ゴールの見えない「競争社会」と「完璧主義」の功罪
矢野:K-POPの話からは逸れますが以前、韓国在住のライターさんとお話ししたとき、韓国がいかに学歴社会かということを伺いました。幼い頃から競争の中で切磋琢磨(せっさたくま)している、その努力はすごいの一言ですが、そのレールから外れてしまった人はきっと生きづらいだろうなと思っちゃって。
ゆりこ:韓国で子育てをしている友人たちの話を聞くと、受験戦争の過酷さは日本の比じゃないなと思います。私も韓国で勉強していて1番驚いたのは、朝から晩までずっと大学の図書館がびっちり満席だったことです。日本の母校はテスト期間にならないと、あんな風景は見られなかった(笑)。
矢野:就活も厳しいそうですね。韓国には数年前から「IKEA世代」という言葉があると聞きました。見た目も質も優れているのに安く売られている某家具のように、ハイスペックなのに低年収、不安定な職にしか就けない韓国の20、30代を指すんだとか。たとえ良い学校に進学しても、就職で失敗すると軌道修正が難しい。一般社会がそんなに厳しいなら、芸能界だけ違うなんてありえないんだろうなって悟りました。
ゆりこ:アイドルや練習生は、大半が自ら「学歴コース」から外れた人たちですが、さらに道幅も狭く傾斜もキツイ「スターコース」を選んだ人とも言えます(※大学や大学院に進学するアイドルもいます)。
矢野:学歴で勝負する道をあえて選ばなかった人たちは「別の道で結果を出さなければ」となる。そして売れれば売れるほど休む暇がない「過労問題」もありますよね。ちょっと休むとその座を誰かに奪われるのでは? というプレッシャーがすごそうです。
ゆりこ:売れない悲しみもあれば、売れてしまったつらさもありそうですね。特に今は順位やファンからの反応の全てが数値化されて見えてしまう息苦しさも加わります。一般の人もお仕事で「売り上げがどうだ」「目標達成率がどうだ」と日々数字に追われているかと思いますが、それが自分の名前やアイデンティティに直結してしまうとかなりつらいですよね。「あくまでお金をもらってやってる仕事だし〜」と割り切って適当に流せたら楽なのですが。そこを割り切らずに最高でパーフェクトを目指すアイドルとスタッフがいるからこそK-POPはここまで成長した点も否めない。
矢野:「妥協を許さない空気」はオーディション番組やデビュー前のリアルバラエティを見ても伝わります。普通の人なら泣いて家に帰るよな、って思うシーンも多々あって。みんなタフだなぁと感心したり、心配になったりもします。だからK-POPアイドルとしてデビューできた人って、心身ともにタフな人たちなのかな? とも思ってしまいます……。その我慢強さゆえに、限界を超えて無理をしてしまうこともありそうですが。