“自動的に”バイリンガルにはなれない
「あの子は自動的にバイリンガルでいいなぁ」などと思ったことはありませんか?特にヨーロッパ言語である英語と日本語は、根底に流れる風俗・宗教・歴史など、言語そのもののあり方や成り立ちが大きく乖離しているので、私たち日本人が英語を習得するには相応の苦労が伴います。
それが国際結婚の家庭に生まれたら、両親からそれぞれの言語を受け継いで楽々と2カ国語を会得し、育つ環境によっては3カ国語、4カ国語をも駆使してしまう……。こんなにうらましい話はありませんよね。しかしそれは、ごく表面的に物事を見たときの話。実際に体験する苦労は、決して生易しいものではなさそうです。
劣等感を育む?「言葉の発達」に遅れ
日本在住であれば、また事情が違うのかもしれませんが、筆者が住むヨーロッパで育つ「日本人×外国人」の子どもたちはそれなりに苦労をしています。単一言語を習得するモノリンガルの子や、英語×ドイツ語、フランス語×イタリア語といった系統の酷似する言語同士のバイリンガルに比べて、どうしても言葉の発達が遅れがちで、現地生活では何かと苦労を強いられます。
学校の成績、発音・文法の間違いに始まり、授業中にすらすらと発言できず萎縮してしまう、友人との口論で負ける、けんかなどのトラブル発生時も先生や周りの大人に状況説明や自己弁護を上手にできず、モノリンガルの口の達者な子たちにうまく悪者にされてしまう……などなど、劣等感を育む要素が勢ぞろいです。
また、バイリンガル育成にばかり多大な情熱を注いでしまうと、語学だけに特化された人間に成長し、その他の重要な勉強や課外活動がおろそかになってしまう恐れが多いとのうわさも絶えません。そのため、将来を見据えて、あえて現地語だけのモノリンガル教育に絞る親もいるほどです。
バイリンガルにも種類がある
ひとくくりにバイリンガルといっても、実際には、(1)本物のバイリンガル:両親から継承した2カ国語をどちらも高度に操れる
(2)モノリンガル+α:どちらか1カ国語を高度に操り、もう一方は日常会話レベル
(3)セミリンガル:どちらの言語も日常会話レベル
といった3つの傾向が見られるようです。
公用語が4カ国語もある多言語環境のスイスに住んでいると、4~5カ国語話せる子はざらですが、やはり圧倒的に多いのは(2)の「モノリンガル+α」。(1)の「本物のバイリンガル」は、両親ともに教授レベルの医師であったり、両親が両方の言語をハイレベルに操れる言語能力に恵まれた家庭の子であったり、親と二人三脚のたゆまぬ努力で2カ国語習得に励んだ子たちといっていいでしょう。
「英語がうまい」の錯覚と誤解
父母のいずれかに外国人の親を持つ人たちが、英語やフランス語などの外国語で会話をしていると、それだけで輝いて見えませんか? 実はこれも誤解であることが少なくありません。前述したように、現実としては(2)の「モノリンガル+α」が大半であり、実際は日常会話程度しか話していない場合でも、モノリンガルが大半の日本人からは“高度なバイリンガル”に見えてしまうという大いなる錯覚。しかも、バイリンガルではなく「モノリンガル+α」であることが発覚した際の、「え、バイリンガルじゃないの!」「(日独の両親を持つ子に)なんで英語話せないの?」といった心ない反応に尻込みする姿は想像に難くありません。
“ハーフ”と聞くと、何となく憧れに少々のやっかみが入り混じった対象となりがちですが、現実はバラ色の道とはいえず、シビアな言語事情にともなう苦悩があることを知ると、彼ら彼女らに対する見方も変わってくるのではないでしょうか?
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