90年代にK-POPアイドル文化が生まれた背景、SMの功績とは?
ゆりこ:まず最初は渦中のSMについて。なぜ最近の「買収危機」がここまで騒がれているかというと、単に大企業、有名事務所だったからではなく、名実ともにK-POPアイドルの「本家本元」「総本山」だったからだと思うんです。
矢野:東方神起や少女時代を輩出した会社ですもんね。あとBoAさんも。
ゆりこ:実はさらに前の90年代からSMによるアイドルビジネスは始まっていて、H.O.T.というグループは社会現象にまでなる人気ぶりでした。H.O.T.がいなければ今のK-POP文化は生まれなかったかもしれない、といえるほどの存在です。
矢野:じゃあ90年代は韓国の若者は、みんなH.O.Tを聴いていた、って感じなんでしょうか。
ゆりこ:当時、曲を知らなかった人はいないと聞きます。私もまだK-POPにハマる前だったので、韓国の友人から聞いた話なのですが。代表曲は2022年12月にNCT DREAMがカバーした『Candy』です。
矢野:ああ! 聴きました。かなり前のヒット曲だったんですね(全然気が付かなかった……)。
ゆりこ:はい。そして今のK-POP市場との共通点は"強力なライバルがいた"というところです。当時H.O.T.の対抗馬としてDSPメディア(以下DSP)という会社から出たSechs Kies(ジェックスキス)(※)という人気グループがおりまして。『応答せよ1997』というドラマの中でもH.O.T.ファンとSechs Kiesファンの衝突シーンが出てきます。音楽番組で1位を取らせようとファンが必死に頑張る、という構図も今に通じます。
※現在も一部メンバーで再結成し、YGに所属
矢野:その時代の象徴となるグループだったんですね。「ファンダム文化」もすでにあったなんて。
ゆりこ:余談になりますが、『応答せよ1997』にはSechs Kiesのリーダー、ウン・ジウォンが主人公の友人役で出演しています。自分の所属グループが女の子たちにキャーキャー騒がれている様子を、興味なさげな顔でクールに傍観しているキャラクターなので、90年代のK-POP史を知りながら見ると笑えます。
矢野:今のK-POPファンが見ても共感できそうなドラマですね。さて、芸能事務所の話に戻しますと、DSPという名前は聞いたことがなかったです。
ゆりこ:DSPはKARAを輩出した会社です。今はMAMAMOOの事務所(RBW)の傘下に入りましたが、昔は勢いのあるアイドル事務所でした。それにDSPはH.O.T.より前にソバンチャというユニットをデビューさせていて、ある意味SMと並ぶ「元祖」だったといえます。矢野さんはご存知ないかもしれないですが……昔ダウンタウンがコント番組で『オジャパメン』(※)っていうカバー曲を歌っていまして。
※原曲名は『オジェパメ・イヤギ』
矢野:うーん……残念ながらピンとこないです(笑)。
ゆりこ:ですよね。そんなSMとDSPの2強時代があり、以降SMはS.E.S.、SHINHWA(シンファ)など人気グループを続々デビューさせて成功体験と試行錯誤を重ねていきます。そこから先ほど矢野さんが挙げてくださったアーティストからNCT、aespa(エスパ)にまでつながるわけです。
矢野: SMは韓国アーティストが日本で活躍するきっかけを作った、という話も聞きました。
ゆりこ:SMが本格的に日本進出しようと試み、そして成功したことは韓国のエンタメ業界にとって大きなターニングポイントとなったはずです。同時に競合他社やアーティストへ「韓国の音楽が海外で売れる」「エンタメが輸出商品になる」という気付きと挑戦する勇気を与えたことでしょう。
矢野:まさにK-POPの道を切り開いてきた先駆者的な会社なんですね。そんな偉大な老舗が存続の危機にさらされている……というのは一大事だ。
ゆりこ:創業者のイ・スマンさんの存在感、実績も大きかったので、その人が会社から去るということも衝撃ニュースなわけです。ここに関しては、賛否両論あるのはさておき。
矢野:日本でもジャニー喜多川さんの逝去で日本のアイドル業界にも転換期が訪れたように感じました。韓国でも同じような地殻変動が起こりそうな予感が……。
ゆりこ:変化はあるでしょう。KWANGYA(クァンヤ/近年SMが提唱していた独自世界)だけではなくK-POP業界全体に。
矢野:KWANGYA……まだ理解しきれていない世界観です。スマンさんがいなくなったらどうなるんだろう。まぁSMの今後についてはまた今度お話しするとして、SMアーティストとファンってなんと言いますか、言葉にできない雰囲気……色? いや、団結力? そういうものを感じるんです。これまで上手くいってきた秘訣にもつながると思うのですが、何が魅力で強みなのでしょうか。
ゆりこ:私もデビュー間もない東方神起から入って、少女時代、SUPER JUNIOR、SHINee、EXO、今のNCTやaespaに至るまで追い続けているガチのSMファンなのですが、いまだにSMアイドルの魅力は正しく言語化できる自信がありません。あ、急にオタクスイッチ入ってごめんなさい。
矢野:遠慮せずオタクスイッチ“ON”で続けてください!