「都会に行ったらなにか変わる」アラサーで直面する“答え合わせ”
押しつぶされる満員電車の中、ふと、こんな思いがよぎったことはないだろうか。「私、なんでここ(東京)にいるんだっけ?」
筆者は、東京で成し遂げたい大きな夢があったわけではない。ただ、漠然とした都会への憧れや「都会に行ったらなにか変わる」といった思いに突き動かされ、進学とともに上京した。
同じように、進学や就職で筆者と同時期に上京してきた友人の中には、大きな夢を持っている人もいた。東京にしかない一流企業で働きたい、芸能関係の仕事がしたい、東京の男性と恋がしたい……。中には、地元や親が嫌いで飛び出してきたという子もいたけれど、上京してきた人たちに共通していたのは、東京に対して、“夢”や“憧れ”を抱いていたということだ。
しかしアラサーに差し掛かった今、その“夢”や“憧れ”は現実に変わりつつある。多くの友人たちは、夢に挫折し、別の道を歩み始めている。いつの間にか地元に帰った友人も多い。
21歳で上京するも、タレント活動に挫折した32歳女性の今
「大学卒業とともに、上京して、タレント活動をしていました。今は挫折して会社員です」こう語るのは、ミツキさん(32歳/会社員)だ。彼女は東北出身で、専門学校時代、地元の観光誌やミスコンなどに出場。周囲が就職活動をする中、芸能活動をすると決意し、21歳で上京した。
「東京でアルバイトをしながら、タレント活動をしていました。そんなに仕事はなかったけれど、レースクイーンの仕事や時に撮影会モデルをやりながら、なんとか食いつないでいた時期もあります」
タレントとしての収入はそんなに多くなかったが、東京でできた彼と同棲していたこともあり、家賃などの支出は0。貯金はなかったが、夢を追いかける自分が好きだった。その彼と別れた後も、乗り換えるようにして次の彼ができた。
会社員になり、手取りは20万円台。「家賃を払うために働いている」
しかし、気づけば30歳に。ミツキさんは、週3回のアルバイトと、たまに入るモデルの仕事やPR案件などを受けながら「そろそろ地元に戻ろうか」と思うようになった。そんな時、人気恋愛リアリティー番組のオファーがあり、参加することに。人気タレントを輩出したこともあるこの番組に、今後のタレント人生をかけてみようと思ったのだ。「独身で恋人がいないことが条件のため、当時付き合っていた彼と別れて、参加しました。しかし結果は惨敗。知名度を獲得するどころか、デジタルタトゥーが残ってしまった」
その後、ミツキさんはタレントの仕事をやめた。恋人もおらず、地元に帰ろうかと悩んだ時期もあったが、東京にあるエンターテインメント系の会社に就職を決意。彼女が地元に帰らないのは、こんな理由があった。
「地元に帰ろうと思ったけれど、地元に帰るといまだにタレント扱い。しかも30歳を超えた友人たちはほぼ全員結婚しているんです。私の居場所はなくて」
ミツキさんは今の状況を「家賃を払うために働いている」と表現する。
「今は会社に近い1Kのマンションで1人暮らしをしています。オートロック・バストイレ別は必須。そうなると家賃は安くても9万円。手取りは20万円台。今は家賃を払うために仕事をしているみたいな感覚になる。それでも地元には帰りたくないし、東京でエンタメの仕事に触れあっていることへの“やりがい”がある」
ミツキさんは、いまだに地元に帰ると、友人たちからは「きれいだね」「すごいね」と声をかけられるそうだ。
「人生こんなはずじゃなかった、という思いは常にある。でも、テレビに出ただけで地元では有名人なんです」