世界中から注目されるK-POPと韓国の社会問題
ゆりこ:芸能人は常に人目に晒されて、人気や売り上げも数値で可視化されて、プレッシャーは大きい仕事だと思います。日本もここ数年で人気俳優やベテランミュージシャン、大御所芸人を失いました。でも知名度のあるアイドルに限って言うと、あまり記憶にないかも。
矢野:地上波の歌番組に出演して、大規模会場でライブができるようなメジャーアイドルまでも……というのは韓国の芸能界の特異な部分かもしれません。
ゆりこ:韓国エンタメが世界規模でヒットしていくにつれて、K-POPアイドルやスタッフが受けるプレッシャーや負荷は増加しているでしょうね。良いニュースも悪いニュースも一気に全世界に広がってしまうし、一挙手一投足を常に見られている。ムンビンさんの件だって、もし他の国のアイドルだったらBBCやThe New York Timesも報道しなかったかもしれない。それだけK-POPアイドルと業界全体が注目されているということなのかもしれません。
矢野:海外メディアはそろって韓国の「激しい競争社会の弊害」や「若者の自殺率の高さ」を指摘していましたが、やっぱり関係があると思いますか?
ゆりこ:直結させて語るのは少し乱暴かもしれませんが、事実として韓国の自殺率はOECD(経済協力開発機構)加盟国の中でトップ(※4)。中でも特に深刻なのが10~20代で、若い人たちが苦しんでいる傾向にあるようです(※5、6)。毎日韓国のニュースを見るようにしているのですが、「誰かが極端な選択をした」という報道は少なくないです。
矢野:極端な選択? あ、言い換えですか。
ゆりこ:そうです。韓国では報道の中で「自殺」という言葉を使わず「極端な選択」と表現します。ストレートに伝えると見聞きした人への心理的負担が大きく、次の悲劇を誘発しかねないからというのが理由だそうです。
矢野:日本でもコロナ禍で人気俳優が亡くなったあたりから、報道の在り方について厳しく問われるようになりました。個人のプライバシーは絶対に侵害してはならないですし、僕も伝え方については慎重にならないといけない部分だと感じています。一方で言葉を変えただけでは根本解決にならない気もして……。
ゆりこ:はい。韓国でも“やんわりと誤魔化そうとする”姿勢こそが問題解決を遠ざける、という批判の声があります。国もメンタルケアを大きな社会課題として認識していて、自殺率を今後5年間で30%下げることを目標にした対策案を発表しているのですが……(※7)。
矢野:誰も立ち入れない、ものすごくパーソナルな事情と、社会全体を取り巻く雰囲気や価値観、その両方が関わってくるから簡単に解決できない根深さを感じます。