All Aboutニュース編集部では、子育て経験者160人を対象に「子どもの性教育」に関するアンケートを実施(調査期間:2023年8月10~11日)。「子どもの『性』に関して専門家に聞いてみたいこと」を募ったところ、「家庭での性教育は必要だと感じているものの、何からどう始めたらいいか分からない」といった声が多数寄せられました。
この記事では、そうした「家庭での性教育」にまつわる悩みや疑問について、助産師/性教育YouTuberとして活躍中のシオリーヌさんにお答えいただきます。
Q. 性教育を実施するのに適したタイミングを知りたい
子どもの性格や成長、環境はさまざまなので、性教育の内容について、万人に適応するルールや正解はないと考えています。特に家庭で行う性教育は、学校教育のように「今日は〇〇について話します」と改まって伝えるものではなく、日常会話の積み重ねです。
「学校のカリキュラムに合わせて話さなくては」と考えすぎる必要もないと感じます。例えば生理など第二次性徴の話は小学校高学年で扱いますが、もっと早い段階で子どもから質問されたらそのタイミングで話してもいいでしょう。性教育は、言葉によるコミュニケーションが取れるようになった時にはもう始まっているものだと思います。
「○歳で○○を1回伝えればOK」ではなく、性やジェンダーに関する価値観は日常生活の中で少しずつ育まれていくもの。自分と異なる体の構造を持つ人にはどんなことが起きているかを知ることも、将来的に役に立つのではないでしょうか。
「繰り返し伝えられること」が家庭での性教育の一番の強みだと思います。
Q. 妊娠のしくみについては、いつ、どのように話せばいい?
性教育にルールや正解はないとはいえ、いつ、どのように伝えればいいのか分からないという人も多いかもしれません。そんなときに目安となるのが、『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』。性教育には国際的な基準があります。このガイダンスでは、公的な教育の中で「○歳くらいの子には、こんな教育が提供されているとよいだろう」という目標が具体的に書かれています。
例えば、妊娠のしくみは小学生低学年頃に伝えるのが国際基準となっています。中学生頃になると、妊娠のしくみを知ったうえで、「妊娠を望むか」「性行為をしたいか」「どういう行動をとるべきか」などを自分自身で考え、計画を立てるのが目標です。
『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』は日本語でも記載されています。日本の性教育の現状と比較すれば、日本の性教育が“後れている”といわれる理由がよく分かると思います。
子どもにどれくらい踏み込んだ内容を話してよいものかと悩んだときは、参考にしてはいかがでしょうか。
Q. どんなテンションで性の話題に触れたらいい? 改まって話すべき?
「性教育は特別で大切なものだから」と必要以上に意気込んだり身構えたりしてしまいがちかもしれませんが、実はそこまで肩に力を入れなくてもいいものだと思っています。いつでもどこでも、日常生活で「手を洗ってね」「野菜も食べてね」などと言うのと同じテンションで話していいものだと思うのです。
例えば一緒にお風呂に入る年齢の子であれば、プライベートゾーンを洗うときに「洗ってもいい?」と聞いたり、「大切なところだから自分で洗えるように練習しようね」と声をかけたりするのも、1つの性教育でしょう。また、テレビのニュース番組で性に関する話題が出てきたときに、さりげなく話題にしてもよいかもしれません。
性やジェンダーに関する価値観は、日常生活の大人の言葉や振る舞いから子どもに伝わっていくもの。生活に関わる話題の一部として、世間話として話していくのはいかがでしょうか。
親自身が性教育を受けた経験がない場合、気軽に話すのは難しく感じるかもしれません。子どもに性教育しようとする前に、まずは大人が性について学んでみることもおすすめです。
Q. 異性の子どもに性教育をする際、気を付けたほうがいいことは?
思春期になり、「異性の親から性の話をされたくない、聞きたくない」という様子が見られることがあります。同性の親から話すことができる関係性なら、そのほうがスムーズな場合も多いでしょう。もし同性の親がいなかったり、話すことが難しい状況であったりする場合は、学校の保健室の先生や担任の先生、かかりつけの産婦人科医や泌尿器科医など、周囲の力を借りてもらえたらと思います。
「親と性に関する話をしたくない」と感じるタイミングは、同性の親が相手であってもあるでしょう。子どもの様子を観察しながら「今こういう話をしてもいい?」と、事前に確認することは、異性であっても同性であっても大切です。
Q. すでに子どもが思春期に。今からどんなふうに性教育を始めればいい?
性に関する話題を家庭内で全くしてこなかった関係性で、思春期の子どもに対していきなり話を切り出すのは勇気がいる場合もあるでしょう。そんなときは、性に関する正しい情報を説明してくれるコンテンツの力を借りるのも1つの方法です。Webサイトのリンクをシェアしたり、書籍を買って渡してみたりするなどもおすすめです。
家庭での性教育を考えるとき、何より大切なのは子どもにとって「なにかあったときに相談できそうな大人」でいることだと感じます。「今後、なにか困ったことがあったら、言いづらいかもしれないけどいつでも相談してほしい。絶対に怒らないで味方になると約束するよ」と伝えるだけでも、大切なメッセージになるのではないでしょうか。
もし思ったようなリアクションが返ってこなくても、子どもは意外としっかり聞いてくれているかもしれません。
Q. 性に関するおすすめの動画や本を教えてほしい
アメリカのNGOが製作している性教育のアニメーション。YouTubeで日本語吹き替え付きの動画を見ることができます。1本あたりの動画は短めで、扱っている話題が幅広いです。イラストもポップなので、幼いうちから見られると思います。
・【性教育ドラマ】ユースクリニックへようこそ
性の知識を盛り込んだ性教育ドラマ。若い年代の方々に向けて制作しました。中高生が身近に感じるような性に関するトラブルや悩みごとを取り上げています。YouTubeチャンネル「【性教育YouTuber】シオリーヌ」で公開中。
・『だいじ だいじ どーこだ?』(大泉書店)
性教育の入門としておすすめの絵本。プライベートゾーンに関する基本的な知識を学ぶことができます。
・『いいタッチわるいタッチ』(復刊ドットコム)
同意のない相手へのタッチや、相手を傷つけるスキンシップとはどういったものなのかを考えるヒントになります。
・『マンガでわかるオトコの子の「性」』(合同出版)
男の子の第二次性徴に関する悩みにQ&A方式で回答してくれる本。男の子への性教育について考えたい人におすすめです。
・『生理だいじょうぶブック』(小学館)
第二次性徴を迎える女の子に向けた本。生理のこと、体の変化のことをやさしく教えてくれます。
そして、私の著書『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』(イースト・プレス)も参考にしていただけるとうれしいです。性に関する基礎知識を盛り込んだ1冊となっています。若い世代の皆さんや、子どもと接する大人の皆さんに読んでいただきたいです。
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この記事の監修者:シオリーヌさん
助産師/性教育YouTuber 株式会社Rine代表取締役 総合病院産婦人科、精神科児童思春期病棟で勤務ののち、全国の学校や企業で性教育に関する講演・イベントの講師を務める。性教育YouTuberとして性を学べる動画を配信中。2022年10月、性教育の普及と子育て支援に取り組む(株)Rineを設立。著書『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』、『こどもジェンダー』ほか。
この記事の筆者:古田綾子
雑誌・Webメディアの編集者を経てフリーランスライター。2児の母。子どもの受験をきっかけに教育分野に注力。自らの経験に基づいた保護者視点で、教育界の生の声やリアルな体験談などを取材・執筆。