ビジネスシーンにおいて、相手と交渉するスキルのことを「ネゴシエーション」と呼び、そのネゴシエーションを成功させるためには、ネゴシエーションスキルを身につけることが非常に重要となります。
この記事では、ネゴシエーションスキルを獲得する目的や、獲得するために必要とされるスキルについてフリーアナウンサーの酒井千佳が解説します。
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<目次>
・ネゴシエーションの意味とは
・ネゴシエーションスキルとは
・ネゴシエーションの目的
・ビジネスでの「ネゴシエーション」の使い方と例文
・ネゴシエーションに必要なスキル
・ネゴシエーションを成功させるポイント
・まとめ
ネゴシエーションの意味とは
ネゴシエーションは英語で「negotiation」と表記され、日本語では「交渉」「折衝」などと訳されています。「Negotiation agent(交渉人)」「Negotiation arrangement(交渉成立)」といったことばとして使われることから、中には難しい駆け引きや激しい競争で相手を打ち負かし、力づくで合意させるといったイメージを持っている方もいるかもしれません。しかし実際は、互いの言い分や利益を考慮したうえで、双方にとって最善と思える形に落とし込むための建設的な話し合いのことを指しています。
ネゴシエーションスキルとは
先に解説した通り、双方がメリットを感じられるよう建設的な交渉をするための能力を「ネゴシエーションスキル」と呼んでいます。特にビジネスシーンにおいては、外部との取引条件を巡る交渉や、部署間で意見を擦り合わせるための話し合いなど日常的にネゴシエーションが行われており、必要なスキルを習得することでより円滑に仕事を進めることができ、互いの信頼関係にも大きく貢献することは言うまでもありません。
ネゴシエーションの目的
繰り返しになりますが、ネゴシエーションの目的は交渉相手を説得し合意させるためではなく、あくまでも双方がメリットを感じられる交渉を成立させることに重きを置いています。こちらでは、ネゴシエーションの目的について詳しく解説します。・円満な合意を引き出す
ネゴシエーションの最大の目的は、相手から「円満な合意」を引き出すことです。良好な関係を長く続けていきたい相手に対し、こちらの主張を押し通して合意を得たところで、その関係はすぐに壊れてしまいます。一方、どうしても取引を成功させたいからといって、こちらが相手の要求を全面的に受け入れて合意したとしても、そのうちバランスが崩れてしまうでしょう。
そうした事態を引き起こさないためには、互いに納得できるまで話し合いを重ねることが大切です。まずは相手の意見に耳を傾け、こちらが合意できる部分、できない部分を明確にしたうえで、代替案や新案を提案しながら双方が納得できる妥協点を探すこと、それが「円満な合意」といえます。
・WIN-WINの関係を構築する
双方がメリットを感じられる、つまり「WIN-WINな関係」を構築することこそネゴシエーションの目的です。先にもお伝えしたとおり、どちらか一方のメリットが明らかに大きくなるような合意では、その関係性を長続きさせるのは難しくなります。当然、自社としては少しでも多くの利益やメリットを生み出せるポイントに着目したいところですが、いったんその気持ちを抑えて相手の要望を聞き入れ、取引先の利益やメリットも考慮したネゴシエーションを意識しましょう。
・信頼関係の構築
相手との信頼関係が構築されている状態を作り出すことができれば、ネゴシエーションは成功したといえます。ビジネスとは相手とのやりとりがあってこそ成立するものであるため、互いに相手に対し「信用できる」と思える関係を維持することが非常に重要です。どうしても自社や自分の利益を優先して考えがちですが、まずは相手の利益を考えた提案を行い、相手から信頼を得られるよう努めましょう。
ビジネスでの「ネゴシエーション」の使い方と例文
「ネゴシエーション」ということばは、ビジネスシーンで日常的に使われています。また、最近は略して「ネゴ」「ネゴる」「ネゴする」などと表現されることも増えているため、突然言われても理解できるようにしておきましょう。【例文】「ネゴシエーションを重ねた結果、好条件で契約できた。」
「新商品発売までのスケジュールについて、製造部とネゴシエーションを行います。」
「先方から商品値引きについて相談があったので、一度ネゴってきてほしい。」
ネゴシエーションに必要なスキル
建設的な話し合いを行い、双方が納得できるネゴシエーションを行うためには、いくつか必要なスキルがあります。一般的に、新人に比べて経験の長いスタッフの方が契約を取ってくる傾向にあるのは、押さえるべきポイントを理解しているという点も大きいでしょう。では、実際どのようなスキルを身につける必要があるのか、具体的に見ていきましょう。
・観察力
ネゴシエーションにおいて、スムーズに進むかどうかを大きく左右するのが観察力です。ネゴシエーションは、互いのことばの掛け合いによって進められていくものですが、実際は相手の表情やしぐさ、身振り手振りに相手の本音が隠されているということが多々あります。
話しながら相手をよく観察し、ちょっとした変化に気付いて提案を先回りすることで、相手がスムーズにこちらの要求を受け入れてくれることが往々にしてあるのです。多角的な視点から相手を見極められる観察力を養うことで、より円滑なネゴシエーションができるようになるでしょう。
・俯瞰力
高いところから見下ろすこと、つまり広い視野で全体を把握することを「俯瞰」と言いますが、この俯瞰力がネゴシエーションには欠かせません。例えば、ネゴシエーションにおいて、自社に不利な状況で話が進んでいるとしましょう。そうした状況下では焦って感情的になったり、冷静な判断ができなくなったりすることがありますが、ネゴシエーションでそうした姿勢を相手に見せてしまうのは得策ではありません。常に自社や自分の状況を客観的に捉え、異なる角度から提案するなど、代替案を出せる冷静さが求められます。
一方、相手に対しても俯瞰的に観察する姿勢が大切です。自社の利益やメリットばかりに目を向けず、相手の利益、相手が必要としているものについて考慮しながら進めることで、互いに納得できるネゴシエーションとなります。
・妥協点を導く力
双方が合意できるネゴシエーションにするためには、互いに許容できる落としどころを見つけることが大切です。前提として双方に「自社としてはこれだけの利益は出したいが、ここまでであれば妥協できる」というポイントがあるため、それらが合致する妥協点を見出し、相手に納得してもらえるよう話を進めます。
ネゴシエーションを成立させるうえで最も高度なスキルではありますが、このスキルを身につけることで、ネゴシエーターとして自社に大きく貢献できる存在になるでしょう。
ネゴシエーションを成功させるポイント
円滑にネゴシエーションを進めるためには、観察力や俯瞰力といったスキルの習得が必須とお伝えしましたが、実際ネゴシエーションを好条件で成立させるためには、スキルだけでは不十分といえます。こちらでは、ネゴシエーションを成功させるために押さえておきたいポイントについてご紹介します。・妥協できる最低ラインを事前に決めておく
ネゴシエーションを行う際、必ず事前に決めておきたいのが妥協できる最低ラインです。何の準備もなくネゴシエーションを始め、気付けば相手が有利になる条件で話がまとまっていた、こちらが不利になるにもかかわらず合意せざるを得ない状況に陥っていたということがあり、結果的にネゴシエーションが失敗に終わるというケースは珍しくありません。
そうした失敗を避けるためにも「これ以上は絶対に譲歩できない」という最低ラインを決めたうえで、ネゴシエーションに挑むことが大切です。基本的にネゴシエーションで合意すると、長期間にわたってその条件が適応されることになるため、たとえどれほど取り付けたい契約であっても、最低ラインを下回る条件であれば契約を見送ることも視野に入れましょう。
・自分の要求を明確に伝える
どのようなシーンにおけるネゴシエーションであっても、こちらの要求をできるだけ分かりやすく相手に伝えることが重要です。ネゴシエーションでは、こちらが「理解してもらえた」と手応えを感じていても、実際は相手に伝わっていなかったり、意味を履き違えて捉えられていたりすることが多々あります。ネゴシエーションに向かう前に、自分の伝えたいポイントをまとめ、仲間うちでしっかりと話し合って共有しておくと安心です。
・一方的な要求はせず相手の話もよく聴く
ネゴシエーションを失敗に導く最も大きな要因は、こちらの要求ばかりを通そうとする姿勢です。ネゴシエーションは、あくまでも双方が納得した上で合意してはじめて成功といえるものであるため、一方の要求ばかりが通り、もう片方が不利になる状況では建設的な話し合いができず、失敗に終わってしまいます。
相手の主張にしっかりと耳を傾ける姿勢を見せることで少しずつ信頼関係を構築し、相手が心を開いてくれる状況を作り出すことが大切です。
・妥協点を見い出す
ネゴシエーションをするにあたって、こちらが妥協できる最低ラインを用意しているのと同じように、相手も「ここまでなら許容できる」という範囲を決めているはずです。話し合いの中で互いの譲れる部分、譲れない部分を明確にし、互いが納得できる着地点を見極めましょう。
場合によってはなかなか話がまとまらないケースもありますが、その場合は大体の大筋を決めてから細かいポイントに焦点を当てていくと、ネゴシエーションが円滑に進みやすくなります。ついついこちらの主導で話し合いを進めたくなりますが、双方が満足のいく合意となるよう、時間がかかったとしても互いが用意した「妥協できる最低ライン」の擦り合わせを行うことが大切です。
・交渉決裂の場合の対応を決めておく
ネゴシエーションは必ずうまくいくとは限らず、条件が合わずに決裂してしまうことも少なくありません。当然、互いに妥協できる最低ラインを下回る条件であれば合意は難しくなるため、決裂した時の対応についても考えておく必要があります。
とはいえ、ネゴシエーションは会社を背負う立場として臨むものであり、万が一決裂したとしても担当者だけに判断を任せ、責任を負わせるのは賢明ではありません。担当者が安心してネゴシエーションに臨むためにも、会社として対応を事前に検討しておきましょう。
まとめ
ネゴシエーションの意味やビジネスシーンにおける目的、ネゴシエーションを成功させるために必要なスキルなどについて解説しました。建設的な話し合いや交渉を行うためのネゴシエーションスキルは、社外における取引先とのやりとりだけでなく、他部署と連携を取る際にも欠かせません。相手の本音を見極める観察力、状況を客観的に捉える俯瞰力に加え、互いの妥協点を導き出す力を養っておきましょう。ネゴシエーションの目的は、こちらの要求を飲ませることではなく、あくまでも双方がメリットを得られる関係性を構築することにあります。相互に刺激し合って成長するためにも、一方的に要求を伝えるのではなく、相手の要求にも耳を傾けて互いの妥協点を見いだすことが大切です。
■執筆者プロフィール 酒井 千佳(さかい ちか)
フリーキャスター、気象予報士、保育士。
京都大学 工学部建築学科卒業。北陸放送アナウンサー、テレビ大阪アナウンサーを経て2012年よりフリーキャスターに。NHK「おはよう日本」、フジテレビ「Live news it」、読売テレビ「ミヤネ屋」などで気象キャスターを務めた。現在は株式会社トウキト代表として陶芸の普及に努めているほか、2歳からの空の教室「そらり」を主宰、子どもの防災教育にも携わっている。