性被害の証拠は何を残しておくべき?
ー性被害に遭った後「証拠を持っておくのが重要」というお話をよく耳にします。具体的に、何をしておくのがいいのでしょうか。「実際にレイプや痴漢被害に遭った後など、『気持ち悪いから、一刻も早くお風呂に入ってしまいたい』『着ていた服を捨ててしまいたい』という気持ちになることは、もちろんあると思います。しかし、それによって、『犯人を捜す』といった後々の行動が取りづらくなってしまうのも事実ではあります。
今後の自分の選択肢を残しておくためにも、少し立ち止まって状況を整理し、ワンストップ支援センターに連絡して、その段階で今残しておくべき証拠は何なのかを相談するのが良いと思います」
ーレイプや痴漢被害には、「その日着ていた服」などが証拠として考えられますし、セクハラ被害などには「メールやLINEのやりとり」も含まれそうですね。
「はい、メールなどのやりとりも証拠になります。
被害を受けたとき、それを『なかったことにしたい』と思うのはごく自然なことで、被害を思い出すようなやりとりは全て消してしまいたい、と感じる人は多いと思います。ただ、時間がたって、『加害者を訴えたい』と思ったとき、証拠を消してしまったことを後悔する人もいらっしゃるんですよね。
ですので、『今後、被害届を出したい』と感じるのかどうか、被害を受けた時点で明確に決められない場合には、誰か信頼できる人にデータが入ったUSBを渡しておくとか、自分の目のつかないところに置いておくとか、そういった方法で完全にデータを消してしまわないようにするのも1つの方法だと思います」
被害に遭った後、行動を取った“タイミング”も有力な情報になり得る
ー被害に遭った後の行動も、後の自分の選択肢を残すという意味で大切なんですね。その行動を取る早さ、タイミングなども重要なのでしょうか。「そうですね。これは、被害に遭った方の負担が大きいことなので、それ自体が問題だとも感じていますが、現状では『被害に遭った後すぐ警察に相談していたかどうか』という部分が、被害者が行為に同意をしていなかったことを裏付ける情報になると判断されることもあります。
心理的な負担が大きい中で、『すぐに相談に行ってください』というのは過酷なことだなとも感じるのですが、相談の記録が残っていることは、重要な要素の1つになり得ます」
性被害を受けたとき、自分を責めたくなってしまう人に伝えたいこと
ーもし性被害に遭ったとき、例えば痴漢被害なら「露出が多い服を着ていたから駄目だったのかな」「隙があったから悪いのかな」と自分を責めたくなってしまう人も多いと思います。「そうですね。まず大前提として知ってもらいたいのは、性暴力が起きたときに被害者に非は全くないということです。このことは、被害を受けた当人にはもちろん、その周りにいる人にも強く伝えたいと思っています。
例えば、『1人で部屋に行ったのが悪い』『夜遅く出歩いていたのが悪い』など、被害者の非を問うような声掛けをセカンドレイプや二次加害といいますが、そういった声掛けによってさらに追い詰められるケースも多いんです。だからこそ、もし自分が被害者になった場合に『訴えても自分が責められて終わるのではないか』と感じてしまう人もたくさんいるんです。
しかし、当たり前のことですが、加害者がいなければ性暴力なんて起こらないんです。どんな格好でいたとしても、夜遅くに歩いていても、そこに加害者がいたから性暴力が起きたのであって、被害者に非はありません。そのことを多くの人に知っていただきたいですね。
そういった心掛けや思いが前提にあることで、被害者の方が安心して相談できるような環境づくりができるのではないか、と感じています」
シオリーヌ(大貫詩織) プロフィール
助産師/性教育YouTuber、株式会社Rine代表取締役。
総合病院産婦人科、精神科児童思春期病棟で勤務ののち、全国の学校や企業で性教育に関する講演・イベントの講師を務める。性教育YouTuberとして性を学べる動画を配信中。2022年10月、性教育の普及と子育て支援に取り組む株式会社Rineを設立。著書『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』、『こどもジェンダー』ほか。
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