原作ファンも感涙! 舞台『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』が観客の心をつかんだ理由
2月の東京公演では毎回スタンディング・オベーションが起こり、SNSでも絶賛の声が相次いだミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』。3月の北海道、4月の兵庫公演を前に、舞台版が観客の心をがっちりつかんだ理由を考察します。
シリーズ累計発行部数1億2000万部を誇るコミック『ジョジョの奇妙な冒険』(作・荒木飛呂彦)のミュージカル版が、2月に帝国劇場で上演。3月には北海道、4月には兵庫で上演されます。
東京公演では連日、カーテンコールでスタンディング・オベーションが起こり、SNSでも「ジョジョミュ、一回じゃ足りない」「地方公演のチケットも買った」など、実際に観た人々の興奮冷めやらぬ声があふれました。
本作が長年の原作ファンを含めて、観客から絶賛されている理由とは? 実際の舞台から考察します。
原作ファンも裏切らない、練り上げられた構成
今回舞台化されたのは、1987年から連載されている『ジョジョの奇妙な冒険』の第1部「ファントムブラッド」。産業革命に沸き立つイギリスで2人の少年、貴族の“ジョジョ”(ジョナサン・ジョースター)と貧民街出身のディオ・ブランドーが、古代アステカの〈謎の石仮面〉を巡り対立してゆく、9年間の物語です。
原作はかなりの長編大作ですが、今回の舞台では、休憩含め約3時間半の中で、主なエピソードをほぼ網羅(脚本・作詞=元吉庸泰)。実際にはカットされた部分も多いはずですが、ファンが「ここが無かったら嫌だな」と思うであろう要素がしっかり吟味され、数々の名シーン・名ゼリフはもちろん、ディオの「WRYYYYY」など、本作の名物(?)ともいえる擬音・擬声の数々も登場。原作ファンを裏切りません。
また、ジョジョの父、ジョースター卿が2人の騎士の物語を語るシーンが繰り返し登場することで、「人生は結果が全て」「どう生きるかという過程が重要」という、2つの価値観の対立が本作を貫いていることを、分かりやすく強調。さらには、ディオが暗い野望を抱くにいたった原点とも言える人物もたびたび登場して彼を苦しめ、人間ドラマとしての見どころもたっぷり用意されています。
その上で今回の舞台では、演劇でしばしば用いられる“入れ子”の構造を採用。物語全体が、ある登場人物の“回想”として再現されることで、重厚感や余韻がいや増す舞台となっています。
“生身の人間の可能性”を実感できる、想像力に富んだ演出
原作漫画には、壮絶な闘いやディオの壁歩きなど、「舞台ではいったいどう表現するのだろう?」と興味をそそるシーンが多々あります。
技術の発達した昨今は、映像によって魔法を繰り出し、俳優の演技とぴたりとシンクロさせることで、原作の世界観を舞台で再現することも少なくありません。
しかし今回の舞台では、プロジェクション・マッピングも登場はしますが、それがメインというわけではなく、盆舞台、ねぶた職人による巨大オブジェなどの大道具や、本火などの小道具を駆使しつつ、肝心な部分は、俳優たち自身が体で表現(演出・振付=長谷川寧)。卓越したダンサーたちが集合し瞬時に繰り出す“波紋”など、想像力に富んだ表現で目を楽しませつつ、本作に通底する、生身の人間の可能性が実感できる演出となっています。
耳に残る音楽と、松下優也・有澤樟太郎・宮野真守らの渾身の演技
作曲はフレンチ・ロック・ミュージカルを代表する、ドーヴ・アチア(共同作曲:ロッド・ジャノワ)。ユーロ・ポップ風味のキャッチーかつダイナミックなメロディ・メイカーとして知られ、本作でも耳に残るナンバーがめじろ押しですが、今回はそこにさらにラップを組み込んだ大曲も(音楽監督・編曲=竹内聡)。6人編成のバンドによる生演奏も力強く、“噛み応え”ある音楽となっています。
これらの要素が実を結ぶのも、確かな表現力を持つ出演者たちの、渾身の演技があってこそでしょう。父の高潔な遺志を継ぎ、成長してゆくジョジョ役の松下優也・有澤樟太郎(ダブルキャスト)、小悪党の父に反発しながらも悪の道にのめりこんでゆくディオ役の宮野真守はじめ、歌に芝居、そして身体表現に全身全霊で立ち向かうキャストの姿には鬼気迫るものがあり、特に後半は(ストーリーを知っていても)手に汗握らずにいられないほど、白熱した場面が続きます。
終演後の客席を見渡すと、すぐ座席を立てないほど没入していた男性客もいれば、「○○(俳優の愛称)が、○○が……」と言葉を失っていた女性の姿も。はかなさであったり、哀しみであったり、勇気であったりとさまざまな感情が呼び覚まされ、またこの世界に浸りたいと思える……。そんな新作ミュージカルの誕生です。
公演情報
ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』3月26~30日=札幌文化芸術劇場hitaru、4月9~14日=兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール 4月13日17時、14日12時公演は
LIVE配信も予定。