恵方巻き、バレンタインチョコ……恒例イベントの裏で繰り返される大量廃棄が「気候変動」の原因に!?

近年、社会問題として注目される「食品ロス」。この食品ロスが地球温暖化などの気候変動を引き起こすことをご存じでしょうか? 食品ロスと気候変動の関係を気象予報士の片山美紀が解説します。

節分、バレンタイン……季節食品と食品ロス

恵方巻きは、いまや節分の定番メニューに

節分の恵方巻きにバレンタインデーのチョコレート、食の恒例イベントがある2月は店頭に並ぶ商品を見ているだけでもワクワクしますが、同時に問題になりやすいのが「食品ロス」です。期間限定の商品はイベントが過ぎると一気に需要が落ちてしまうため、売れ残ると大量に廃棄されることが多いのです。最近は、SDGsへの関心が高まっていることもあり、食品ロスは社会問題として認識されています。食べ物を無駄にすることはもっいないだけでなく、ほかにも大きな問題を抱えています。
 

近年、地球全体の気温が上昇し、世界各地で極端な大雨や危険な暑さが増加するなど「気候変動」が深刻になっていますが、食品ロスがその一因となっていることはご存じでしょうか? 食品ロスと気候変動、一見すると直接的なつながりがないように思えるこれらの関係をひもといていきましょう。
 

「食品ロス」は“飛び恥”より環境負荷が高い

食品ロスとは、まだ食べられるにもかかわらず捨てられてしまう食品のことです。食べ物を無駄にすることは、生産から加工、輸送、販売などの全工程で使われた大量のエネルギーが無駄になり、地球環境にも負荷をかけることになります。
 

捨てられた食品は処理工場に運ばれて可燃ごみとして処理されますが、水分の多い食品を運搬し焼却する際に二酸化炭素が排出されます。二酸化炭素は、地球温暖化に及ぼす影響が最も大きいといわれる温室効果ガスです。食品ロスの処理で排出される二酸化炭素は、食べ物が無駄なく消費されれば本来発生しないもの。これが地球温暖化をはじめとした気候変動の原因の1つになっているのです。
 

世界資源研究所(WRI)がまとめた2011年から2012年のデータによると、食品ロスが原因となる温室効果ガスの量は、世界の温室効果ガス排出量の8.2%を占めています。「フライト・シェイム(飛び恥)」という言葉もあるように、飛行機が環境に負荷をかける面があることは広く知られていますが、実は食品ロスの方が飛行機よりもずっと温暖化に影響を与えているのは意外ではないでしょうか?

出典:世界資源研究所(WRI)ホームページ
「食品ロス」は飛行機よりも多くの温室効果ガスを排出している 出典:世界資源研究所(WRI)ホームページ

また、食品ロスが原因の温室効果ガス排出量は、世界全体で年間約4.4ギガトンになりますが、これを世界各国の排出量と比較すると、中国、アメリカに次いで世界第3位の量に相当します。温室効果ガスの増加により地球の気温が上昇すると、暑さが厳しくなるだけでなく、大気中の水蒸気量が増えて大雨が起こりやすくなる恐れがあります。
 

つまり、食品ロスは温室効果ガスの排出を増長させて、極端な暑さや記録的な大雨などの気候変動を引き起こすことになるのです。

出典:世界資源研究所(WRI)ホームページ
「食品ロス」に伴う温室効果ガス排出量は世界第3位の規模に 出典:世界資源研究所(WRI)ホームページ

日本人は毎日「お茶碗1杯分」捨てている?

2019年8月にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が公表した「土地関係特別報告書」には、食品ロスの削減を含む食料システム政策は温室効果ガスの排出量を抑える効果があると示されました。日本では年間で522万トン(2020年度推計値)の食品ロスが発生しています。日本人1人当たりに換算すると1年で約41キロに相当し、毎日お茶碗1杯分のごはんを捨てているのに等しい量となります。
 

途方もない数字ですが、最近は恵方巻きなどの季節商品の大量廃棄を防ぐため事前予約制が取られたり、2022年の流行語にもなった「てまえどり」対策が徐々に広まっています。

日本の年間食品ロス発生量 出典:農林水産省ホームページ
日本の年間食品ロス発生量 出典:農林水産省ホームページ

食品ロスを減らすために私たちができる対策として「食べ物を期限内に食べ切る」、「残さず使い切る」ことはもちろんのこと、「計画的に買い物する」こともあります。買い物に行く前に家にある食材を確認することで、買い過ぎて食材を余らせてしまうことを防げます。
 

簡単なようで意外とハードルが高いですが、冷蔵庫の中をスマートフォンで撮影すると手軽にチェックできます。一つひとつの行動は小さくても、私たち一人ひとりが意識して行動することで大きな成果につながります。「もったいない」の精神が受け継がれる日本。それだけでなく食べ物を無駄にすることは気象災害の増加を引き起こす原因になることも知ってほしいです。

<参考>
世界資源研究所(WRI)
農林水産省関東農政局「食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢」
農林水産省「食品ロスとは」 
 

片山 美紀プロフィール
1991年生まれの気象予報士。現在は『首都圏ネットワーク』(NHK総合)などで気象解説を担当。防災情報を正しく活用してもらうための普及啓発として講演活動にも取り組む。毎日の天気予報では空や季節の変化を感じる楽しみを、いざという時は的確な防災情報を伝え、暮らしに役立つ天気予報を目指す。
 

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