鉄道博物館(埼玉県さいたま市)では、2023年6月24日から9月25日まで鉄道博物館新収蔵資料展「鉄道写真家・南正時作品展 ブルートレイン 夢の旅路へ」を開催している。これは、南正時氏が鉄道博物館に寄贈した膨大な作品の中から傑作を厳選して展示するもので、2021年および2022年に行われた「蒸気機関車のある風景 東日本編」「同 西日本編」に続く第3弾である。
ブルートレインの誕生から終焉まで
ブルートレインとは、青い車体の寝台特急列車の愛称で、1958年に特急「あさかぜ」(東京~博多)に投入された20系客車以降の固定編成客車(14系、24系24形、24系25形)により編成された列車のことだ。最盛期は1970年代で、全国に運転網を広げ、1988年の青函トンネル開業後は「北斗星」などの列車が北海道へも直通するようになった。
SL全廃後は、若年層の鉄道ファンを中心に「ブルートレインブーム」が到来し、南氏も書籍や鉄道趣味誌に多くの作品を残している。その後、昭和から平成へ、20世紀から21世紀へと時代は移り、2015年8月の「北斗星」臨時列車の運転を最後に、ブルートレインは57年の歴史に幕を下ろした。
今や思い出と化したブルートレイン。その「夢の旅路」を写真や資料、展示品によって振り返ってみたい。
写真展の見どころ
ブルートレインの走行写真は、多くの写真家や鉄道ファンが撮影しているので、それほど珍しくはなかろう。とは言え、現在と比べると、写真撮影がまだまだ一般的ではなく、フィルムが高価で撮影枚数を制限せざるを得ない時代の写真には貴重なものがある。
例えば、本来の撮影目的だったSLの直前にやってきたDF50形ディーゼル機関車けん引のブルートレイン「富士」を撮影した1枚。他の撮影者が目を向けなかった被写体ゆえに今日貴重なカットとして重宝されている。
また、列車を陰で支える人たち、すなわち機関士、車掌長(カレチ)、車掌補、食堂車のクルー、機関車交換に関わる駅員、さらに乗客たちの様子は、あまり残されていないので貴重だ。国鉄時代の夜行列車の勤務の状況や昭和の旅行風景、往時の社会状況が克明に記録されていて実に興味深い。
多くの写真は、フィルムで撮影したものだ。デジタルカメラで撮影した写真に見慣れていると、やや物足りなさを覚える人がいるかもしれない。しかし、フィルム撮影ならではの味わい深さ、何よりも芸術性や撮影者の被写体に対する思いやりや人生観がにじみ出ている。鉄道のみに凝り固まった偏狭でマニアックな生活からは産み出されない上質な作品群をじっくりと鑑賞していただければと思う。