことができるインターネット販売に特に適した戦略といえるでしょう。

■執筆者プロフィール
酒井千佳
酒井 千佳(さかい ちか)
フリーキャスター、気象予報士、保育士。
京都大学 工学部建築学科卒業。北陸放送アナウンサー、テレビ大阪アナウンサーを経て2012年よりフリーキャスターに。NHK『おはよう日本』、フジテレビ『Live news it』、読売テレビ『ミヤネ屋』などで気象キャスターを務めた。現在は株式会社トウキト代表として陶芸の普及に努めているほか、2歳からの空の教室「そらり」を主宰、子どもの防災教育にも携わっている。
Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

編集部が選ぶおすすめ記事

注目の連載

  • 恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」

    静岡の名所をぐるり。東海道新幹線と在来線で巡る、「富士山」絶景ビュースポットの旅

  • ヒナタカの雑食系映画論

    祝・岡田将生&高畑充希結婚! ドラマ『1122 いいふうふ』5つの魅力から「この2人なら大丈夫」と思えた理由

  • アラサーが考える恋愛とお金

    「友人はマイホーム。私は家賃8万円の狭い1K」仕事でも“板挟み”、友達の幸せを喜べないアラサーの闇

  • AIに負けない子の育て方

    「お得校」の中身に変化! 入り口偏差値と大学合格実績を比べるのはもう古い【最新中学受験事情】