「100時間残業」が常態化するブラック職場!現役教員に取材してわかった教育現場の“特殊な事情”

【現役中学校教員に緊急取材】第1回は、たびたび問題視され、話題になることも多い教員の長時間労働について。実際のところ、現場はどのような状態なのでしょうか。某地方都市の公立中学に勤務する30代の女性教員(以下Aさん)に話を聞いてみたところ、なかなかのブラックぶりが明らかになりました。

たびたび問題視され、話題になることが多い教員の長時間労働。実際のところ、現場はどのような状態なのでしょうか。某地方都市の公立中学に勤務する30代の女性教員(以下、Aさん)に話を聞いてみたところ、なかなかのブラックぶりが明らかになりました。
 

実質“ほぼ”休憩なしで100時間残業が当たり前?

「平均すると、だいたい毎月100時間程度は残業してますね」(Aさん)

1カ月で100時間ということは、1日あたり約5時間も残業をしていることになります。しかもAさんの場合、この残業時間内でも教材研究が終わらず主に自宅に持ち帰っているのだとか。いったいどんな1日を過ごしているのか詳しく聞いてみると……

「子どもたちの登校時間より前に出勤するので朝は8時頃に学校に着きます。8時15分から午前の業務を開始して、午後の授業が終わるのが15時半。16時から18時までは部活の指導。部活終了後から事務作業を始めるので、帰宅は必然的に遅くなります」(Aさん)

いわゆる「定時」の退勤時間は16時45分だそうで、部活が始まると間もなく残業時間に突入するというスケジュール。多くの公立学校では給食も指導の一環とされているはずですが、では教員はいつ休憩をしているのでしょうか。

「休憩時間は給食後に20分間。あとは授業終了後から部活が始まる前までの約30分間です。ただ実際には、生徒から相談や質問を受けたり、校舎内の見回りやトラブル対応、テストの採点と雑務に追われるうちに休憩時間が終わってしまうんです……」(Aさん)

想像以上に長時間労働が常態化しているようですが、厚生労働省が働き方改革の一環として定めている時間外労働の上限規制は、

・残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間

臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、以下を超えることはできない

・年720時間以内
・複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
・月100時間未満(休日労働を含む)

(※出典:「働き方改革 特設サイト」厚生労働省より)

とあります。大企業では2019年4月から、中小企業でも2020年4月から施行開始されているのが民間企業の現状。公立学校の教員に当てはめられないのは、やはり、たびたびやり玉にあがる部活動が原因なのでしょうか。
 

部活指導だけが悪ではない、問題は労働に見合った報酬かどうか

多くの教員が似たような状況だと語るAさん。部活動の顧問という仕事が重荷になっていると話題になり、最近では部活動を地域スポーツ化する案も出ていますが、その点についてAさんは手放しに賛成できないといいます。

「部活動も大切な教育活動の一環です。授業だけでなく、部活動も含めて子どものことを把握したいですし評価もしてあげたい。地域スポーツにしてしまうと、教員が子どもの放課後活動を把握できなくなるのが心配です。それに私自身、部活動の指導もやりたくて教員になったので、外部指導者などに丸投げすることには違和感があります」(Aさん)

部活動が悪者にされることが多いものの、熱意をもって取り組みたいと考えているAさんのような教員がいることも事実。また仕事そのものに不満があるわけでなく、教員という仕事にはやりがいを感じているといいます。やはり問題は、労働に見合った報酬が受け取れていないということでしょうか。残業代について聞いてみました。

「残業代というものはありません。たとえば休日に部活の試合に同行すると、私の場合、時間に関係なく特別勤務手当として2000円程度を受け取れますが、ここから交通費を出すので……」(Aさん)

残業や休日出勤に対する特別な手当てがほぼ支払われていないという衝撃的な事実。なぜ、このような仕組みがまかり通っているのでしょうか。どうやら、特殊な事情があることが分かりました。
 

昭和の時代から長らく続いてきた「給特法」とは?

公立の教員の給与について定めているのが「給特法」。正式名称「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(※)」というもの。民間企業で取り組まれる「時間外労働の上限規制」の対象外となり、
 
・時間外勤務手当は支給しない
・その代わりに、給与月額の4%を「教職調整額」として支給する
 
とされてきました。
 
たとえば給与月額が30万円としたときの「教職調整額」4%は、1万2000円となります。さまざまな手当を差し引いた基本給から時給を割り出し、時間外の割増率を25%で固定すると、残業代はおおよそ時給2000円程度。つまり「教職調整額」として支給されているのは、給与月額30万円の場合で、わずか6時間分の残業代ということになります。

昭和46年に制定されて以来、長らく続いてきたこの給特法。夏休み中の休日のまとめ取りのように集中して休日を確保できるようにする「一年単位の変形労働時間制の適用」などが盛り込まれた改定などで、文部科学省もようやく重い腰を上げつつあるというのが現状のようです。
 

フレックスタイム制やシフト制で解決できる!?

仕事の内容が多岐にわたる学校という特殊な環境では、必然的に長時間勤務になりやすいというAさん。

「校門を開ける担当の日はさらに朝が早く、7時半頃に出勤しなければならない日もあります。朝早く出勤したからといって退勤時間は変わりません。私自身は過去に、朝番や夜番などのシフト制にしたらどうかと校長に提案したこともありましたが、時間割を組むのが難しいとのことで実現しませんでした」(Aさん)

Aさんの学校では難しかったようですが、2019年度から全国初の「フレックスタイム制」を導入した静岡県の公立中学校の例もあります。教員が勤務時間を2通りの時間帯から選択できる「フレックス制」を導入。通常勤務(8:15~16:45)と遅番(9:30~18:00)を選べる取り組みです。

勤務時間を短縮するためには、教員配置のバランス、子どもたちへの登下校時間の徹底、保護者への対応時間の短縮、無駄な業務を削減する工夫など、さまざまな対応が必要とされるでしょう。教員が抱えている仕事量が減らない限り大幅な残業時間の短縮は難しいかもしれませんが、今後の改定給特法の流れ、各自治体による柔軟な取り組みに期待したいところです。

※出典:「働き方改革 特設サイト」厚生労働省
※参考:「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律案」(文部科学省)


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