どうする学校?どうなの保護者? 第11回

「義務教育は無償」なはずでは? 保護者から徴収したPTA会費で「学校に物品寄贈」の問題点

毎年秋頃に行われる学校の「周年行事」。PTAは学校から記念品の寄付を求められることがありますが、実は現状のPTAの寄付には法律上の問題点もあります。また、教育委員会に言えばちゃんと予算が付くという声も聞こえてきます。関係各所に取材しました。

PTAで払うと、補正予算で補てんするのは難しくなる

では実際、自治体の中で、学校予算はどんなふうに付くのでしょう。東北地方のある町で、教育委員会の施設・予算管理を担当するMさんに聞いてみました。

「高額でも本当に学校運営に必要なものであれば、議会に補正予算を要求します。予算の要求は、最終的には首長が要不要を判断して、議会の議決を経て決定されます。

議会は基本年4回なので、すぐに対応が必要な場合は、予備費をあてるか、他の科目からの流用で乗り切り、次の予算で補正予算を組んで埋め合わせます。でも、PTAで払ってしまうと、後から町の予算で補てんするのはかなり難しくなる。ですから、PTAでお金を出す前に、まずは教育委員会に相談です」

ただし、教育委員会にいるのはMさんのような人ばかりではないことも。中には財政担当者でもないのに、学校からの要望を「お金がないから」と断ってしまう人もいたといいます。となると、教育委員会に予算を求める時は、できるだけ財政担当者に直接話すのがいいかもしれません。

「周年行事の費用の相談も受けたことがあります。以前は保護者や地域の方などから寄付を募っていたところ、児童生徒数も減って寄付では賄えなくなったので、一部予算を出して欲しいと。この時は教育長から首長に相談し、教育委員会の財政担当課長から町の財政担当課長に相談し、最後は首長から指示が出て、議会の議決を経て、予算の増額が認められました」

なるほど、ちゃんと手順を踏めば出るわけです。といっても、もちろん何にでも出るわけではありません。このケースは「こんなに努力をしたけれど不足した、というふうに、きちんと経過の説明があったからうまくいった」とのこと。

「予算を取るために大事なのは『根回し』と『話し合い』と『妥当な落としどころの見極め』です。小さな自治体なら、PTAや保護者は、議員や首長に直談判するのも効果的だと思います」(Mさん)

どの自治体でも同様にいくか分かりませんが、われわれはもっと、学校に予算が付く方法を考えたほうがよさそうです。PTAで気安くお金を集め、学校に寄付をする前に、ダメもとでトライしたいところです。

782人が参加して盛り上がった、お金をかけない周年行事

そもそもを考えると、「周年にそこまでお金をかける必要があるのか」という問題もあります。お金をかけずに、学校の創立を祝う方法もあるのでは。

例えば習志野市立第七中学校では、2019年に40周年を迎えた際、「学校のお誕生日なんだから、みんなでお祝いしよう」ということで、これまでの卒業生や先生たちにSNSを使って声をかけたところ、なんと782人が参加。告知用につくったLINE公式アカウントには、2500人もの登録があったとか。

当日は体育館や校庭などで大人の部活動を開催したり、参加者全員で校歌を歌ったりして大いに盛り上がり、さらに先生たちからのメッセージ動画やイベントの様子をまとめた動画も配信して、当日参加できなかった人にも楽しんでもらったということです。

このイベントを企画した、当時のPTA会長・齋藤いづみさんは、こう振り返ります。

「すごくよかったです。先生も大勢来てくださって、あちこちで教え子さんと交流をされていて。お金をかけなくてもこういうことができるんだ、ということを体現できたと思います」

周年は10年に一度のことなので、PTAの役員さんたちは「とりあえず引き継ぎ書のとおりにせねば」とプレッシャーを感じがちですが、実はいろんなやり方ができるわけです。アフターコロナの今が、変えどきかもしれません。
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この記事の執筆者:大塚 玲子 プロフィール
ノンフィクションライター。主なテーマは「PTAなど保護者と学校の関係」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。
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