日本の音楽シーンをけん引する傍ら、CMやバラエティ番組にも引っ張りだこの西川貴教さんと、悲劇の将軍(『鎌倉殿の13人』NHK総合)から二重の人格を持つ科学者(ミュージカル『ジキル&ハイド』)まで演じ分ける若手演技派、柿澤勇人さん。
経歴も持ち味も異なる二人がこの夏、ミュージカル『スクールオブロック』に(ダブルキャストで)主演します。
同名の大ヒット映画が原作
原作は2003年に大ヒットした、ジャック・ブラック主演の同名映画。臨時教師になりすました“売れないミュージシャン”が、名門進学校で子どもたちにロックを熱血指導……という破天荒な展開の中に、大人たち、子どもたちそれぞれの“悩み”や“本音”が織り込まれ、幅広い層から愛され続ける快作です。
7月4日のプレライブイベントでは、共演の子どもたちと共に熱気あふれる生ライブを行った西川さん、柿澤さん。終演後の興奮冷めやらぬ中、大人顔負けの演奏を聴かせた子どもたちの“すごさ”から自身の子ども時代の思い出、そして本作が“現代の悩み多き子どもたち、大人たち”に投げかけるものまで、ざっくばらんに語ってくれました。
“元気のかたまり”な子どもたちにタジタジ!?
イベントでは子どもたちの生バンドとの息もぴったりだった西川さん、柿澤さん。手応えのほどは……?西川貴教(以下、西川)「楽しかったね」
柿澤勇人(以下、柿澤)「気持ちよかったです」
西川「子どもたち、すごく引っ張ってくれるんですよ。僕ら大人はふだん、“見える位置に指揮の方いらっしゃいますか?(今回は)指揮モニ(ター)ですか?”とか気にしたりするけれど、彼らはそんなこと気にせず、自分たちでぐいぐい回すから。バーンって、気持ちいいくらいのびのび演奏してるよね」
柿澤「水を得た魚みたいでした(笑)」
西川「もちろん、リズムがよれたり、足りないところもあるけれど、今第一線で活躍してるアーティストたちが子どもの頃、あれほどの演奏ができたか? と考えると、かなりレアなレベルだと思います。ケイティ役の(ダブルキャストの)二人なんか、楽器と同じくらいの体の大きさなのに、ベースがバンドを支配する大事なポジションだって分かって弾いている。僕なんか、若いころは“ベース=ギターを挫折した人が演奏するもの”みたいなイメージしかなかったもの(笑)。ドラムのフレディ役の二人も、余計なことをせず、ソロの部分を十分聴かせてくれます。立派なものですよ」
柿澤「実は僕のおいっ子もピアノと歌を習っているので、今回のオーディション、受けてみたらと勧めていたんです。結局、“恥ずかしい……”と言って受けなかったんですけどね」
西川「僕のバンドメンバーの息子さんはオーディション、受けてましたよ。最終審査まで行ったけど、合格した子たちよりちょっとだけお兄さんだったんです。そういう点も含めて厳しく選び抜かれた子たちだから、稽古でも物すごく積極的だよね。休憩になる度、一発目に“鴻上さーん!”と演出家(鴻上尚史さん)のところに質問に来る女の子もいて、“女優だなぁ……”って(笑)。彼・彼女たちの姿を見て、自己肯定感の低い僕は“こんな歳して引っ込み思案もよくないな”と思って頑張っています(笑)」
柿澤「僕、子どもは大好きなんです。でも10分も一緒にいるとへとへとになるくらい、あの子たちは元気で個性豊か。“私を見て~もっとやらせて~”という子も多いけど、一方で“俺、いいっす”ともじもじしてる子もいて(笑)」
西川「そうかと思えば、360度カメラみたいに“常に僕を見てもらわないと困ります!”みたいな子もいて、面白いよね(笑)」
柿澤「この舞台を子どもたちが観たら、同じくらいの年齢の子たちが芝居して、演奏も頑張っている姿を見て、刺激を受けるんじゃないかな。僕のおいっ子にも観てもらって、何か感じてくれるものがあるといいなと思っているんです」
祖父との週末が“生きる目的”だった西川さん
西川さん、柿澤さん自身はかつて、どんな小学生だったのでしょうか。西川「カッキー(柿澤勇人さん)は、都会育ちでしょ?」
柿澤「はい、そうですね」
西川「(滋賀県出身の)僕は極めて典型的な田舎に住んでいて、小学生の頃は何にも考えていなかったなぁ(笑)。でも、近所で“町のおまわりさん”をやっていた祖父が大好きで、週末になる度、じいちゃんの家に泊まりに行っていました。日曜の『サザエさん』が始まるころ、家に呼び戻されるのが嫌で嫌で(笑)。土曜の夜と日曜にじいちゃんと過ごすのが生きる目的、という子どもでした。警察官のじいちゃんに喜んでもらえると思って剣道をしたり、一緒に写経したりもしましたね。
あまりにおじいちゃん子だったからか、同年代との友だち付き合いはあまり得意じゃなくて。学校では無理をしてはやっているものの話や、聴きもしない音楽の話をして、一生懸命みんなに合わせていました。僕にとって、学校は“これくらいなら許してくれるかな~”というところに“合わせに”行く場、という感覚でしたね」
“自由な学校”に触発された柿澤さん
柿澤「そうなんですね。少し意外です。僕は小学校、すごく好きでした。通っていた学校が自由な校風で、時間割の中に“遊び”や“散歩”という時間まであったんですよ。“遊び”の時間には、一人で読書していてもいいし、サッカーしたい人が10人集まって5対5で試合をやったりしてもいい。何をしてもOKでした。あと、“劇”の時間もあって、年に一度の学芸会をめざして、オーディションから脚本、照明といった裏方も含め、自分たちでやるんです。僕はサッカー少年だったけど、合唱部にも入っていたので、劇の時間も楽しみでした。あの頃は楽しかったなぁ。
人生のてっぺんだったかもしれない。その後は落ちる一方で……(笑)」
西川「それはないでしょ!(笑)」
柿澤「それくらい楽しかったんです。あのころ何でもやりたがって、いろいろなことを学ばせてもらったのが、当時は夢にも思わなかったけど(俳優という)今の仕事につながっているような気もします」
別れの後に、運命の出会いが……
西川「僕は親から“あれをしなさい、これをしなさい”と言われることもなく、マイペースに育っていたけど、小学校高学年の時に挫折がありました。大好きだったじいちゃんががんで亡くなって、生きる目的がなくなり、途方に暮れてしまったんです。でも、することが無くなった週末のある日、ふと家にあったラジオに目が留まって。つけてみたら、当時FMで、土曜の夕方にビルボードのヒット曲や、映画のサントラをかけっぱなしにしている番組が流れていたんですよ。
それを聴き始めて、親父に内緒でカセットテープに録っていったら、『フットルース』や『フラッシュダンス』のサントラ・アルバムが出来あがって。それで音楽に傾倒するようになったんです。じいちゃんとの別れが、バンドを始めるきっかけをくれたのかもしれません」
夢があるなら、挑み続けること。僕らだって、もがき続けてます
『スクールオブロック』で主人公が出会う子どもたちや校長先生は、一見エリートですが、人知れずさまざまな悩みや“もやもや”を抱えています。本作はそんな“もやもや”解消のヒントをくれる作品なのかも……?西川「今の時代、何かと人のせいにしがちじゃないですか。社会のせいでやりたいことが分からないとか、やりたいことがあっても実現できないとか。でも、求められているものはたくさんあるのに、選り好みしてるだけかもしれないし、何かになりたいんだったら努力しないといけない。降って湧くようなものなんて何もないんですよ。
今回共演する子どもたちは自己主張のふるいにかけられて残った、とんでもなく自己評価の高い子たちだけど(笑)、その分、努力しているんです。やりたいことがあるなら、頑張るしかない。夢をつかむって、そんなシンプルなことなのかもしれないですね。
あと、子どもの頃はよく“どこまでやれば夢に到達できるか”という努力目標の話をされるけど、どこまで掘ったら宝石が出るかなんて、掘った後ならわかるけど、当事者には“あと数センチ”“数ミリ”なんて分からない。やるしかないんです。大人だって、そういうところでもがき続けているんですよね。
僕らは表に立たせていただいているから、いろいろかなった人だと思われるかもしれないけど、そんな僕らにも悔しかったり、かなわなかったりしたことはたくさんあります。誰もが夢をかなえたいけれど、自分の夢がかなうということは、誰かの夢がかなわなかったということでもあるわけで。そんなふうに、いろんなことを感じていただける作品かもしれません」
柿澤「かつて夢を追いかけていた大人たちにとって、懐かしさを抱く部分もある作品だと思います」
特大の花火を打ち上げて、皆で盛り上がれたら
西川「でも、決して重苦しいものではないです。コロナ禍の間、僕らはエンタメの存在意義についていろいろ考えさせられましたが、この作品に関してはとにかく、みんなに盛り上がって楽しんでもらいたい。チケット代に見合う、もしくはそれ以上のものを持って帰っていただけたらそれでいいんです。8月に開幕する時は花火のように打ち上がって、大千穐楽を迎える10月にはふわっと消える。僕ら自身、“は~疲れた、でもいい思い出になった”となるような気がしますね」
柿澤「演出の鴻上(尚史)さんはブラック校則も脚本作品の題材の一つにされてきた方なので、そういう(学校教育に対する)メッセージも込めていかれるかもしれないけれど、まずは(主人公の)デューイが暴れまわる姿に、思い切り笑っていただければ。
音楽好きの方には80年代くらいの、ちょっと懐かしい感じのロックも楽しんでいただけると思うし、親子でいらっしゃる方が、家庭での会話が増えたり、親御さんが子どもさんの“やりたいこと”“好きなこと”に耳を傾けようと思っていただけたらむちゃくちゃうれしいです。
個人的には、やることがとても多いことに稽古に入って気づいたので、全部覚えられるか心配ですが(笑)、“人生のスパイス”になる舞台をお届けできると思うので、楽しみにしていただきたいと思います」
<公演情報>
ミュージカル『スクールオブロック』8月17日~9月18日=東京建物Brillia HALL 9月24日~10月1日=新歌舞伎座