「輿論」とは? 「世論」との違いや正しい読み方、使い方、例文を解説

「輿論」という言葉、実はよく耳にする身近な言葉ですが、あまりピンとこないという人もいるかもしれません。この記事では「輿論」の読み方や意味などをアナウンサーの笠井美穂が解説します。

「輿論」とは? 意味や正しい読み方、「世論」との違いを解説
「輿論」とは? 意味や正しい読み方、「世論」との違いを解説
皆さんは「輿論」という言葉をご存じですか? 実はとても身近な、よく耳にする言葉ですが、あまりピンとこないという人もいるかもしれません。今回は「輿論」の読み方や意味などを、アナウンサーの笠井美穂が解説します。

<目次>
「輿論」の意味・読み方とは?
「輿論」と「世論」の違いは?
「輿論」の使い方と例文
まとめ

「輿論」の意味・読み方とは?

まずは「輿論」の読み方ですが、これは「よろん」と読みます。「輿」という漢字は、訓読みでは「こし」と読み、「神輿(みこし)」などの言葉に使われますが、音読みは「ヨ」で、「大勢の」という意味があります。「輿論」は、漢字の意味の通り、「輿(大勢の)・論(意見)」で「世間一般の意見」という意味を表します。

ところで、「よろん」と読み、「世間一般の意見」という意味を持つ言葉というと、「世論」の漢字を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。現在では、この2つの「よろん」は、ほぼ同じ言葉として扱われています。

国語辞典を確認してみると、

【よろん(輿論・世論)】
世間の大多数の人の意見。
一般市民が社会や社会的問題に対してとる態度や見解。
(『大辞林4.0』三省堂)

とあり、「輿論」も「世論」も同じ言葉として記されています。

「輿論」と「世論」の違いは?

では、「輿論」と「世論」は全く同じ言葉なのかというと厳密には違いがあります。
ここからは、読み方の違いと、意味の違いをそれぞれ解説していきます。

・読み方の違い
まずは、読み方の違いです。

「輿論」と「世論」はもともとは別の言葉でした。まず最初にあったのは「輿論」で、明治時代以前から使われており、現在と同じように「世間一般の意見」という意味でした。これに対して「世論」は、明治時代以降に使われるようになった比較的新しい言葉で、当初は「せろん」または「せいろん」と読まれていました。

昔の国語辞典を見てみると、

【せいろん(世論)】
世間一般の論。輿論(よろん)。
【せろん(世論)】
社会の公共的な問題に関する意見のうち、多数の人がそれを標準的な意見として認め、信じているもの。(中略)輿論(よろん)。
【よろん(輿論)】
世上の多人数が同じくする論。公論。世論。
(『新言海』日本書院)


とあり、意味は非常に似ていますが、「輿論」は「よろん」、「世論」は「せろん」または「せいろん」と読み分けられていたことが分かります。

ではなぜ、現在では「世論」を「よろん」とも読むようになったのかというと、戦後作られた、「当用漢字表」(日常的に使われる漢字の範囲を示した表)の中に「輿」の字が含まれなかったことが関係しています。公の文書やマスメディアで使う漢字表記は基本的にこの当用漢字表にそったものになったため、「輿論」の字は使われなくなりました。そして、「輿」にかわって使われるようになったのが、「よ」とも読む「世」の字で、「よろん」は「世論」と表記するのが一般的になりました。

関連記事:「世論」の読み方は? 「よろん」「せろん」正しいのはどっち? 現役アナウンサーが解説
 
・意味の違い
「輿論」の書き換えとして「世論」が使われるようになったこと、また、もともと「輿論(よろん)」と「世論(せろん・せいろん)」が非常に似た意味で説明されていたことを考えると、この2つの言葉は同じ意味なのではないかと思うかもしれませんが、本来は、それぞれ次のように使い分けられていました。

 輿論:世間で議論された意見
 世論:大衆感情、世の中の空気感

また、それぞれ英語に訳すと

 輿論:public opinion
 世論:popular sentiments

となります。

つまり、客観的な判断の根拠となるような、十分に議論が尽くされた公の意見が「輿論」。根拠が曖昧であっても世の中の多くの人がなんとなく共有している感覚・風潮が「世論」とされていましたが、現代ではそもそもこの2つが明確に区別しにくいこともあって、「輿論」と「世論」の違いは曖昧になっています。かつては「輿論」と表記されていた「よろん」が「世論」と表記されるようになったことに加えて、「公の意見」と「大衆感情」という意味の区別も曖昧になったことで、「輿論」と「世論」が混同され、現在ではほとんど同じ言葉として扱われるようになったようです。

「輿論」の使い方と例文

「輿論」は現在では、基本的には「世論」と同じように使われています。ただ、前述した通り、本来の使い方では「世間で議論された意見」という意味ですから、「大衆感情」というニュアンスの場合は「世論」と表記した方が良いかもしれません。

【例文】
 ・この法案を成立させるためには、輿論の理解を得る必要がある。
 ・この決定は輿論を無視した暴挙だ。

また、現在使われている常用漢字表にも「輿」の字は載っていないため、テレビの字幕や新聞の記事では、どのような意味であっても基本的に「世論」の表記が使われています。現在では、「輿論」という表記を目にする機会は少ないかもしれません。

まとめ

「輿論」の読み方は「よろん」で、「世間一般の意見」という意味です。現在では、「世論」の表記の方が一般的ですので、より多くの人に伝わりやすくするためには「世論」とするのが良いでしょう。ただ、本来の意味を考えると、「世論」は大衆感情、「輿論」は世間で議論された公の意見、と、2つの言葉には違いがあります。公の意見という意味合いを意図的に持たせたい場合は「輿論」の表記を使うのも良さそうです。

■執筆者プロフィール

笠井美穂


笠井 美穂(かさい みほ)
福岡県出身。九州大学文学部を卒業後、KYT鹿児島讀賣テレビに入社。退社後は、報道番組を中心にフリーアナウンサーとして活動。これまでの出演は、NHK北九州放送局『ニュースブリッジ北九州』、NHK BS1『BSニュース』、NHK Eテレ『手話ニュース』、NHK ラジオ第1『NHKきょうのニュース』『ラジオニュース』など。

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