城田優が「10キロ痩せても届けたいと思える」、三刀流で挑むミュージカル『ファントム』の魅力

繊細さとスケール感を兼ね備えた演技で、幅広く活躍する城田優さん。その代表作の一つが、一人の青年の悲しい愛を描くミュージカル『ファントム』です。「三刀流」で本作に挑む城田さんへのインタビューをお届けします。

城田優 | 2003年に俳優デビュー以降、テレビ、映画、舞台、音楽など幅広く活躍。近年の舞台に『キンキーブーツ』『カーテンズ』、あいまい劇場 其の壱『あくと』『ブロードウェイと銃弾』など。ドラマに『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS)『カムカムエヴリバディ』(語り手/NHK)など、映画に『コンフィデンスマンJP英雄編』『バイオレンスアクション』などがある

繊細さとスケール感を兼ね備えた演技で、テレビドラマに映画、舞台にと幅広く活躍する城田優さん。特に近年『エリザベート』や『キンキーブーツ』等、大作ミュージカルで圧倒的な存在感を放つ彼の“代表作”の一つと言えるのが、2014年、2019年に主演し、今夏再び挑む『ファントム』です。
 

パリ・オペラ座の地下に棲む怪人の悲恋物語といえば、映画化もされたロイド=ウェバー版の『オペラ座の怪人』が有名ですが、本作は同じガストン・ルルーの小説を、モーリー・イェストンが異なるアングルから描いたミュージカル。城田さんは本作に強い愛着を持ち、2019年版では“怪人”エリック役に加えて演出も担当。さらに今回は日替わりでエリックの恋敵・シャンドン伯爵も演じます。
 

ファンのみならず、業界全体がどよめいた“三刀流”にあえて挑む心境とは。そしてそこまでして届けたい、本作の魅力とは? 怒濤(どとう)の稽古期間を前にした城田さんへのインタビューをお届けします!
 

『ファントム』あらすじ

19世紀後半。パリの街角で楽譜を売っていたクリスティーヌは、その歌声を聴いたシャンドン伯爵に見出され、オペラ座へ。
 

望んでいた歌のレッスンは受けられず、プリマドンナであるカルロッタの衣裳係にされてしまうクリスティーヌだったが、ひそかにファントム(エリック)のレッスンを受け、やがて才能を開花させる。しかしカルロッタの陰謀でクリスティーヌのデビューは悲惨なものとなり、傷心の彼女はファントムに連れられ、オペラ座の地下世界へ……。

『ファントム』

前回は10キロ痩せながらも“二刀流”を達成

2019年公演では主演に加えて、演出も担当した城田さん。舞台では心なしか、少し痩せて見えましたが……。
 

「稽古期間中に、10キロ痩せました(笑)。稽古が始まると自分の時間ってほぼ皆無で、演出をしているか、ファントム役の稽古をしているかのどちらかですが、割合としては9:1という感じかな。休憩時間も出演者の方々が“ここはこういう解釈でいいですか?”と確認にいらっしゃったり、演出助手と“次の段取りは……”と打ち合わせたりで、トイレに行く暇もなく、気が付けばご飯も食べていなかった、という感じで。
 

演出している時も、たくさんの出演者の方々を一人一人、ちゃんと見ようと思いながら、脳をめちゃくちゃ動かしてノートをとっているので、すごい消費カロリーなんですよ。みるみるうちに痩せていって(笑)、見かねた(ダブルキャストのファントム役で、料理上手で知られる)加藤和樹(さん)が、毎日お弁当を作ってきてくれました。さすがに手作りのお弁当を残すという選択肢は僕の中にはなかったので、打合せしながらいただき、おかげで生きながらえました。今回も和樹が支えてくれるのでは……、と期待しています(笑)」
 

個人的には「最後のファントム役」です

二刀流ですらそれほど大変だったというのに、今回は日替わりでシャンドン伯爵役も演じ、“三刀流”に挑む城田さん。
 

「正気じゃないですよね(笑)。制作側からシャンドン役もと提案されて悩みましたが、作品がよくなる可能性があるならやるべきだし、(三刀流が)成立した時の景色も見てみたい、と思ったんです。
 

僕はファントムも演出も既に手掛けているので、不安要素があるとしたらシャンドン役だと思われるかもしれませんが、僕の中には自信があります。これまで“城田は王子様っぽい”とか“ナルシストっぽい”とよく言われてきましたが、そういうイメージを生かして、死ぬほど格好いいキャラクターを創り上げられると思っています。
 

不安なのは、コロナ禍がどこまで落ち着いているか。僕の演出では客席で芝居をするところがあるのですが、それができないとなったら、僕の中では全ての演出がパズルのように繋がっていて、客席で芝居をしている時に舞台上で転換をしていたりするので、“どうしよう……”となるかもしれません。
 

ファントム役に関しては、個人的には、今回が最後だと思っています。声高に言うと閉店セールみたいでいやらしいので(笑)、『エリザベート』の時も“今回が卒業公演です”とは言いませんでしたけれど、自分で判断して身を引きました。“もう二度と観られないかもしれないものを観る尊さ”をお客さまには味わっていただきたいです。それがミュージカルの醍醐味(だいごみ)の一つだと思っています」
 

その瞬間に湧き上がる感情を生かした“城田版”

ロイド=ウェバー版とは異なり、本作ではファントム(エリック)の過去が描き込まれているのが特徴。なかでも少年時代のエリックが初めて自分を見るシーンは衝撃的です。
 

「彼は(世間から)隔離されて育つのですが、それでも両親や従者たちの姿は見ているので、“人間の姿はこういうもの”というイメージはあると思います。そんな中で(水に映った)自分の顔を見た時に、あまりにも彼らとは違っている。
 

どう違うか、で勝負しているわけではないのでお芝居としては見せないようにしていますが、実際には特殊メイクで皮膚の色も形状も、かなりひどいことになっています。エリックは人間の自然な反応として“うわっ”となり、“僕、どうしてこういう顔なの……”とショックを受ける。彼の悲劇がスタートする瞬間が、本作にははっきりと描かれています」
 

もう一つ、『オペラ座の怪人』ではファントムとクリスティーヌの間にどこか“父と娘”的な関係性が見受けられるのに対して、本作では“母と息子”的なものが見られる点でも大きく異なります。
 

「初めてクリスティーヌの歌声を聴いた時、彼は亡くなった母の歌声を思い出したのだと思います。実際、本作には母が歌っていた子守歌が登場します。
 

ファントムはいつしか彼女の中に“母”を見いだすようになりますが、クリスティーヌの側も、基本的に彼に対しては母性を抱いていただくよう、前回、キャストの方々にリクエストしました。クリスティーヌは二幕でファントムの過去を知り、“私はあなたの味方になる。あなたを守る”と心に決めますが、十分な経験値もないまま行動してしまうことで、かえって彼を傷つけてしまいます。それでも彼女の中に、彼は母を見続けているんです」
 

(※以後のコメントの中には終盤の“ネタバレ”も含まれますので、未見の場合はご注意ください)

『ファントム』前回公演より。撮影:田中亜紀

「終盤にクリスティーヌはファントムを腕に抱きながら歌を歌うのですが、ここでは子どもを寝かしつけるみたいな感覚、“安心していいよ”という感覚で歌っていただくようお願いしました。聴いているファントムとしては、ここではもう完全にクリスティーヌに母が乗り移っています。2幕頭でクリスティーヌから母性愛を注がれた時は、拒否して拒否して最後に受け入れる……という感じでしたが、このシーンでは何もそういうものはなくて、何十年ぶりかに感じた愛情をただ、受け入れて、安心してラストシーンを迎えています。……と今、話していても“うぅ……”となってしまうほど、ここはぐっとくるところです。
 

最後の演出については、クリスティーヌ役の方自身がその瞬間、何を感じるかによって変わりました。彼を異性として愛おしく思うのか、それとも母性的な思いがあふれるのか……。そういう感じで、その瞬間に起こったこと、芽生えた感情に対してリアクションをする、ということを前回公演では皆で大切にしていました。今回もそういう舞台をお見せできればと思っています」
 

<公演情報>
ファントム』7月22日~8月6日=梅田芸術劇場メインホール、8月14日~9月10日=東京国際フォーラム ホールC

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