表向きはダフ屋対策だけど……
ゆりこ:表向きは「ダフ屋を儲けさせないため」。例えば定価1万円のチケットがあるとして、ダフ屋がそれを10万円で転売できたら9万円の利益が手に入る。かなりおいしいですよね。でもそのチケット価格が変動するようになりお客さんが“正規ルートで”10万円、それ以上で買うようになったら?
矢野:ダフ屋の仕事(?)がなくなりますね。転売目的でオークション的な争奪戦に参加したとしても、買値以上で売れる保証がないし、売れたとしても仕入れ値そのものが上がっているから利益は減る。
ゆりこ:そう。そして従来はダフ屋に流れていたお金の多くが主催側へ流れるようになります。「チケットマスター」では購入者がライブに行けなくなった場合などにリセールをかけることができるのですが、その際の売買にも手数料が発生するので、販売サービス側も儲かるという仕組みです。
矢野:ダフ屋対策というより、主催側がダフ屋状態になっていませんか?
ゆりこ:そこですよね、ファンたちが納得いかないのは。結局ファンのお財布からお金が出ていくのは一緒なのです。もちろんダフ屋の懐より、主催側が潤うことでアーティストやサービスに還元されるのは良いことなのかもしれませんが。
矢野:本質的にダフ屋対策をしたいのであれば、別の手段もあるんじゃないの? とは思いますよね。SNSや記事で回ってくる例はごく一部なのかもしれませんが、なにせ高騰後の金額がエグい。利益目的を疑ってしまいます。
ゆりこ:先ほど矢野さんがおっしゃった歌舞伎やオペラの例。お手頃に見られる席もありますが、基本的な価格設定と敷居は高めですよね。そういった大人がお金を積まないと楽しめない芸能があっても良いと思うんです。でもK-POPに関しては未成年のファンも多い。若い世代がお小遣いやバイト代で見られるエンタメであり続けてほしいなと願ってしまいます。10代、20代で出会って感動した音楽やステージは、その先の人生の支えや指針にもなりますから。
矢野:今のK-POPに触れて育った若者から、次の何かが生まれる可能性もありますし。そういった機会を失ってしまうのは避けたいですね。そもそも今の日本のチケット価格だって、決して安いとは言えないですよ?
ゆりこ:K-POPに限らずいろんな界隈のオタク、ファンがよく言う「(自分は推しの)ATM」というワード。あれ、内輪の自虐トークで笑っているうちはまだ大丈夫なんですよ。ただ、それが冗談じゃなくなって本当に心とお財布が疲弊してくると、どんなに熱狂的だった人でもスッと去る日が来る。そうなるとファンダム全体が衰退するのも時間の問題です。
矢野:今回の「ダイナミックプライシング」の話が、対象国ではない日本のファンの間でも物議を醸したのは、根底に金銭的な負担への疲労感があったように感じます。ファンがお金を出してこそ、アーティストやスタッフが食べていけて、活動も続く。それも事実かもしれませんが、限度がありますよね。
ゆりこ:推し活ブーム(?)の記事が増えたかと思えば、最近は「推し活疲れ」の話題をよく見るようになりました。そこに対して、まだうまく言語化できていないのですが、「資金問題」は深く結びついていると思います。
矢野:では次のテーマは「推し活とお金」にしませんか。僕もとっても気になっている部分です。みなさん実際にいくらぐらい費やしているんだろう、どうやって資金を工面しているのかなど。
ゆりこ:はい。私の実体験や周りのファン仲間の例を踏まえながら、K-POPオタクの金銭事情についてお話しさせていただけたらと思います。追っているグループ数やそのときの熱量、年代によっても個人差が出る部分ですが、共通するポイントや課題もあると思いますので、早速取材してみます!
【ゆるっとトークをお届けしたのは……】
K-POPゆりこ:韓国芸能&カルチャーについて書いたり喋ったりする「韓国エンタメウォッチャー」。2000年代からK-POPを愛聴するM世代。編集者として働いた後、ソウル生活を経験。
編集担当・矢野:All Aboutでエンタメやメンズファッション記事を担当するZ世代の若手編集者。物心ついた頃からK-POPリスナーなONCE(TWICEファン)。