恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」 第25回

1日あたり117本の列車を削減…JR九州の「ダイヤ改正」、実態は?

JR九州は2018年3月17日にダイヤ改正を行う。この改正で、列車本数や運転区間などが見直しとなり、九州新幹線、在来線特急列車、快速列車、普通列車で合わせて1日あたり117本の列車を削減することとなった。この変更の意図などをJR九州に聞いてきた。

JR九州が列車本数や運転区間を見直した理由

JR九州は2018年3月17日にダイヤ改正を行う。この改正では、列車本数や運転区間などについて見直しを行うことを発表。九州新幹線、在来線特急列車、快速列車、普通列車すべてが対象となり、合わせて1日あたり117本の列車を削減することとなった。
 

このダイヤ改正がリリースされるや、新聞などマスコミでは「大幅減便」「取りやめ・区間見直し過去最多」「全路線で減便の衝撃」などセンセーショナルとも言える見出しが相次ぎ、見直しを求める自治体も相次いだ。もっとも、本当のところはどうなのか、ダイヤ改正の実情を知りたいと思っていたところ、JR九州の広報担当者が報道関係者に向けてレクチャーしてくれることになった。今回は、その内容についてレポートしたい。
 

まずは、列車本数や運転区間見直しの理由について。高速道路の延伸による他輸送機関との競争激化、人口減少、少子高齢化による厳しい状況が続くので、それに対応し、鉄道ネットワークを維持することが目的だと説明している。
 

117本の列車削減ではあるけれど、JR九州発足時は、1778本であったものが、今回の削減後でも3011本の列車が走る予定なので、1.7倍の列車を運行していることになる。但し、輸送人員は伸び悩んでいて1.3倍にしか増加していない。そのあたりの状況が今回の削減のひとつの理由であろう。
 

「削減の実態」主なポイント

次に、ごく一部ではあるが、気になる路線や列車を中心に削減の実態を見ておこう。

 

◆九州新幹線について

ダイヤ
九州新幹線のダイヤ

改正前と改正後のダイヤを見くらべてみる。この時間帯では、「さくら411号」の運転を取りやめたものの、熊本止まりの「つばめ」を鹿児島中央まで延長運転することで、「さくら」「つばめ」2本を1本にまとめたかたちとしている。「さくら」の博多~熊本間の速達性は、「みずほ」を久留米に停めることで、ほぼ補完できている(運転しない日はあるけれど)。


新幹線6本減は、列車の運転区間や停車駅が見直されたことで、思ったよりも影響は少ないようだ。

さくら
博多駅に到着する九州新幹線「さくら」

  

◆在来線特急について

0269_特急「きらめき」に使われた787系.
特急「きらめき」に使われた787系

削減本数が一番多い列車は、博多~小倉間を結ぶ「きらめき」で、上下列車あわせて9本減、1本増便なので差し引き8本減となる。もっとも、この区間には「ソニック」が1時間2本走っているので、山陽新幹線が並走していることを考えると優等列車の本数は過剰ともいえるほどで、減るのもやむを得ないのかもしれない。

特急「かもめ」や「ソニック」に使われる885系
特急「かもめ」や「ソニック」に使われる885系

博多~長崎を中心に走る「かもめ」は、最大7本減ではあるけれど、休日や大型連休、夏休み等の利用の多い日は運転する列車もあるので繁忙期や時間帯によっては、若干の見直しといってもよさそうだ。
 

◆普通列車、快速列車

削減が目立つのは、地方のローカル線よりも福岡都市圏、北九州都市圏である。日豊本線の小倉~苅田間は、ラッシュ時をのぞくと1時間4本体制から3本へと減便となった。深夜の列車や夜間の快速列車も削減されたので18本減となっている。

篠栗線の普通列車
篠栗線の普通列車

博多から筑豊地区へ向かう篠栗線は、データイムの快速2本、普通列車3本体制が、快速2本、普通2本へと普通列車の減便が行われる。もっとも、普通列車は20分毎ではなく、列車間隔が偏っていたのと、10分後に続行する普通列車は途中駅篠栗止まりだった。利用者もそれほど多くないので、やむを得ない措置であろう。


佐世保線の早岐~佐世保間は、普通列車が上下合わせて16本削減される。子細に時刻表をチェックすると、1時間に2本ある普通列車は10分ほどの間隔で続行運転する形となっていて、30分に1本の割合で走っているわけではない。ゆえに、これを1本にまとめ、1時間に1本走っている特急みどりを特急券なしで乗れるようにする方が逆に便利になるともいえる。途中の2駅は利用者が少ないので、1時間に1本でも十分かもしれない。


(参考)
青春18きっぷ、なぜ「早岐~佐世保」が特例区間になった?

 

地方ローカル線は、もともと列車本数が少ないけれど、今回のダイヤ改正でさらに本数が減っている。日豊本線の佐伯~延岡間は、特急列車は1時間に1本は走っているけれど、普通列車に関しては極限まで削減される。大分と宮崎の県境にある宗太郎峠を越える普通列車は、下りは早朝の1本、上りは朝と夜の2本だけになってしまった。
 

南九州の吉都線は、朝夕の列車は、そのまま存続されるけれど、昼間の列車が3往復から1往復へ。当初は、都城21:45発の最終列車を一旦運転取りやめと発表したものの、定時制高校生の通学に配慮して、平日のみであるが運転を継続することとした。
 

肥薩線を走る普通列車
肥薩線を走る普通列車

肥薩線の山越え区間である人吉~吉松間は、観光列車「いさぶろう・しんぺい」2往復以外は、上下1本ずつ走るのみとなった。「いさぶろう・しんぺい」は普通列車で自由席が7席あるため、指定券を持たなくても一般の列車の代用になるのであろう。熊本、宮崎、鹿児島の3県をまたぐ区間のため通学する高校生はいないものと思われる。
 

観光特急「はやとの風」(嘉例川駅にて)
観光特急「はやとの風」(嘉例川駅にて)

肥薩線は観光列車の走る路線として全国に知られているけれど、特急「はやとの風」(吉松~鹿児島中央)は毎日運転ではなくなる。観光列車もついにリストラか?などとセンセーショナルな見出しが紙面を賑わせたが、年間210日は運転すると発表されて一安心だ。各地の観光列車は土休日のみ運転が主流なので、それに比べれば、まだ多い。夏休みはほぼ毎日運転するし、行楽シーズンは平日の運行もある。ツアー等の利用があれば臨時運転も行うようなので、今後も安泰であろう。
 

削減の対象となる列車に基準はあるのか?

ところで、削減の対象となる列車の基準はどのようなものなのか?
 

これに関しては、ひとつの目安として、始発駅から終点までの1両あたりの利用者が10人いれば人件費や動力費といったコストがまかなえるという大まかな試算があるとのこと。ただし、列車の運行する時間帯や線区、設定している輸送力と利用状況等によっては、利用が少ないと判断するレベルも変わってくるので、路線や列車1本ごとの使命を考慮し、総合的に判断したとのことだった。
 

そうしたかなり低い目安さえクリアできない列車があるということは、過疎化やクルマ依存による鉄道離れの状況は相当深刻だと言わざるを得ない。
 

九州北部豪雨被害で不通の久大本線や日田彦山線はどうなる?

「ゆふいんの森」
7月に正規のルートに戻る「ゆふいんの森」

九州北部豪雨被害のため不通となっている久大本線は、7月に復旧する見込みで、観光特急「ゆふいんの森」も3往復が正規ルートでの運転を再開する。一方、不通区間が残る日田彦山線はどうなるのか?


JR九州の試算では復旧費用は70億円とのことだが、そのかなりの部分は被災した橋梁関係である。ただし、再び災害が起こらないよう治水事業など災害復旧事業との調整もあり、見積もりは少なくなる可能性もある。鉄道会社単独では話が進まないので、今しばらく時間がかかりそうだ。幸い沿線自治体とJR九州は、一緒にウォーキングイベントを行うとともに、豪雨災害後は被災した同線を盛り上げるために臨時列車の運行に取り組むなど関係は良好なので、良い方向で話がまとまればと思う。
 

減便による影響があるか、検証する予定も

今回のダイヤ改正に関しては、沿線自治体から異論続出で見直しを求める声もまだまだある。ダイヤ改正後は、5月の大型連休明けくらいまで利用状況を見て、減便による影響があるかどうかを検証したいとの話だった。九州新幹線長崎ルートが暫定開業する2022年度まで大きなダイヤ改正は行わないと発表してはいるものの、要望があれば柔軟に対応したいとのこと。誰にとっても利用しやすい鉄道でありつづけて欲しいと思う。
 

取材協力=JR九州
 

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