LGBTQ差別は、れっきとしたパワハラ。企業が必ず知っておくべき「SOGIハラ」「アウティング」とは?

LGBTQへの理解を広げるための社会的な取り組みの基本理念を定めた「LGBT理解増進法」が成立しました。しかし、実は以前にもLGBTQの差別を禁止する法律は制定され、企業にもSOGIハラやアウティングの防止策に取り組むことが義務づけられてきました。その内容について詳しく解説します。

6月16日に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案(以下、LGBT理解増進法)」が国会で可決され、23日に公布、施行されました。


LGBT理解増進法は理念法であり「努力義務」とされている法律ですが、実は以前から企業のLGBTQ差別禁止に関する法律は少しずつ整えられ、職場でのLGBTQ差別の防止策に取り組むことがすでに義務化されています。具体的にはどんな内容なのか、キーワードとなる「SOGIハラ」「アウティング」などの定義も含めて解説していきます。
 

LGBT理解増進法以前に、「企業の義務を定めた法律」がある

性の多様性という名称が入った(LGBTQに特化した)法律ができたのは今回のLGBT理解増進法が初めてですが、実は以前から少しずつ、職場でのLGBTQ差別の禁止につながるような法律が整えられています。
  
2014年、セクシュアルハラスメント関連の指針について前進がありました。男女雇用機会均等法の「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(=セクハラ指針)の改定において、同性間の言動も職場のセクハラに該当すると見なされるようになったのです。

以前はセクハラといえば、「男性(女性)が女性(男性)に対して行うもの」といった固定観念がありました。しかし、セクハラは同性間でもあり得るし、例えば同性愛者の従業員に対して同性の上司が性的ないやがらせを行うようなケースもあり得るので、きちんと「それはセクハラです」と言えるようにしなくてはね、ということを法律として定めたものです。

2017年1月には人事院規則が改正され、国家公務員についてはLGBTQ差別がセクハラ、すなわち「やってはいけないこと」だと認められるようになりました。これは大きな前進だったといえます(一方、同時期に実施された民間企業におけるセクハラ指針の改正は、そのような内容にはなりませんでした)。
 

SOGIハラ、アウティングとは?

2019年には、事業主にパワーハラスメント防止の措置を義務づける法律(以下、パワハラ防止法)が成立しましたが、画期的なことにSOGIハラ、アウティングもパワハラであると見なされました。

SOGI(ソジ)とは、性的指向および性自認のこと。「SOGIに関するマイノリティ」「SOGIに関する差別の解消」といった表現をすることもあり、SOGIについてのハラスメントは略して「SOGIハラ」と呼ばれています

また、アウティングとは、本人の了解を得ずに性的指向・性自認(SOGI)を第三者に暴露する行為のことです。2016年、ゲイであることを同級生に暴露された(アウティングされた)後、差別を受ける不安から心身に変調をきたし、最終的に校舎から転落死した一橋大学法科大学院の学生の両親が訴訟を起こし、社会問題として認知されるようになりました。

パワハラ防止法は措置義務ですので、取り組みを怠っている企業に対して都道府県労働局による助言、指導、勧告などが行われることもあり得ます。

同法の指針で示されたSOGIハラの例は、以下のようなことです。

・相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含め、人格を否定するような言動を行うこと

・SOGIを理由に、労働者に対して、仕事から外し、長期間にわたって別室に隔離したり、自宅研修させたりすることや、1人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること

・「彼氏(彼女)はいるの?」など交際相手について執拗(しつよう)に問うこと


こうしたSOGIハラやアウティングを防ぐための措置として、

・SOGIハラやアウティングがあってはならない旨や懲戒規定を定め、周知・啓発すること

・相談窓口を設置し周知するとともに、適切に相談対応できる体制を整備すること


などを行う義務があるのです。

ちなみに「社内でのSOGIハラに対して労災の認定が下りた」「上司からアウティングを受けた当事者の方が行政に申し立てを行い、会社が謝罪する」といったケースもすでに起こっています。


>次のページ:LGBT理解増進法の対策前に、企業がまず取り組むべきことは?
 
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