京都で、あっと驚く新車両がデビュー
3月21日、京都市内を走る叡山電鉄(通称・叡山電車)にあっと驚く新車両がデビューした。その名は「ひえい」。起点となる出町柳駅と叡山本線の終点である八瀬比叡山口駅の間5.6kmを、1日に平日(火曜をのぞく)19往復(40分毎、ほかに区間運転1本あり)、土休日12往復(45分毎)しはじめた。
金色の楕円形が印象的!この由来は?
この車両の特徴は、何と言っても、前面についている金色の楕円形をした飾りにある。取ってつけたようなものだが、意外にもグリーンの車体によくマッチしていて実にインパクトある面構えだ。
叡山電鉄によると、叡山電車の2つの終着駅から行ける「比叡山」(叡山本線)と「鞍馬山」(鞍馬線)の持つ荘厳で神聖な空気感や深淵な歴史、木漏れ日や静寂な空間から感じる大地の気やパワーなど、「神秘的な雰囲気」や「時空を超えたダイナミズム」といったイメージを「楕円」というモチーフで大胆に表現した、とのことだ。
また、側面に配されたストライプは比叡山の山霧をイメージしているそうだ。ロゴマークは、スピリチュアル・エナジー(Spiritual Energy)といって大地から放出される気のパワーと灯火を抽象化したものである。
車体の側面を見ると、運転台のある乗務員室のドア以外、すべて楕円の窓がずらりと並び壮観だ。真ん中にはドアのように大きな楕円窓があり、アクセントとなっている。ここの内部に座席はなく立席スペースだ。小さな子供が立ったまま車窓を楽しむこともできる。
ロングシートだが乗っていて優雅な気分が味わえる
車内はオールロングシート。乗車時間は出町柳から八瀬比叡山口まで14分であるし、通勤通学用にも使うので、クロスシートにしないのもやむを得ないのであろう。とはいえ、座り心地の良いバケットシートを採用し、区分けされた黄色いシートが楕円の窓と窓の間に配置されている。デザイン的にも実用的にも工夫されたものだ。
また、照明がLEDダウンライトのためか、車内の雰囲気がおだやかなものとなり、非日常感を演出している。ロングシートとはいえ、乗っていて優雅な気分が味わえる、優れたインテリアだ。
デビュー2日目の「ひえい」の様子は?乗車レポート!
大阪の淀屋橋駅から直通運転している京阪電鉄の特急電車が到着する地下の出町柳駅から地上に上がると、叡山電車の出町柳駅がある。小さな櫛形ホームがあり、1番線から3番線まであるターミナル駅だ。そのうちの改札口を入って一番左にあるのが「ひえい」の発着する1番線。「ひえい」の発着時刻表は、叡山電車の公式サイトで確認できる。
緑に塗られた柱には「ひえい」の車体にもついている金色のストライプが描かれ、天井からは「ひえい」のフラッグを吊るし、気分を盛り上げている。やがて、「ひえい」が姿を見せると、ホームで待っている人々は、いっせいにカメラやスマホで撮影しようと大変な騒ぎになる。降りる人と乗る人が同じホームなので、やや混乱気味である。
デビュー2日目の平日だったので、「ひえい」は5分もしないうちに折り返す。ホームの雑踏をかき分けるようにして車内に入り、何とか席を確保するとドアが閉まって発車となった。
たった1両なので混んでいる。春休みということもあり、車内は、大人から子供まで、鉄道ファン、観光客、ビジネスマンなどバラエティに富んだ陣容だ。京都市内で高架や地下路線が多い中、叡山電車は地平を走る。クルマがぎっしり待つ大きな通りの踏切を悠々と渡っていくのは、ある意味、懐かしい光景である。
一乗寺、修学院といった名刹の最寄り駅を過ぎ、鞍馬へ向かう路線との分岐駅である宝ヶ池に到着する。各駅毎に降りる人がいて、車内は立っている人はいるものの、かなりゆったりとしてきた。
叡山本線とは言うものの、鞍馬線に遠慮するように右にカーブしながら分岐する。三宅八幡駅を過ぎると、高野川に沿って走る。周囲は俄然緑が豊かになり登山電車のような雰囲気になってきた。ローカルな感じだが複線となっていて、勾配が続く。高野川を渡り、緩やかに左にカーブすると終着駅らしい八瀬比叡山口駅のドームに吸い込まれるように入り停車した。
すでに夕暮近くなってきたので、ケーブルカーに乗り換えて比叡山を目指すのはやめて、乗ってきた「ひえい」で折り返すことにした。車内へ戻ると、同じ行程をたどる人が数人いて笑ってしまった。いかにも鉄道ファンという人だけではなく、女性が何人もいたのは興味深い。地元の人だけではなく、東京から来たと言う女性もいた。
「ひえい」のインパクトは強烈で、比叡山をはじめとする沿線活性化に大いに貢献しそうである。