SNSを見ていると、友人たちの幸せそうな投稿が流れてくる。自分と他人と比較し、落ち込んでしまうアラサー世代も多いようだ。だけどその幸せは本物なのだろうか。
SNSでの幸せな投稿は、全て作られたもの?
「毎日ほんと幸せそうだよね」先日、知人たちと食事をしていた時のこと。新婚のA子のInstagram投稿を見て私がつぶやいたひと言に、A子は顔を曇らせた。
「いや、いいことばっかりじゃないよ」
A子のInstagramには、夫との高級レストランでの食事や、デートの様子がアップされている。キラキラした日々の投稿は、思わず嫉妬してしまいそうになるほどだ。
A子はインスタグラマーではないが、フォロワーは数千人いる。知人や同世代の女性が中心だ。
「この前の結婚記念日なんて、夫に当日にドタキャンされてさ。レストランの写真は1週間以上前のやつ」
お酒が進むにつれ、A子は家庭を顧みない夫に対する愚痴を吐くようになる。しかし、スマートフォンの画面に映し出されたA子の日常はまぎれもなく“幸せ”なのだ。
「夫に感謝です」とSNSに書きながらも、現実では愚痴三昧のA子。
SNS上での自分と現実での自分。“2つの自分”の間にギャップを抱えているのはA子だけではない。
子どもの写真をアップしているのに不倫をしている男性
「会社の男性上司(34歳)は、Facebookに奥さんへの感謝や子どもの写真をアップしているのに、社内不倫をしている」こう話すのは、男性の部下として働くB子(20代)さんだ。彼女の上司は、Slack(社内チャットツール)のアイコンも、子どもを抱く自分の写真に設定している。
「Facebookや会社の飲み会などのオフィシャルな席では、妻に感謝とか、今日も娘を保育園に送ってから会社に来たとか、幸せな生活を送る“イクメン”アピールをしている。だけど裏では不倫三昧。常套句は『妻とは終わっている』で、彼の女癖の悪さは社内の一部の女性陣に知られている」
B子さんは上司の行動を「気持ち悪い」と思いながらも、どこかで「ある意味“仕事ができる”人」というイメージを抱くという。
「SNSは、自分をさらけだす場所じゃなくて、自分を“演出する場所”なんじゃないかって思います。上司はそれを上手に利用して自己ブランディングしているんだなって。恋愛や結婚をするとき、上司みたいな男性の言葉には絶対だまされないようにしないとって思いますけど」
SNSの投稿頻度が上がった時期は「失恋直後」
あくまでSNSはリアルではなく、理想の自分をブランディングする場だと語るB子さん。理想の自分を“ブランディング”した経験がある人はほかにも。
「幸せアピールしたくて、頻繁にInstagramのストーリーズを更新していた時期があった」
こう話すのは、前述のA子と一緒に食事をしていたC美(31歳)だ。
C美は3年前、長年付き合った恋人と別れた後、アプリで出会った人とすぐに交際。新しい彼との幸せな日々を頻繁にストーリーズにアップしていた。
「振られた彼に『あなたがいなくても私はこんなに幸せよ』とアピールするために、新しい彼とデートしたことを更新してた。だけど投稿後、ストーリーズの足跡に元カレがいないかどうか探して(笑)。 “幸せアピール”をしていた自分は、全然幸せじゃなかった」
つまりC美は、元恋人のことを忘れられていなかったから、“幸せアピール”をしていたのだ。
このC美の発言に、筆者も、A子も深く共感してしまった。そして、自分たちの投稿を振り返り、SNSを頻繁に更新するとき、自分たちはどんな心理状況だっただろうかと考えた。
「夫に感謝してるだけなら、わざわざインスタに『ありがとう』って書かないよね。目の前にいる夫に言えばいいんだから」というA美。
筆者も自身のSNS投稿を振り返った。SNSを頻繁に更新していた時期を思い出すと、たしかにキャリアに悩んでいた。一方で、更新が減った時期ほど、プライベートも仕事も充実していた。
それは周囲の友人たちも同じかもしれない。知らぬ間に幸せな家庭を築いていたり、仕事で成功を収めたりする人がいる。彼らのSNSは存在しないか、しても更新頻度は低い。そもそもリアルが充実している人はSNSで“幸せアピール”なんてする必要がないのだ。
今日もA子のInstagramには幸せな新婚生活の様子が流れている。投稿には「すてきな夫婦。うらやましい」といった見ず知らずの同性からのコメントがつく。
A子の投稿は、いったい誰に向けた“アピール”なのだろうか。
※回答者のコメントは原文ママです
この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。