就職氷河期世代が直面する「親の介護」問題……どう生活する?
バブル崩壊後に就職活動時期を迎えた、いわゆる「就職氷河期世代」と呼ばれる人たちも、今や30代後半から40代前半になり親の介護に直面する年代となっています。
この世代の多くは、新卒時に正社員での就職ができないまま現在まで、非正規雇用で働いています。正社員で雇用された場合と比べ収入が低く、結婚や親元からの独立をあきらめた人も多い年代です。
今回は、実家住まいのおかげで非正規の収入でも生活ができていたものの、自分の老後や親の介護も目前に迫り、今後の生活に不安を感じているという、40代女性の事例です。この方の生涯の生活費について考えてみたいと思います。
▼相談内容
これまでは、親と同居して住居費や生活費が少なくてすんでいたため、非正規の収入でも生活ができていた。
しかし、数カ月前から家計を管理するようになり、自分と親の将来が心配になった。今回のコロナでも仕事を続けることができたが、非正規のままで生活ができるのか不安。
次の2点が知りたい。
- 生涯資産がマイナスにならずに、今のままの生活が送れるのか。
- 今のままの生活が送れないのであれば、改善点を教えてほしい。貯蓄も投資も積極的に行っていなかったので、必要であればアドバイスしてほしい。
▼相談者の世帯の基本情報
- 相談者(娘):45歳、非正規(パートフルタイム)
- 母:70歳
▼収入
- 娘:月収平均20万円(出勤日によって変動、多いときで月収25万円、少ない時で月収18万円くらい)
- 母:受取年金 毎月7万円
▼現状の支出
- 住居:母名義の一戸建て(固定資産税約10万円)
- 貯蓄:母500万円、娘150万円(毎月1万円の先取り貯金)
- 生活費:毎月約20万円
▼保険
【母】
- 終身保険=300万円(60歳で払い済み)
- 医療保険(終身保障終身払い、入院保障:1日1万円、入院60日間、手術給付5万円)=保険料4500円/月
【娘】
- 終身保険(終身払い、低解約返戻型、満期金 300万円)=保険料4000円/月
- 医療保険(終身保障終身払い、入院保障:1万円、入院60日間、手術給付5万円)=保険料2000円/月
- 火災保険(建物1000万円、地震保険300万円付き)=5年間契約で15万円
- 自動車保険:年間3万円(対人・対物無制限、車両保険50万円)
▼今後の予定・希望
- パートの定年は60歳。生活資金繰り次第では、リタイア後の仕事を探すことを考えている。
- 結婚は今のところ考えておらず、このまま母と実家暮らしの予定。
- 車の買い替えを50歳と60歳に行いたい。中古のコンパクトカーを考えており、予算は50万円。
- 2~3年ごとに旅行に行きたい。1回の予算は10万円で70歳まで。
- 母も娘も生涯自宅で暮らす予定。
- 母も娘も死亡保険を契約しているが、葬儀費用と考えており生活費に充てる予定はない。
▼現在抱える不安点
- 高齢になった母の介護費がかかる見込みだが、どのくらいかかるかわからない。
- 自宅は現在築40年、全体的なリフォームか水回りの改修工事を検討中。また、外壁などの定期的なメンテナンスも要検討。
現状のままの生活を続けた場合
まず、今のままの生活を続けた場合、生涯の生活費がどのように変化するシミュレーションしてみましょう。母も娘も100歳までのシミュレーションを作成します。
その際、住まいのリフォームやメンテナンス費用、母親の介護費を試算しなければいけません。この方の場合、まだ具体的なことはわからないそうですので、それぞれ次のデータを使用して試算してみました。
▼住まいのリフォームやメンテナンス費用
全体的なリフォームか水回りの改修工事を検討されているとのことですので、今回は水回りの改修工事をするとしてシミュレーションしたいと思います。
公益財団法人生命保険文化センターによりますと、お風呂・キッチン・トイレのリフォームにかかる費用は平均500万円となっています。また、外壁などの定期的なメンテナンス費用については、平均200万円となっています。
今回は、水回りの改修工事500万円を1回、外壁のメンテナンスを15年ごとに行うとして試算いたします。
▼母親の介護費用
介護費用は、要介護者の状況によって様々です。公益財団法人保険文化センターの調査によると、介護保険を利用した場合の、自己負担金を含む費用と介護期間の平均は次の通りです。
- 月額:平均7.8万円
- 一時金:平均69万円
- 介護期間:平均4年7カ月
今回は、介護期間を5年間、その間平均的な介護費用を支払うこととしてシミュレーションを行います。
シミュレーション結果
シミュレーションの結果、給与収入が無くなった時点で生活費がマイナスとなる結果となりました。
現在ある貯蓄は、住まいのリフォームやメンテナンスですぐに使い切ってしまいます。特に60歳から65歳の間の5年間は母の年金しか収入がないので、支出が収入を上回ってしまいます。
65歳で娘の年金を受け取るようになりますが、71歳から75歳の間は母の介護費用の負担が大きくなります。
改善案
このままでは給与収入が途絶えた60歳で生活が破綻してしまいます。収入を上げるか、毎月の支出を見直してリタイア後の資金を作りましょう。
考えられる改善点をいくつか挙げていきます。
1. 家計を見直し、毎月の貯蓄枠を作る
現在も先取り貯金は毎月行っていますが、その金額を増やす必要があります。
家計簿をつけ家計の出費を定期的に見直します。出費の要不要を洗い出し、必要なものだけを買うことを習慣にしていきます。ご自身に合った支出額が把握できたら、並行して毎月の貯蓄額を増やしていきましょう。
2. 自家用車を軽自動車に変更する
現在コンパクトカーをご使用とのことですが、軽自動車でも代用できるのであれば、変更を検討されてはいかがでしょうか。車両税が安くなるので、年間の固定費を抑えることができます。
3. 生涯収入を増やす
可能であれば転職をする、副業をするなど現在の収入を増やすことを検討してみましょう。
また、現在のお仕事は60歳で定年退職になりますが、その後転職などをして仕事をすることで生涯収入を増やすことができます。なお、公益財団法人保険文化センターによりますと、非正規の60代女性の平均月収は18万円から19万円となっています。
4. 貯蓄と並行して投資を行う
現在、普通預金の利率は0.001%程度となっており、利息による資金増加は見込めない状況です。
そこで、貯蓄と並行して投資を始めてみるのも一手です。比較的リスクの少ない積立型の投資信託でも平均利回りは3%程度になると見込まれ、効果的に資産を増やせる可能性があります。ただし、元本割れするリスクはありますので、注意が必要です。
改善策のシミュレーション結果
ここまでの改善案をもとに、次の条件で再シミュレーションを行いました。
- 現在の支出を月額5万円削減
- 自動車を軽自動車に変更
- 60歳の定年退職から70歳まで非正規勤務(年収200万円)
- 削減できた支出から毎月1万5000円を、45歳から70歳まで平均予想利回り3%の投資信託で運用
結果として、ご相談者が100歳まで生涯資産のマイナスを回避することができました。
この条件はあくまでも一例であり、各家庭で採用できる改善案は異なります。毎月の支出を変えない代わりに、現時点から副業や転職をして収入を増やすという方法もあります。
また、リフォーム費用や母親の介護費用で予測と実際にかかる費用とに差がでることもあるでしょう。ご自身の老後のプランによっても、今回のシミュレーションと異なる結果になる可能性もあります。
状況の変化に応じて、都度将来のプランを立て直すことが必要です。
この記事を執筆したのは……
黒川 一美 (株式会社MILIZE提携FP)
大学院卒業後、IT企業や通信事業者でセールスエンジニア兼企画職として働く。出産を期に退職し、お金を稼ぐ側から家計を守る側に立場が変わり、お金の守り方を知らなかったことを痛感。自分に合ったお金との向かい合い方を見つけるため、FP資格を取得する。資格取得後は、FPの勉強を通じて得られた知識をもとに、よりよい家計管理を求め試行錯誤の日々を過ごす。現在は3人の子育てをしながら、多角的な視点からアドバイスができるFPを目指して活動中。
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