夢を求めて上京する若者たち。年々、東京一極集中の状態は続いているが、東京に来て10年もたつと、地元に帰りたい人も増えてくる。キャリアを積んだアラサー女性たちは、今何を感じているのか。当事者に話を聞いた。
東京に憧れて上京。それから10年
進学や就職を機に、地元を離れて上京した女性たち。しかし今、筆者の周りから聞こえてくるのは「いずれ地元に帰りたい」という声だ。「マッチングアプリの検索機能を使って、“出身地”が同じ人に絞った婚活をしています」
こう話すのは、筆者の知人・A子さん(31歳/仮名)である。
彼女は愛媛県出身で、18歳の時に都内の大学に進学。卒業後、一度は地元企業に就職したものの、3年後に東京の会社に転職し、現在も都内で暮らしている。
「私が東京で転職したのは、自分の本当に希望する職種が地元にはなかったから。あとは、大学時代の友人たちが東京で輝いているのを見て、うらやましくなったのも本音かも」
20代は仕事に忙殺される日々を送りながらも東京での暮らしを満喫したというA子さん。気づけばアラサーに。29歳あたりから「いずれは地元に帰りたい」と考えるようになったという。
「いずれは結婚して、子どもを持ちたいと思っています。子育ては地元でしたいな、と感じていて。物価の高い東京での子育ては金銭的に厳しそうだし、家族のサポートを受けながら、自分が生まれ育った場所でのびのび育てたい。でも、結婚も決まっていないのに今のキャリアを捨てて、地元に帰ることは考えられなくて……。最近はキャリアより結婚を優先したいという気持ちになりつつあるんですけど」
「東京在住、地元が同じ男性」を求める理由
東京で積み上げてきたキャリアは捨てたくない、でも子育ては地元でしたい……そんなA子さんが思いついたのが「東京在住、地元が同じ男性」をマッチングアプリで探すことだった。「それで、アプリで出身地が同じ男性に絞って婚活をはじめました。1人だけ会った男性もいるのですが、地元トークで盛り上がりつつ、その人は地元に帰る予定はなかったみたいなので、そこから先にはつながらず、でした」
マッチングアプリで自身と同じ価値観の男性に出会うのは「難しい」という現実は分かりつつ、A子さんからはこんな本音も。
「今さら感があるけど、中学・高校時代の同級生で、今東京で働いている独身男性たちに声をかけてみようかなって。このままだとずるずる年だけ取りそうで」
筆者の周囲にも、A子さんのように「いずれは地元に戻りたい」と話すアラサー女性たちが多い。
しかし、地元に戻れば職種が選べず、自身が東京で築いてきたキャリアを生かせないケースも。また、地元にいる同級生たちはみな結婚や出産をしていることも多い。さまざまな理由で、東京に踏みとどまるアラサー女性も多いのだ。
アラサー世代で突如起きる「同窓会マッチング」
そんな中、筆者の周囲で、20代中盤~後半にかけて、上京した高校の同級生同士が結婚する“同窓会マッチング”が起こった。筆者が知るだけでも、上京カップルが3組ほど結婚している。驚いたのは、結婚した2人は学生時代に全くと言っていいほど接点がないことだ。上京後、SNSや同窓会を通じて初めて会話をし、そこから交際に発展している。互いに「いずれは地元に帰りたい」「地元で子育てをしたい」という思考がマッチングした結果だろう。
「それならもとから上京しなければいいのに!」と思う人もいるかもしれない。しかし、若者の東京への一極集中の傾向は強まっている。1月30日に総務省が発表した「住民基本台帳人口移動報告 2023年」によると、31の道府県で人の流出が拡大し、首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)、大阪府、滋賀県、福岡県が転入超過となっている。特に目立つのは、18~22歳という若い世代の首都圏への転入だ。
A子さんや、筆者の地元である愛媛県では、特に若い女性の首都圏への流出が目立っている。
愛媛県の地方自治研究機構が県内の大学生1400人に行った調査によると「愛媛県外で就職・起業したい理由」の1位は「都会での生活にあこがれを感じる(43.1%)」、次いで2位が「希望する業種や職種の仕事が少ない(34.7%)」だった。
「上京した時は『いずれ帰りたいな』と、ぼんやり思っていたくらいだけど、アラサーになると現実的に『帰りたい』と思うようになった」とA子さんは語る。
上京10年目にして、A子さんの中に都会への“憧れ”はなくなった。
上京した女性たちもアラサーになれば現実を知る。結婚や子育てを見据え、Uターンを考えるケースはますます増えそうだ。
この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。