食品の「味」「香り」は全て数値化できる!? 大手メーカーの大半が採用する「味と香りの戦略」に迫る!

食品メーカーでは「味」「香り」を数値化し、市場マーケティングと合わせて新商品の開発が行われているそうです。消費者には見えにくいこの「味」「香り」の数値化について、専門企業の味香り戦略研究所に解説してもらいました。

各社の新商品はどのように開発されている?(画像はイメージ)

毎年続々と登場する大手食品メーカーによる新商品の数々。いずれも気の利いた商品でおいしいものばかりですが、どのようにして開発されているのでしょうか。
 

あらゆる「味」「香り」を数値化する画期的なサービスがあった!

大手食品メーカーにこの点を尋ねると、おおむね「担当スタッフ総出で、味見を繰り返し決定する」といった返答があります。もちろん、これもうそではないでしょう。
 

しかし、それだけで開発費・広告費などの大金を投入するというのも、筆者はずっと疑問に思っていたことで、どのようにして市場ニーズに併せて、絶対的においしいものだけをリリースしているのかが謎でした。
 

そんな中、とある研究所の存在を知りました。その名も「味香り戦略研究所」。あらゆる「味」「香り」を数値化し、各メーカーの商品開発、技術支援、販売促進などのサービスを提供しているのだそうです。一体どういうことなのか? 「味香り戦略研究所」研究開発部本部長の早坂浩史さんに話を聞いてみることにしました。
 

味を数値化する「味覚センサー」の価格は1台約1千万円! 大手食品メーカーの大半が導入済み?

早坂さんに話を聞くと、「味香り戦略研究所」はもともと印刷会社だったのだそう。
 

早坂さん:札幌を起点に、販売促進支援・商業印刷(チラシ)などを行う企業としてスタートしました。スーパーマーケットなどの小売業向けにチラシなどを印刷する業務が多かったのですが、チラシに載せる情報はだいたい「商品の写真」「価格」などです。「このほかに、食品に関する有意義な情報を載せられないか」というアイデアを練ることも日頃の課題でした。また、印刷業ではありながら社内ベンチャーとして新規事業を作り出していきたいという思いもありました。

 そんなときに、たまたま後述する「味覚センサー」という電子機器の研究開発をされている九州大学の先生と出会い、後にこの機械を使った事業を行うことになりました。ですので、我々は「味覚センサー」の開発ではなく、機械を使ったアウトプットとしてのサービスを提供することになりました。

この「味覚センサー」という機械、一般には耳慣れないものですが、すでに30年近く前に開発され、年を重ねるごとに改良されていったものだそうです。
 

早坂さん:「味覚センサー」がなかった頃は、「食品に入っている成分だけを測り味を作る」といった考え方でした。しかしそれだけでは「人が感動する味」には結びつきにくい欠点もありました。

 例えば、「甘いコーヒーの商品開発をしたい」とします。既存のコーヒーに砂糖をどんどん入れていけば、確かに甘くは感じます。しかし、コーヒーの苦味成分が減るわけではないですし、「人が感動する味」にはたどり着けません。つまり「人が感動する味」は「成分分析」だけでは難しいんですね。複雑に絡み合う人間の味覚要素をあらゆるな観点から数値化し、商品開発に役立てるために開発されたのが「味覚センサー」で、これを使って弊社でもさまざまなサービスの提供を行っています。

通称「味覚センサー」と呼ばれる味認識装置「TS-5000Z」。さまざまな苦味、甘味、酸味、塩味などを数値化する機械です


ちなみに、この「味覚センサー」1台の価格は1千万円前後とのこと。40センチ×40センチ程度の、デスクの上にも置けるような機械です。大手食品メーカーは持っていないのでしょうか。
 

早坂さん:大手の食品メーカーは特に持っている所が多いと思います。国内でも400〜500は販売されているようですので。想像ですが、「味覚センサー」が無かった時代は、社内の担当者が試作品を食べた上での官能評価によって商品開発をしたり、あるいは一般家庭にモニターとしてサンプルを送って、そのデータを資料にしていたと考えられます。そういった際のコストを考えると、「味覚センサー」は画期的な機械でした。

 他方、例えば食品メーカーが「味覚センサー」での研究開発をもとに商品を完成させ、「この商品が必ず今の市場に合う」とPRに使ったり営業をかけても、そのエビデンスは「自社調べ」になります。第三者的な目線があったほうが良いので、「味香り戦略研究所調べ」としたほうが効果的ですよね。こういった面で、我々のサービスを使っていただいているケースもあります。
 

実際の「味付け」は同じなのに、「匂いの変化」だけをつけた「フレーバー違い」の商品もある!?

一般にはさほど知られていないものの、食品業界にとっては超画期的だった「味覚センサー」ですが、早坂さんによると、この「味覚センサー」だけでは完全に「人が感動する味」につながる「味」を作ることは難しいとも……。
 

早坂さん:確かに「味覚センサー」は画期的な機械ですが、これだけでは「人が感動する味」を作ることは難しいです。人間が「食べる」「飲む」という行為の際は、五感をフルで活動しているものです。まず、目で確認し、匂いを嗅ぎ、「これは口に入れても大丈夫だ」「おいしそうだ」と思って口に入れます。さらに口に入れた後、「ガリガリする」「サクサクする」「モチモチする」といった食感も併せて「感動する味」になります。
 

 例えば、氷を模したアイス商品の中には、「レモン味」「ソーダ味」などがありますが、実は氷自体の味付けは同じで、違いは「匂い」だけだったりすることもあります。このように人は視覚情報、聴覚情報、臭覚情報、味覚情報などの全ての感性を全てを数値化しなければ、「人が感動する味」にはならないというわけです。
 

「味香り戦略研究所」が掲げる「基本5味(味覚)」、「風味」、「食味」、「おいしさ」の構成図


こういった理由から「味香り戦略研究所」では、「味覚センサー」に加えて「匂いセンサー」「食感センサー」なども用いた複合的データを提供しているのだそうです。
 

早坂さん:「基本5味(味覚)」「風味」「食味」「おいしさ」の複合的データを提供しながら、さらに市場での人気商品の傾向、ロングセラー商品の傾向などのマーケット情報、消費者データも全て数値化し、メーカーさんが効率的な商品開発につなげていただけるようなデータも提供しています。

「味香り戦略研究所」が有する、においセンサー「HS-GCMS」
食感テンシプレッサー「TTP-50BXII」

 

「味香り戦略研究所」発信の商品がANAの機内サービスにも採用された!

ここまでの早坂さんの話を聞き、人間の味覚の奥深さと、食品メーカーの繊細な開発の裏側に衝撃を覚えた筆者でした。しかし、ここで疑問も浮かびます。必ず「人が感動する味」を作れるのであれば、「味香り戦略研究所」が率先して商品開発を行っても良いのではないかということ。この点についても聞いてみました。
 

早坂さん:弊社にはメーカー機能はないのですが、社内の「チャンレジプロジェクト」の一環として、メーカーコラボ商品や地方創生企画商品などは展開しています。

「味香り戦略研究所」のデータから生まれたヴィーガン向けの「Vegetable Stock Curry」
リリースにはデータも補足されています
地方創生企画商品として「味香り戦略研究所」のデータから生まれた「深谷ねぎのポークカレー」
ANAの機内サービスにも採用された「味香り戦略研究所」のデータから生まれた「鹿児島ハイボール」


早坂さん:特に顕著な商品が「鹿児島ハイボール」ですね。芋焼酎を使ったハイボールで、居酒屋などでは結構飲まれる方が多い一方、市場にはありませんでした。そこで弊社のデータを元に商品開発をしたのですが、当初は“面白いね”という結果だけで、なかなか売り上げが伸びませんでした。しかし、ANAの機内サービスに採用されたり、東海道新幹線(のぞみ号)の停車駅にある売店で販売されるようになってから、ジワジワ売り上げが伸びるようになりました。

 ハイボール商品はこれまでに2つ出しましたが、6月には第3弾を出す予定ですので、ぜひご注目いただければうれしいです。
 

今後の課題は「商品側」データに加えた「人側」のデータ

早坂さんによれば「味香り戦略研究所」での研究には今後の課題もあるそうです。
 

早坂さん:これまでは「商品側」のデータばかりを見てきました。しかし、これからは「人の好み」にも注視し、「見える化」をしていきたいと考えています。時代的にもマスマーケティングから、パーソナルマーケティングに変わっていっていると思いますので、これまでに培った味データと、「人側」のデータを複合しマッチさせたいと思っています。これらで、さらに良い商品が作れると思いますし、食品ロスを減らすこともできるかもしれません。

 こういったことを今後の課題としながら、さらに「味」「香り」を研究しサービスを提供していきたいと思っています。 

これからの課題は「人側」のデータ(画像出典:写真AC)

現在の日本で流通している食品の多くは、おおむねおいしいものが多いですが、食品メーカーの商品開発の裏側には、このように奥深い研究や味・香りの数値化がありました。これらの話を参考にしていただき“味わい”を楽しんでいただくと、また違って感じられるかもしれませんね。



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