男性が背後からイノシシを……? 話題の新聞タイトルは確信犯だったのか【山田Gのシン・日本語辞典】

ネット社会にあふれる「シン・日本語」をプロライター兼コラムニストの山田ゴメスが考察するシリーズ。【vol.6】は、先ごろ話題になった新聞見出しのイノシシについて。

メッセンジャーアプリやSNSで見かける話題のネットスラングから、大人の常識には当てはめられない日本語の新たな用法、もはや「?」な若者言葉まで。ネット社会にあふれる「シン・日本語」をプロライター歴30年の山田ゴメスが考察する。
 

vol.6 読者の好奇心を刺激することを目的とした“確信犯”?


2022年7月15日午前6時20分ごろ、香川県高松市春日町で起きた事件を『讀賣新聞オンライン』が報じた際の記事タイトル。
 

考察

記事の内容としては、

高松市春日町を流れる春日川の土手を早朝に歩いていた70代の男性がイノシシと対面

その70代男性が頭や腹や手足から血を流し、擦り傷を負っている姿を見つけた通り掛かりの人が119番に通報

その70代男性は、病院に搬送されたが、命に別状はなし

(同市によると)その70代男性は散歩中に背後からイノシシに襲われ、斜面を転がり落ちた……とのこと

(同市によると)イノシシは駆けつけた警察官らに取り押さえられた直後に死んだ……とのこと

……だったらしい。

ところが、このタイトルを読む限りでは、「取り押さえ直後に死んだ」のが、果たして「散歩中の(70代)男性」なのか「イノシシ」なのか……あるいは「(取り押さえた)警官ら」なのかがさっぱり判別できない。「散歩中の男性が背後からイノシシを襲った」のか「散歩中の男性を背後からイノシシが襲った」すら、よく分からない。筆者はタイトルのみをパッと目を通したとき、

「散歩中の男性が背後からイノシシを襲って、そのあまりに凶暴な男性を複数の警官がどうにか取り押さることはできたものの、その取り押さえ方が相当にハードだったため(イノシシを襲った)男性のほうが死んでしまった……のか?」

……と真剣に思った。なんてワイルドで世知辛い事件なんだ、と。ああ勘違い……。天下の讀賣新聞サマに勤める「文筆界におけるドラ1クラスのエリート」にしては、あまりにもお粗末な仕事ではないか。

だがしかし! これがもし万が一「どーいうこっちゃねん!?」みたいに読者の好奇心を刺激することを目的とした“確信犯”だったとすればいかがだろう? 

ついついクリックしてしまった筆者をはじめとする何千何万のネット住民らは、まんまと術中にハメられたわけで……そうなったら逆に文筆に携わる者の1人として、この記者の優秀さとずる賢さを称賛せざるを得なくなってくる。

ちなみに、明らかなる確信犯として「タイトルで読者を幻惑することによって売上部数やPV数を稼ぐワザ」をおはことする媒体を皆さまはご存知か? そう! あの『東スポ』である。

まだ、反町隆史がドラマ『相棒』(テレビ朝日系)を“卒業”するか否かが微妙だった時期(※2021年3月ごろ)、こんなタイトルの記事を『東スポWeb』が配信していた。(※現在は初代『相棒』の寺脇康文が復帰することが決定している)
 
「反町隆史が「相棒」卒業か 6年やって松嶋菜々子と“チェンジ”」

てっきり「次の相棒」が松嶋菜々子と“チェンジ”するのか……と真剣に思った。仰天スクープ! ところが、タネを明かせば、

「反町家は夫婦どちらかが仕事、どちらかが育児中心というスタイル。そろそろ反町が妻と“役割チェンジ”となってもおかしくはない…かもしれません」(テレビ関係者)

……ってだけのこと(笑)。単なる家庭内事情の話で、しかもその全てが憶測でしかないのだ。

ポイントは記事中で頻繁に使用されていた「〜かもしれない」! おそらくコメンテーターとして登場する「テレビ関係者」も架空の人物なのではなかろうか? こうやって、デスクの前から1歩も動かずしてまがりなりにも1本の記事をまとめ上げ、タイトルのみで読者をけむに巻くその東スポ記者の剛腕には……やはり、文筆に携わる者の1人として「まいりました!」と首(こうべ)を垂れるほかないのであった?


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