意図的な「高偏差値」にだまされるな! 難関校に見せかける「偏差値操作」に中学受験塾講師が警鐘

多くの心ある学校はそんなことはしませんが、実はその気になれば、学校が偏差値を意図的につり上げることが可能です。偏差値が決まる仕組みを解説します。

多くの心ある学校は、偏差値をつり上げたいとは思っていないが……

学校を選ぶ大事な基準である「偏差値」。限られた受験チャンスの中、この学校はどの程度の合格見込みがあるのかを把握し、適切な受験戦略を立てる上で欠かせない指標です。
では、「偏差値とは一体何なのか」を正しく説明することはできるでしょうか。テストの成績が良いと偏差値は高いらしい。偏差値が高い学校は難関校だ。それくらいのぼんやりしたイメージしかない人が大半ではないでしょうか。
 
たしかに、そのイメージは大体合っています。しかし、正確なものではありません。ましてよくある「偏差値が高い学校=良い学校」という考えは、間違っています。

なぜなら学校の偏差値は、まるで粉飾決算か、あるいは利益を得るために人為的操作された仕手株のように、意図的につり上げることができてしまうからです。
 
今回は、学校の偏差値の決まり方と、意図的につり上げることもできてしまうその仕組みをお伝えします。「偏差値=学校の価値」といったイメージを覆すお手伝いをしようと思いますので、偏差値に振り回されない受験校選択をするためにお役立てください。

「80%偏差値」の決まり方

塾は次の表のように、その学校に偏差値いくつの子が何人受験して、そのうち何人の子が合格したかをもとに、受験した子の80%以上が合格する偏差値を算出し指標にしています。

※表は比較しやすいよう、偏差値59と57のところだけ合否の人数を変えて、それ以外の数字は全てそろえています。
A中学校とB中学校、偏差値が高いのはどっち?(筆者作成)
A中学校は、偏差値59の子が50人が受けて、40人が合格しました。また偏差値57の子は80人が受けて、40人が合格しました。B中学校は、偏差値59の子が50人が受けて、36人が合格しました。偏差値57の子は80人が受けて、44人が合格しました。

偏差値表で数字が高くなる学校は、どちらだと思いますか? 
A中学校とB中学校、偏差値が高いのはどっち?(筆者作成)
正解は「B中学校」です。

なぜかというと、受験した子たちの合格率が80%を超えるラインが、A中学校は偏差値59、B中学校は偏差値60のところだからです。ですから理論上は、A中学校の偏差値は59、B中学校は60ということになります。

両校を見比べると、 B中学校の方が低い偏差値で合格している子が多く、偏差値が足りなくてもチャンスがありそうだと思いませんか?その印象に反して、B中学校の方に高い偏差値がつきます。

これが塾が出している、受験した子の80%以上が合格する偏差値、いわゆる「80%偏差値」の考え方です。必ずしも、「偏差値が高い学校=入りにくい学校」ではない、ということがお分かりいただけるのではないでしょうか。

次に、この80%偏差値の決まり方を前提に、学校の偏差値をつり上げる禁断のテクニックについてお話しします。

偏差値をつり上げるテクニック1:入試日程を増やす

まず「入試回数を増やす」と、それだけで偏差値は上がります。
 
例えば、ある中学校を600人の子が受験をしたとします。学校側はそのうちの300人程度に合格を出すとします。もし試験が1回だけであれば、その受験者のうち「300位以内の子」が合格できることになります。
 
これを3回の入試に分けて、それぞれ合格者を200人、80人、40人と設定し、同じく600人の子が受験したとします。実際の入試では、1回目だけ受ける子もいれば2回目だけ受ける子もいて、入れ替わりがあるものですが、話を分かりやすくするために、この中学校へ入学を希望する子たち600人だけが合格するまで3回とも受験をすると仮定します。
 
そうすると、600人の中で学力250位の子は、入試が1回だったら300位以内に入っているため合格していたのが、入試が3回に増えると、1回目の合格者の枠は200名なので不合格となり、2回目でようやく合格できます。また300位の子は、3回目でようやく合格します。
 
実際に入学する子たちが同じでも、それぞれの入試の合格率はグッと下がるのが分かりますか。それはつまり、その学校の80%偏差値の“上昇”を意味します(次ページの表参照)。
 
入試回数を増やせば他の学校と併願しやすくなるため、多くの学校は、受験生のメリットのために受験日程を複数回用意しているのですが、偏差値をつり上げる手段にも使えてしまうのですね。
 

偏差値をつり上げるテクニック2:コース制にする

次のテクニックは、「コース制」にすることです。「医学部進学コース」や「東大進学コース」のような上位コースを作り、そこの定員を別枠にしてしまうのです。

例えば、2月1日午前に50名の定員で生徒を募集するとして、それを20名、30名と分割します。そして、上位コースを受けた子たちも、一定以上の成績であれば「スライド合格」という形で普通コースへの合格を出す形にします。そうすると「もしかしたら」という期待で上位コースを受ける子が多くなります。
 
この中学校に入学したいと思って受験する生徒が100名いたとして、コースを分けなければ「100名中50名が合格できた」ことになりますが、コースを分けると上位コースは「100名中20名しか合格できなかった」となるわけです。
 
上位コースだけ見ると倍率がグッと上がるのが分かりますよね。実際に入学する子たちが同じでも、「偏差値の高い特別コースがある学校」の出来上がりです。
 
もちろん、ニーズに応えるためにこうした上位コースを設置するのは受験生にとっても良いことです。どういう強みがある学校なのかが分かりやすくなります。しかし偏差値をつり上げる手段にも使えてしまうのです。

偏差値に振り回されない受験校選択が大事

このように偏差値は、その気になれば学校が意図的につり上げることが可能です。そんなものに踊らされてもいいものでしょうか。
 
もちろん多くの心ある学校は、偏差値をつり上げて良い学校に見せかけたいとは、本当は思っていません。しかし、受験生や保護者が偏差値で評価するようであれば、学校側も選んでもらうための施策を打たなければいけなくなります。

また、筆者のような塾側も、高い偏差値の学校に合格する子が多いことが評価されるのであれば、難関校の受験をおすすめして、合格実績を稼がなければいけなくなります。値段が安くて品質が良いお買い得商品をおすすめしてくれるお店と、高価格な商品の購入をグイグイおすすめしてくるお店では、良心的なのは前者でしょう。 私たちも、その子に合う教育方針・教育環境を備えていて、その価値に対して偏差値は低い「お買い得」な学校をおすすめしたいのです。

しかしお客様に選ばれるのが、難関校の合格実績がよい塾であれば、経営戦略として高い偏差値の学校を受験させる方針の塾が多くなります。現場の先生たちも、仕方なくその方針に従わざるを得なくなります。
 
こうした状況は結局のところ、受験生や保護者のためにならないのではないでしょうか。偏差値の本当の意味を理解し、良い学校選び・塾選びができる人が増えていくことを願っています。

「高偏差値」ができるカラクリとは……
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