恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」 第8回

京王電鉄の16年ぶり新型車両「5000系」デビューへ!導入の背景に迫る

7月19日、京王電鉄は16年ぶりとなる新型車両5000系を報道関係者に公開した。最大の特色は、クロスシートにもロングシートにもなる転換座席だが、なぜ今、新型車両を導入するのか?その理由には並行路線や沿線の事情との関係が見えてくる。

追加料金を払って、座って通勤したい要求に各社が応えるように

京王の新型車両5000系
京王の新型車両5000系

7月19日、京王電鉄は16年ぶりとなる新型車両5000系を報道関係者に公開した。最大の特色は、クロスシートにもロングシートにもなる転換座席(鉄道会社によって、デュアルシート、マルチシートなど呼称は様々)で、ロングシートとしては、従来からの車両に混じって活躍する一方、夕方から夜間にかけての通勤客の退勤時には、クロスシートの座席指定列車として新宿から京王八王子、橋本方面へ走ることになっている。
 

近年、通勤客の間では、追加料金を払ってもいいから、座ってゆったりと電車に乗りたいという要求が強まっていて、鉄道各社は、そうしたニーズに応えるため様々な車両を投入してきた。ひとつは、元々観光客向けの列車だった有料特急(小田急ロマンスカー、西武レッドアロー、東武スペーシアなど)を通勤客用として活用することであり、もうひとつは、通勤客用の座席指定列車を新たに導入することである。
 

通勤客用の座席指定列車の場合、ロングシートのままでは追加料金はとれないであろうから、クロスシート車とするのが必然であるが、一部の時間帯のみに新たな車両を製造するのはコスト面で問題がある。そこでロングシートにもクロスシートにもなる両刀使いの車両が考え出されたわけだが、首都圏で最初に導入したのは、東武東上線のTJライナー(2008年より運転開始)である。今年になって、西武鉄道でSトレインがデビューし、京王は3例目ということになる。

通常のロングシート
通常のロングシートは6人掛けがメインとなる
クロスシート
座席指定列車となるときはクロスシート


 

それほどの長距離とは言えない京王電鉄でなぜ今導入する?

京王電鉄の場合、新宿~京王八王子、新宿~橋本ともに特急や準特急での所要時間は40~50分程度であり、それほどの長距離とは言えない。それゆえに、どのような車両が最適なのかを慎重に準備を進めて来たのであろうが、なぜ今なのか?
 

クロスシートのときは電源コンセントも使える
クロスシートのときは電源コンセントも使える

ひとつには、JR中央線特別快速、快速電車への2階建てグリーン車連結が決まったことである。新宿~八王子、高尾は京王線との競合区間であるから、対抗策を取らざるを得ない。もうひとつは、小田急の複々線化工事の完成であろう。


新宿から多摩ニュータウンへの足としては、京王と小田急が新線を開業して輸送を担ってきたのだが、これまでは京王の圧勝であった。早くから都心への直通電車を数多く走らせ利便性の向上を図ってきた京王に対し、小田急は小田原方面や江ノ島方面からの電車本数が極限に近く、直通電車を増発する余裕がなかった。
 

長年の悲願だった複々線工事が少しずつ進むにつれ、線路容量に余裕が生まれはじめ、多摩急行といった都心への直通電車が増え、徐々に京王からシェアを奪いつつある。2018年3月に下北沢付近の複々線化工事が完了することで、時間短縮、列車増発が叶い、多摩センターから都心への利便性も大幅に向上することが予想される。その時期に、着席保証列車を京王が導入することは、対抗策として有意義であろう。
 

都心回帰による長距離客の減少も要因に

京王初となる車上蓄電システム
停電時には自力走行も可能な京王初となる車上蓄電システム。最寄り駅までたどり着ける

もうひとつのポイントは少子高齢化による通勤客の漸減、都心回帰による長距離客の減少が挙げられる。京王電鉄が開発した八王子付近の住宅地も、子供世代が大人になると、親との同居を避け、都心に住む傾向が強まっている。残るのは高齢者ばかり。地域は元気がなくなりつつあり、京王沿線に住むにしても、世田谷から新宿寄りが好まれる傾向がある。
 

そうなると、運賃収入が減ることになるから、追加料金を取る列車は営業的にも必要であろう。また、他社が魅力的な車両を導入すれば、そうした沿線に引っ越す可能性もある。京王沿線を魅力的にするためにも、新たな車両の導入は避けられない。
 

初代5000系は東京五輪の前年にデビュー。2代目はDNAを受け継ぐ

名車初代5000系は今なお富士急などで活躍中
名車初代5000系は今なお富士急などで活躍中

京王5000系というと、古くから京王電鉄を知る人にとっては、1963年にデビューし、名車の誉れ高い初代の5000系を思い出すであろう。ロングシートの通勤車両初の冷房車、そしてそのスタイルの良さから一世を風靡し、古いイメージのあった京王を都市鉄道に脱皮させたエポックメイキングな車両だった。1963年と言えば、東京五輪の前年。高度成長時代を担った車両のひとつとして歴史に残っている。今回、奇しくも東京五輪を控えて、京王にとって戦後初のクロスシート車両、初の座席指定列車となる新型車両に2代目となる5000系を命名したのも、先代のDNAを受け継ぎ、京王のさらなる発展を願ってのことなのであろうか?
 

座席指定列車としての営業開始は2018年春、それに先だってロングシート車の一般車としてのデビューは2017年9月29日、座席指定列車の愛称や列車ダイヤなどは2018年1月頃の予定と発表された。京王線を颯爽と走るのが待ち遠しい。
 

取材協力=京王電鉄

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