テレビで「先週と同じ!?」という戸惑いは過去にもあった
しかも、その『水曜日のダウンタウン』の放送で最後に明かされたのは「理由は今年度の番組予算が底をついたため」「7カ所のわずかな違いを全て正解した先着50人へのプレゼントがある間違い探し企画」であること。ライトノベル原作のテレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』における、2009年の「ほぼ同じ内容を8回放送する」エピソード『エンドレスエイト』を連想する人も続出していました。これらはテレビ番組で同じ時間を繰り返す「(タイム)ループ」を視聴者に擬似体験させる一種の実験ともいえるでしょう。そして、映画やアニメではループものは人気の高いジャンルであり、同じ時間を繰り返すことからの「間違い探しができる」「いい意味での戸惑いがある」以外にも、魅力や面白さがたくさんあります。
ここでは、2020年以降に公開された、日本のループもの映画に絞って6作品を紹介しましょう。ひとくちにループものといっても、バラエティ豊かな特徴があることも分かるはずです。
1:『ペナルティループ』(2024年3月22日より劇場公開)
殺された恋人の復讐(ふくしゅう)のため殺人を犯すも、なぜか時間が巻き戻るという、「仇討ち」ものとループものを組み合わせた内容です。序盤から仕込まれた不穏な伏線が次々に回収され、「そういうことか……」と納得しつつも、意外な展開に驚ける過程がキモの作品なので、ネタバレを踏まないまま見たほうがいいでしょう。 やさぐれていながらもどこか純粋さも感じさせる主演の若葉竜也、ミステリアスな恋人役の山下リオも魅力的ですが、さらなる注目は約3年ぶりの映画出演復帰となる伊勢谷友介。今回の「殺され続ける男」の詳細な役柄は秘密にしておきますが、「何かを諦めているような」厭世(えんせい)的な印象は、不祥事で俳優としての活動ができずにいた現実の伊勢谷友介の姿にどこか重なっていて、単なる悪人というだけではない奥行きを持たせています。 低予算で撮られたことがうかがえる公開規模も小さめな作品ですが、意図的に無機質にした画は安っぽさを感じさせませんし、何気なく映り込んでいるものにも意味が込められています。例えば、主人公の冒頭時の仕事である建築模型、あるいはその後の職場である水耕栽培工場は、荒木伸二監督いわく「人間がこれまで自然界で起きてきたことを、自分たちで作った箱庭の中に押し込めて、空間軸や、時間軸をもたせて達観的にコントロールした気になるという事柄」だそうです。 荒木監督の前作『人数の町』(2020年)に続き、ダウナーな雰囲気と深読み可能な味わいは、ハマればたまらない魅力になるはず。「ループものでまだこんな見た事がないパターンがあったのか」と気付かされましたし、「シリアスに見せかけてブラックユーモアもある」映画が好きな人には大推薦します。PG12指定らしく、刃物での殺傷描写がかなり刺激的なのでご注意を。
2:『リバー、流れないでよ』(2023年)
何よりの特徴は、タイムループの間隔がたったの「2分間」かつ「リアルタイム進行」だということ。その2分間でできることはごく限られていて、旅館にいる個性豊かなキャラクターたちは「お酒は“熱燗”にできず“ぬる燗”のまま提供するしかない」「雑炊はいくら食べてもなくならないので飽きる」などの事態に悩まされ続けます。その制約の中で、知恵と体力を駆使してループからの脱出を目指す様はエンターテインメント性抜群でした。
序盤は短すぎるループに対してボケとツッコミの小気味良さにクスクス笑えて、時にはかなりダークかつホラー的な展開に戦慄できるなど、86分という短めの上映時間に面白さが詰まっています。本記事に挙げたラインアップの中でも、最も万人におすすめできる内容です。同じく山口淳太監督×上田誠脚本コンビの『ドロステのはてで僕ら』(2020年)も斬新なアイデアを見事に生かした傑作なので、合わせておすすめしておきます。
3:『神回』(2023年)
こちらで繰り返されるのは「文化祭の打ち合わせの5分間」。初めこそ青春の甘酸っぱい一時を思わせる時間に見えますし、ループものの定番ともいえる、繰り返しの中で試行錯誤をして、なんとか脱出の方法を見つけようとする「謎解き」的な面白さもふんだんにあるのですが……中盤からそうした印象は、いい意味で思いっきり覆されるでしょう。
何しろ、青春の「こじらせ」、はたまた思春期に多くの人が持ち得る「負の感情」、もっと言えば「気持ち悪くてドス黒い感情」が徐々に表出していく内容なのですから。後半のネタバレ厳禁の展開と画は、2度と忘れないほどのインパクトがあります。レーティングはG(全年齢)指定ですが、はっきりと性暴力に関する描写があるのでご注意を。