私たちの生活に大きな影響を及ぼす台風は注目度が高いですが、ハリケーンやサイクロンと何が違うのでしょうか? 急カーブして日本へ近づく「不思議な進路」を取るのはなぜか、知っていますか? 「実は意外と知らないかも……?」という、台風にまつわる疑問を気象予報士の片山美紀さんに聞いてみました。
Q. 台風はハリケーンやサイクロンと何が違う?
海外からのニュースでよく耳にするハリケーンやサイクロンも、台風と同じく大きな水害を引き起こすことがあります。結論からいうと、台風もハリケーンもサイクロンも、すべて同じ暖かい海で発生する熱帯低気圧の一種です。「存在する場所」によって、名前が変わるのです。それぞれ最大風速の基準には違いがありますが、東経180度より西の北西太平洋や南シナ海にある熱帯低気圧を「台風」、東経180度より東の北東太平洋やカリブ海、メキシコ湾、北大西洋では「ハリケーン」、ベンガル湾やアラビア海などの北インド洋なら「サイクロン」と呼びます。
過去には、元々はハリケーンだった熱帯低気圧が台風の領域に進んだため、名前を変えたことがありました。俗に言う「越境台風」です。2018年8月14日、ハワイ方面を進んでいたハリケーン・ヘクターは東経180度の線を越えたため、台風17号になりました。越境台風が日本に上陸した例もあります。
Q. 狙ってる? 台風が急カーブして日本に近づくのはなぜ?
南の海で生まれた台風が次第に北上し、ぐるっと右へ急カーブして日本へ近づく……その様子はまるで意志を持って動いている生き物のように見えますが、もちろん台風が意図的に日本へ近づいているわけではありません。台風は自ら動くことはほとんどできず、周りの風に流されて移動するのです。台風が急カーブして日本に近づくことが多いのは夏から秋にかけてですが、実は台風は季節を問わず発生しています。ただ、冬や春の間は、熱帯の海で発生した後、赤道付近を吹く「貿易風」と呼ばれる東から西に吹く風に流されるため、台風はフィリピンやベトナムの方向へ進み、日本にはあまり近づきません。
夏になると日本へ近づく台風が増えるのは、太平洋高気圧が勢力を強めるためです。太平洋高気圧の周辺では時計回りの風が吹いています。台風はこの南風に乗って、太平洋高気圧の縁に沿うようにして、日本付近まで北上するようになるのです。その後、台風が日本の上空を吹く強い西風、いわゆる「偏西風」に乗ると、東へ急カーブするコースになる(図1)のです。
台風の進路は太平洋高気圧の張り出し方によって、大きく変わります。7月から8月の夏の間は太平洋高気圧が日本へ強く張り出しやすいため、沖縄や西日本へ近づくことが多いですが、9月頃には太平洋高気圧が勢力を弱めます。すると、台風の通り道(図2)ができ、東日本へ近づくことが増えるのです。
Q.「熱帯」低気圧化と「温帯」低気圧化は何が違う?
天気予報で「台風が熱帯低気圧に変わった」あるいは「温帯低気圧に変わった」と言う表現を聞いたことはありませんか? 似たような言葉ですが、全く別の意味です。そもそも台風とは、日本の南の暖かい海で発生した熱帯低気圧のうち、最大風速がおよそ17m/s以上になったものを指します。ですから、「熱帯低気圧に変わった」ということは、台風に伴う風速が小さくなり、勢力が弱まったことを意味します。一方、温帯低気圧に変わったときは、台風の構造そのものが変化したことになります。温帯低気圧とは、寒気と暖気がぶつかって渦を巻く低気圧のことで、台風とは異なる構造をしています。一般的に、日本の南の海で生まれた台風は北上するにつれて、北にある冷たい空気を引き込むようになるので、次第に温帯低気圧に姿を変えていくのです。
注意したいのは、温帯低気圧に変わったからもう安心というわけではないことです。
台風は強い風のエリアが中心付近に集中しているのに対し、温帯低気圧では広い範囲で風が強まる(図3)ことが特徴です。温帯低気圧に変わってから、再び発達したという例もあります。台風が温帯低気圧になったからといって、すぐに警戒を緩めず最新の気象情報を確認するようにしてほしいです。
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