K-POPアーティストがあえて日本語で歌う理由とその背景とは?
矢野:韓国で有名になった曲は、すでに日本のファンも知っているわけじゃないですか。先に原曲に慣れ親しんだ状態で、日本語に翻訳されたバージョンが出る。もちろんそっちも聴くんですが、「これは必須なのかな?」と感じることもありまして……。
ゆりこ:確かに原曲を愛するファンからは「不要論」が出たり、違和感を感じる声もちらほら。タイミングに関しても日本デビューの際は特に、本国リリースから時間が空いてしまいがちで、今さらこの曲? と思うことはあります。では「なぜ出すのか」。その理由の1つとしてまず言えるのは「日本のレーベルと事務所の戦略」です。
矢野:シンプルに売上のためでしょうか。日本語にすると売れるんですか? 実際。
ゆりこ:某レコード会社で長年宣伝やA&RとしてK-POPアーティストを担当した人に伺ったところ、なんだかんだ日本語曲ってちゃんと売れるそうです。ディープなK-POPオタクであれば韓国語も学んでいる人も多いですし原曲のまま楽しめますが、日本で売るからにはより幅広い層へ知ってもらい、好きになってもらわなければいけない。そうなるとやっぱり日本語で歌ってもらう方が届きやすいんですね。
矢野:確かに聞き取れない言語の曲よりも母国語の曲の方が耳に残りやすいですよね。そしてライブで「歌って!」みたいなフリがあっても、日本語なら合唱しやすいし。
ゆりこ:歌詞も「直訳」ではなく、日本の人に届きやすい歌詞に置き換わっていたりします。やっぱり韓国語独特の表現もありますしね。逆に曲のポイントとなるキャッチーな単語だけ韓国語をそのまま残している場合も見受けられますね。そこは世界共通でファンが盛り上がれる。
矢野: じゃあビジネス的な理由と、既存ファン以外の老若男女に親しんでもらうため、という2つがあると。
ゆりこ:あと日本におけるK-POP黎明期からの勝ちパターンをいまだ踏襲している面もありそうです。BoAさんや東方神起が日本市場でブレイクした秘訣(ひけつ)は徹底したローカライズでしたから。
矢野:確かにBoAさんって「韓国出身のJ-POPアーティスト」みたいなイメージあります。
ゆりこ:当時はまだ今ほどK-POP自体のブランド力がなかったので、そうせざるを得なかった部分もあるかと思います。一昔前まで、日本のメディアで紹介する際に「K-POPアーティスト」「韓国アイドル」などの表記がNGのグループも多かったんですよ。事務所やレーベルから「日本のアーティストとして扱ってください」と記事の修正依頼が来ることも。ちょっとしたライター裏話なんですけれど。
矢野:徹底していたんですね。日本デビュー時の契約で「日本語曲をリリースすること」みたいな条件を入れていたりするのでしょうか。
ゆりこ:先述の知人のレーベルでは、契約時の条件でガチガチに縛っているわけじゃなかったそうです。(会社やアーティストによって事情が違うかもしれませんが)ただ、レーベル側にとって日本語曲を作れば「版権が持てる」という大きなメリットがあります。
矢野:だから日本だけのオリジナル曲も出すんですね。
ゆりこ:実は翻訳バージョンも日本のレーベルの制作費で作るので、日本側で版権を持てるそうですよ。利益的な面はもちろん、日本国内での楽曲使用、特に放送にのせる際にコントロールできるかは重要ですよね。
矢野:なるほど。僕らの世代(20代)のK-POPファンはほとんどサブスクで曲を聴いて、YouTubeでMVを見て、SNSで情報を得ていますが、やっぱり日本の音楽番組に好きなグループが出るとなるとワッと沸き立ちますしね。Twitterにもグループ名がトレンド入りして。
ゆりこ:テレビ離れと言われつつも、まだ認知を広げるパワーは感じます。K-POPはYouTubeやSNSとの相性が抜群とはいえ、まだテレビやラジオの存在も無視できない。今はTVerやradikoというツールもありますし、むしろSNSとセットでより楽しめるようになっています。そんな中で日本語曲を持っているのは強いと思うんです。外国語曲よりも流すハードルも下がりますし。
矢野:「流すハードル」というところでちょっとツッコんでみたいのですが。アメリカなど英語圏のアーティストが来日した場合、そのまま英語で歌いますよね。韓国アーティストだけなぜ? みたいな疑問も浮かんでしまいました。
ゆりこ:以前から時々そういった声は上がります。あくまで推測なのですが、英語は日本の義務教育で習いますし、今や世界の共通語になっていますよね。実際に堪能な人が日本にどれだけいるかはさておき。一方で韓国語は学習者がどんどん増えているものの、英語ほどには浸透していないのも事実。その上で、韓国アイドルたちは練習生時代から日本語をはじめとする語学レッスンを受けています。
矢野:先ほど出てきた「戦略として」ということですよね。
ゆりこ:はい。だから”やらされている”というより、もう少し能動的な姿勢を感じます。たとえ母国語でなくとも、その歌の持つ物語や魅力を最大限に表現するというところにおいて、彼ら彼女らはプロですから。それは英語曲や中国語曲についても同じくです。
次ページ:豪華コラボや名曲も! 「日本語」でK-POPを楽しめるのは日本ファンの特権!?