戦場から徳川家康が脱走した
大河ドラマ『どうする家康』(NHK)で描かれる戦国武将・徳川家康(松本潤)は、初回からビックリするようなキャラクターでした。
桶狭間の合戦(1560年)において、仕えていた駿河の今川義元が織田信長に敗れると、家康は戦場から家臣を残して1人脱走したのです。もちろん、史実として家康が桶狭間合戦後に逃げ出したということはありません。
そればかりか、義元戦死を聞いた家康は、周りが退却することを勧めても「まだ確実な情報がない。もしその情報が偽りであったならば、義元様に今後、顔合わせすることはできない」(『三河物語』大久保忠教著)と頑として突っぱねていたのです。義元討死がもはや確実となってから、家康は大高城から退いたのでした。
『どうする家康』には「現実味」がない?
ドラマなのだから戦国時代をどう描いてもいいはずだという声も理解はできますが、それでも、戦場から脱走するような頼りなく卑怯な主君についていこうという家臣がいるでしょうか。多くの視聴者同様に私も、この展開は「現実味」がないと感じるのです。
『どうする家康』の公式サイトには、松本さん演じる家康の人物紹介として「ナイーブ」「頼りない」「臆病」「優柔不断」との文字が並んでいますが、そのどれもが、史料からうかがえる家康のイメージとは真逆なのです。
さらに「相手の気持ちを思いやり、意見をよく聞く~」とも書かれていますが、劇中の家康からは、とてもそのような内面は感じとれません。家臣の石川数正(松重豊)に対して「お前は情が薄い」と言い放ってみたり、三河一向一揆(1563~1564年)において、一部の家臣が一揆勢に味方すると「家臣も信用できない」として急に引きこもってみたり……とにかく自己中心的(もしくは自分の家族中心)な家康の言動が目立っているように感じられるのです。
史実をひもとけば、『三河物語』には三河一向一揆の際、家康は家臣の砦(とりで)が一揆勢に攻められたと聞くと、すぐさま馬に飛び乗り、人々の先頭に立って戦場に馳せ向かったとあります。当然ですが、引きこもったという話はありません。
「大河ドラマ」に視聴者が求めるもの
現時点において『どうする家康』は、大河ドラマというより、少しばかり粗削りな漫画かアニメを見ている感覚です。ドラマとはいえ大河なのだから、もう少し歴史上の人物を史実に基づき丁寧に描くことが必要ではないか……恐縮ながら筆者は思っていますし、そう感じる視聴者は少なくないようです。つまり、「大河ドラマが見たい」と感じる視聴者が大勢なのです。
濱田 浩一郎プロフィール
歴史学者、作家、評論家。1983年大阪生まれ、兵庫県相生市出身。2006年皇學館大学文学部卒業、2011年皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は日本中世史。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。著書『家康クライシス』ほか多数。
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