家族のために「諦めて現状を受け入れる」
さて、そこで想像をしていただきたい。こういう「苦行」のような生活を20年、30年と続けてきた人たちは一体どんな性格になるのかを。中には、「もっと満足度の高い仕事をしたい」「こんな会社やめてやる」と転職や起業をする人もいるだろうが、大多数は「諦めて現状を受け入れる」ということになるのではないか。
確かに、仕事の満足度は低い。職場の人間関係もよくないので居心地は悪い。しかし、だからと言って、会社をやめてしまったら、今の生活が続けられない。住宅ローンも残っているし、子どもの学費も払わないといけない。ということで、歯を食いしばって「現状」を受けれている40〜50代はかなりいるはずだ。
そういう、泥水をすすって生きているおじさん世代からすれば、Z世代たちの「自由な時間で、自由な場所で働いた方がパフォーマンスがいい」「会社から言われたことを、ただやるのではなく、自分の成長を実感できる仕事がしたい」という主張はどう感じるか。
恐らく多くのおじさん世代は、「お前らも結婚して家庭をもてば分かる」「そんなきれいごとが通る世の中じゃねえんだよ」と反感を抱くのではないか。実際、筆者の周りでもそんな愚痴はよく聞く。
これこそおじさん世代が、Z世代の「自由な働き方」を受け入れられない最大の原因だと考えている。自分たちがこんなに不自由な思いをして苦しんでいるのだから、若い世代にも同じ目に合わないと気が済まないのだ。
おじさん思考では「働き方改革」が進まない
このような「世代間の嫉妬」が組織内の悪習・悪癖を定着させることは、さまざまな研究で明らかになっている。京都大学の岩井八郎教授の『経験の連鎖ーJGSS2000/2001による「体罰」に対する意識の分析ー』という論文には、以下のような興味深い事実が確認されている。「不自由な働き方」を20〜30年以上強いられてきたおじさん世代は、心のどこかで「不自由な働き方」を肯定・支持していて、Z世代にも同じ経験をさえたいのである。「暴力を受けた経験」がある者ほど「体罰」に賛成するという傾向があった。「暴力を受けた経験」がある者が「体罰」に反対するという側面は見られなかった
だから、「自由な働き方」を「甘い」「仕事を分かっていない」と否定して、Z世代にも「不自由な働き方」を押し付ける。体罰を受けていたスポーツ選手が指導者になると体罰を繰り返してしまうように。
実はこれこそが、ずいぶん昔から叫ばれる「働き方改革」が遅々として進まない本質的な原因なのだ。
この記事の筆者:窪田 順生
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。