ヒナタカの雑食系映画論 第18回

親バカな役所広司、バカ息子な菅田将暉。そして漂う「死の香り」。映画『銀河鉄道の父』はここがすごい

5月5日より公開中の映画『銀河鉄道の父』。大きな見どころは親バカな役所広司と、バカ息子な宮沢賢治に扮(ふん)した菅田将暉の親子げんか。それぞれが最高のハマり役である理由と、実は「死の香り」も漂わせている物語の魅力を解説しましょう。

ダメ息子の「ピュアでブレない」様にハマる菅田将暉

賢治のダメダメぶりは「質屋の店番をしていると、1円にもならないボロボロの鎌を持ってきた男に妻が病気だと泣きつかれて、同情して5円も払ってしまう」ことから分かります。その病気は言うまでもなくうそなのですが、そうと知った賢治は怒るどころか「(病気の妻などいなくて)良かった〜」とホッとする始末なのです。
 
(c) 2022「銀河鉄道の父」製作委員会

それだけなら「バカだけど優しい青年じゃないか」とも思った矢先、今度は「人造宝石」を作る商売のために200~300円の資金を用意してくれと言ったり、帰郷したかと思えば学校を辞めて日蓮宗に改宗すると言ったりと、毅然(きぜん)としているようで自分勝手そのもの。さすがの政次郎も激しい怒りをぶつけますし、その後も対立がずーっと続くことになるのです。

そんな賢治はわがままかつ不器用ではあるけど、「ピュア」という言い方もできるでしょう。菅田将暉は鋭い眉をしたルックスで、かつ声にも迫力があるため「ブレなさそう」「ちょっとやそっとじゃ折れなさそう」な人間的な魅力を、演じる役の根底に感じられます。今回の賢治は、真面目かつ猪突猛進な人物なので、その「ピュアでブレない道を突き進むけど盛大に間違っている(しかもその後に実は道をコロコロと変えてもしまう)」ダメ息子役にも、なるほど菅田将暉はピッタリだと思えたのです。
 
(c) 2022「銀河鉄道の父」製作委員会


また、よく考えればこの役所広司と菅田将暉の親子は、「誰かから反対されても、自分の信じたことをやり抜こうとする」「側から見れば間違っていてダメダメだけど憎めない」ことが共通している、似たもの同士なのです。そのおかげか、もはや顔つきまでも似ているようにすら思える、いや本当の親子にしか見えなくなるほどでした。


>次のページ:妹のトシ、そして賢治の生き様と、「死の香り」を漂わせる物語

 

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