20年にわたる追跡調査で判明! 将来の収入にも影響する、小学生が“通塾や受験勉強以外”にすべき体験

文部科学省により公表された「21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)特別報告」。小学校高学年においても体験活動は重要で、子どもの非認知能力の成長に良い影響があることが分かりました。

幼児期だけじゃない! 小学校高学年の時期における「体験活動」の重要性

2023年3月、文部科学省により公表された「21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)特別報告」(*1)。

この研究は、2001年に生まれた子のうち約5万人を20年にわたり追跡したもので、今回は約2万4000人(20歳時点)が回答をしてくれました。同じ子どもたちを長期間追跡することにより、変化の状況を継続的に観察できる、とても意義ある調査といえます。

今回はこの研究から、子どもに将来幸せになってもらいたいと願う親御さんたちに向けて、子育てに役立つヒントを紹介します。中でも興味深いのは、「学童期の体験活動とその後の非認知能力等に関する分析」です。
 

将来の「収入」にも影響が? 学力テストでは測りにくい「非認知能力」

「非認知能力」というのは、IQテストや学力テストで測れる「認知能力」の対概念で、ペーパーテストでは測りにくい能力の総称です。

例えば、自分を信じる力、自己肯定感、学習志向性、やる気、集中力、自制心、理性、がまん強さ、感情をコントロールする力、粘り強く頑張る力、やり抜く力、協調性、思いやり、共感力、想像力、コミュニケーション力、聞く力、応用力、楽観性、レジリエンス、失敗から学ぶ力、創造力、工夫をする力、などなど。

IQテストや学力テストでは測れない力、というイメージが何となく湧くでしょう。そして、社会に出て活躍したり、周囲と良い関係性を築いたりするためには、こうした非認知能力の方がペーパーテストで測れる力より重要そうだ、ということも想像できるのではないでしょうか。

実際、将来の成功や幸福度・満足度が高い人生を送るためには、非認知能力が認知能力以上に重要であることがさまざまな研究で示されています。

例えば、かのジェームズ・ヘックマンの研究によると、将来の「収入」および「健康状態」との関係は、「IQの高さ」よりも「自制心」や「想像力」といった「性格特性」の方が強いそうです(*2)。

また、中国・上海にある華東師範大学の研究者らによると、「やり抜く力」が高い人ほど「主観的な幸福感(subjective well-being)」が高い傾向が見られたそうです(*3)。

小学校高学年も意図的・計画的に「体験活動」の充実を

では、非認知能力はどうやったら高められるのでしょう。これに関しては、現在研究が進められている段階で、十分な方法論やエビデンスが確立しているとはいえない状況です。

そんな中で今回の報告では、小学生の段階での「体験活動」が非認知能力の向上につながったかを分析する貴重な研究結果だったと思います。
 
研究の内容を引用すると

・小学校高学年の時期における各種の体験活動の経験は、その後の非認知能力等に関してよい影響を及ぼす可能性がある結果となっている。

具体的には、
-小学校6年生時点で「自然体験」や「文化的体験」を経験することは、20歳までの時点における「自尊感情」、「精神的回復力」、「がまん強さ」、「精神的健康」のいずれに関しても、プラスの効果が見られた。

-小学校6年生時点で「社会体験」を経験することは、20歳までの時点における「精神的回復力」、「がまん強さ」、「精神的健康」のいずれに関しても(「自尊感情」に関しては20歳の時点においてのみ)、プラスの効果が見られた。

・小学校高学年の時期においても、意図的・計画的に体験活動の機会を充実させていくことで、子供の非認知能力等の向上を図っていくことができる可能性があることが示された。

とのことでした。
 
簡単にまとめると、小学校高学年になっても体験活動をさせておくと、子どもの非認知能力の成長に良い影響があるよ、ということです。
 
ここでいう「自然体験」「社会体験」「文化的体験」の3つの体験活動の内容と回答割合は表の通りです。

■3つの体験活動の内容と回答割合
【出典】21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)特別報告(文部科学省)​​​​​
そしてその影響が、次の分析結果の通りです。

■3つの体験活動の効果に関する分析結果
【出典】21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)特別報(文部科学省)
【出典】21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)特別報告(文部科学省)

体験の種類によって、伸びる能力が違うというのも興味深いですね。どれも良い影響がありそうですから、一番効率がいいものだけを選ぼうとするのではなく、バランスよくさまざまな体験をさせてあげるのがよいでしょう。

ただし、子どもは嫌がることをやらせても成長は見られないものなので、無理強いしないよう気をつけましょう。興味に合わせて、自然体験、社会体験、文化的体験のどれを重点的に取り入れるのかを考えてみるのもよいですね。
 
こうした体験活動は、教育投資の効果・効率性の観点から、「幼児期」への注目が集まっていました。要するに、時間やお金をかけるならば幼児期に体験をする方が効果が大きく、コスパが良いという考えです。しかし、今回の報告を見ると「小学校高学年」における体験にも十分大きな効果があることがうかがえます。
 

中学受験生は、認知能力×非認知能力で伸びる!

小学6年生といえば、中学受験にチャレンジする子たちは、勉強漬けになりがちで、なかなか体験活動に時間を割くことは難しい時期です。だからこそ、子どもの人生を幸せなものにするためにも、意識的に体験活動の時間を確保して、非認知能力を伸ばしていきたいものです
 
美術館・博物館めぐりは、理科・社会の学習にもつながります。キャンプのような自然体験も、「火の燃え方」「川の地形」「星座」などなど、生きた体験から学ぶ知識が多いでしょう。

認知能力と非認知能力が合わせて伸びるので、一石二鳥ですね。

音楽鑑賞やスポーツ観戦などは、親子の楽しみや勉強の息抜きとして、ご家族でのお出かけにもおすすめです。「子どもの成長のために」という理由で自分が興味のないものをやろうとしてもうまくいかないと思いますので、親御さんもご自身で楽しめるものを選んでください。

>20年にわたる大規模調査で判明! 人生が幸せになる子ども時代の体験

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