日本で初めてトランス女子学生を受け入れた「お茶の水女子大学」
こうした考えに基づき、2018年、お茶の水女子大学が日本で初めてトランス女子学生の受け入れを表明。翌年には奈良女子大学と宮城学院女子大学が、2020年には日本女子大学もこれに続きました。
2022年5月17日開催の「トランスジェンダー排除にどう対応するか ―大学、メディア、当事者・支援者の視点から―」というオンライン討論会で、お茶の水女子大学の石丸径一郎教授や日本女子大学の小山聡子教授も語っていましたが、こうした決定に至るプロセスとしては、学内で委員会を設けて意見を集め、学生、教職員、保護者への説明会なども行い、意思のすり合わせにしっかり時間をかけています。
また、奈良女子大学の三成美保教授は、受け入れ後も特にトラブルはなく、学生からの反応もとてもよく、「奈良女を誇りに思う」といった声も寄せられたと語っています。
津田塾大学の取り組みは「降って湧いた」ような話ではない
津田塾大学は、女性の高等教育を目指す私塾である日本初の私立の女子高等教育機関「女子英学塾」として1900年に設立されました。創立者の津田梅子氏が掲げた「男性と協同して対等に力を発揮できる女性の育成」を目指す大学です。
時代の要請に応え、新たな道を開拓していく女性を育成するための基本方針「Tsuda Vision 2030」で、「変革を担う、女性であること」というモットーを掲げています。
今回のトランス女子学生の受け入れ決定にあたり、高橋裕子学長は「性に多様性があるということを社会全体でどのように理解を進めていけるのか。多様な女性の在り方を包摂していく過程で、自らの力量を信じて真摯(しんし)に前進していけるよう支援していく。それが、21世紀の女子大学のミッションであると考えます」とコメント。「アライ(=支援者)の鑑」とも言うべき力強い支援の言葉に、胸が熱くなる思いです。
津田塾大学では2017年から検討を始め、2022年度までに学生・教職員向けの説明会や講演会、2つのキャンパスでの多目的トイレなどの整備を進めてきたそうです。
受け入れに関しては、学内の教職員で構成する「トランスジェンダー学生対応委員会」が性自認の確認をし、入学後の学生生活で支障が発生しないよう、志願者と面談を行い、大学の情報も提供します。入学後も、委員会と学生が話し合い、関係部署などと協議して対応。施設面では、相部屋となっている学生寮には入寮できないことになっています。
当事者ではない学生も含めた相談窓口を明示し、在学生や教職員への啓発も実施。当然のことながら、本人の意に反して性的指向・性自認を他者に暴露する「アウティング」行為は、ハラスメントとして対処されます。
このように、津田塾大学の取り組みは、なにも「降って湧いた」ような話ではありません。
トランスジェンダーに関するアメリカの女子大学の取り組み、世界の支援的な施策の趨勢(すうせい)に鑑み、日本学術会議や女子大学連盟総会などで話し合いが行われ、全国の女子大学の間でトランス女子学生の受け入れというイシュー(社会的課題)が認知・共有されました。気運が高まった結果、学内で検討が始まり、話し合いや、関係者への丁寧な説明などのプロセスを経て、ようやく実現したものです。
あらゆる生徒が自分らしい道を進めるような社会に
ここまで読んでいただいた皆さんには、全国の女子大学の取り組みの意義を理解し、納得していただけたのではないかと思います。少なくとも、シスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と性自認が一致している人)の男性が性自認を偽って入学するなどという荒唐無稽な言いがかりを信じる人はいないはずです。
まだ受け入れを決めた女子大学は数えるくらいしかないのですが、今後、同様の対応をしてくださる学校がもっと増えていくことを期待します。
そして、生徒たちが性別ゆえにやりたいことを選択できなかったり、進学の道を閉ざされる悔しさを味わうことがないよう、ニュートラルな世の中になること、あらゆる生徒が性別やジェンダーアイデンティティにかかわらず、自分らしい道に進み、生き生きと学生生活を送れるようになることを願っています。
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この記事の執筆者:後藤純一 プロフィール
All Aboutのセクシュアルマイノリティ・同性愛ガイド。アウト・ジャパン執行役員。京都大学卒業後、ゲイ雑誌編集者、校正者などを経て、Webメディアを中心にライターとして活躍。過去に、東京のレインボーパレードの実行委員やHIV予防啓発などのコミュニティ活動にも携わる。