日本の性教育は、国際的な基準から見て「後れを取っている」といわれています。文部科学省が定める学習指導要領における「はどめ規定」によって、中学校までの公教育では妊娠にいたるまでの具体的な経緯について取り扱わないことになっているためです。
近年では、相次ぐ性加害問題の報道などからも「現行の性教育」が問題視され、その重要性が叫ばれるようになってきました。実際に、All About編集部が男女500人に行ったアンケート調査においても「性被害・性加害に関する認識も含め、日本の性教育は十分に行われていると思いますか?」という問いに対し、82%の人が「十分に行われていない」と回答しています。
そもそも、性教育とは具体的に何を指すのか、現在の性教育の問題点、今後の展望などについて、助産師や性教育YouTuberとして活動するシオリーヌさんにお話を伺いました。
>日本の性教育は十分に行われていると思う? 500人の回答を見る
そもそも「性教育」とはどんなもの?
ーアンケートでは、性教育がどんな内容を取り扱うものかよく分かっていない、という意見も多く集まりました。そもそも「性教育」とはどんな内容なのか、具体的に教えていただけますか?シオリーヌさん(以下省略)「性教育というと、多くの人が『生理のこと』『妊娠出産の仕組み』といった、性にまつわる体の仕組みを教わるという認識を持っていると思いますが、それは性教育のごく一部にすぎません。
ユネスコが定めている『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』は性教育に関する国際的なスタンダードとされていますが、その内容を見ると、性教育は幅広い内容に及ぶことがよく伝えられています。
例えば、1人1人の人権に関すること、多様な性のあり方、ジェンダー、価値観や文化、性暴力を受けたときの対処などにいたるまで、さまざまな要素があります。
私たちが自分の体をもって、他の人とも関わり合いながら社会で生きていくために欠かせない知識が包括的に含まれているのが「性教育」であり、どんな国に生まれた子どもたちにも最低限こういった知識が伝えられる社会にしていく必要がある、ということが発信されているわけです。
ですので、日本でも、ガイダンスに基づいた『包括的性教育』が広がっていく必要があると感じています」
日本の性教育はなぜ後れている? 「はどめ規定」がもたらす影響は?
ー日本の性教育は、どうして後れているのでしょうか。具体的に、何が教えられていて、何が教えられていないのか、現状の性教育の内容について教えてください。「先ほどお話しした通り、性教育は本来、幅広い内容を取り扱うものです。しかし、日本にはその内容を網羅するような教育プログラムがそもそも存在しないことが、問題点の1つといえますね。
また、『体の発達』という部分だけで見たとしても、日本は学習指導要領の『はどめ規定』によって、十分な内容が教えられていないのが現状です。例えば、中学校の保健分野で『性』に関することを教えるときには、『受精』『妊娠』は取り扱うものの、卵子と精子がどうやって出会うのかという『妊娠にいたるまでの経過』、つまり“性行為”については取り扱わないことになっています。それがあるからこそ、教科書の中で、妊娠の仕組みに関して具体的に学ぶことができない状況があるのです。
ただし、『はどめ規定』を含む学習指導要領は、『これ以上の内容を絶対に教えてはいけません』という拘束力があるものではありません。それぞれの教育現場で、もっと具体的な内容を教えていく必要があると判断した場合には、教材などを取り寄せ、生徒たちに伝えることは可能です。実際に、そのような教育を実践してくださっている先生たちも日本中にたくさんいます。
しかしながら、そもそも『はどめ規定』によって性教育にハードルが存在していることは事実なので、そこは1番の問題点だと感じています」
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