承認を得ないまま決算発表…元銀行支店長はどう見る?

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東芝問題は、発表延期を重ねていた16年10~12月四半期決算を、監査法人の決算適正承認を得ないまま強行発表するに至り、新たな局面を迎えています。元銀行支店長という「銀行員的な観点」から、この局面を解説しつつ、今後の焦点を探ってみます。
 

決算発表は監査法人のお墨付きが必要

上場企業の決算は簡単に言うと、監査法人が承認してはじめて決算としての体をなす、そんな約束事があります。これは投資家保護の観点から、監査法人の「適正」という得て決算として認められる、言ってみれば公表数字に専門家のお墨付きが必要というわけです。
 

ところが今回、東芝の監査法人であるPwCあらた監査法人(以下PwC)が示した態度は「結論不表明」。平たく言えば、「この決算が正当なものであるとは現時点で申し上げられません」ということです。通常ならば、この段階での決算公表は見送り、監査法人の承認を得次第公表するのが常套。しかし東芝は強行策に出たのです。
 

PwCは東芝の米国子会社の不良債権について、正確な実態を把握するには過去1年半以上にわたり遡って調べる必要があると主張し、その必要なしとする東芝側と対立しているのだとか。すなわちPwCは、「もっとちゃんと調べないと、正確な決算とは言えませんよ」と言っているわけです。今回の件を受けたマスコミの主流トーンは、監査法人の承認を得ずに決算発表をした東芝は上場維持が危うくなるだろう、というものです。ではなぜ、東芝はあえて上場維持を危うくしてまで独断決算発表を強行しているのか、です。
 

目下の最優先は「おカネの面からの破綻を回避すること」

それは、東芝にとって今一番大切なことは上場を維持することではないからです。目下の最優先は、銀行団の協力体制維持をはかり、おカネの面からの破綻を回避することなのです。上場廃止の有無は、銀行の融資判断にはさほどの影響はありません。しかし、決算数字公表の延期は違います。銀行にとって決算情報がいつまでも公表されないということは、「決算未確定につき融資対象とせず」という判断にも成り得るからなのです。
 

東芝は、本来2月末段階で公表されるべき16年10~12月四半期決算発表を、既に二度延期しています。もし今回三度目の延期となるなら不透明感が増し、「決算に余程の問題があるのに違いない」→「貸したおカネが返ってこない懸念大」→「協力継続不可。取引解消」という判断を下す銀行が出てくる可能性を否定できないのです。
 

銀行が取引解消を申し出れば破綻も現実味を帯びる

銀行が企業の健全性を判断する際の債務区分は5段階あります。「正常先」「要注意先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」。このうち「正常先」と「要注意先」までがいわゆる正常債権であり、「破綻懸念先」以下は不良債権として貸出残高に見合った引当金を積まなくてはいけないルールなのです。
 

現在銀行の東芝の分類は、16年12月時点で債務超過に陥ったことで実質「要注意先」扱いになっていると思われます。つまりこれ以上分類低下されれば、東芝は不良債権先となり新規融資が受けられなくなるばかりか、引当金を積むことを嫌がる銀行は取引解消を申し出るでしょう。正常先であれば、取引解消があっても他銀行がそれを埋め合わせることができますが、不良債権先ではそれも不可能で、東芝の破綻は一気に現実味を帯びるのです。
 

地銀の出方次第では東芝の「青写真」に影響も

現在、東芝の取引銀行には各千億円以上の貸出残高を有する3メガバンクと大手信託銀行以外に、数十億円~百億円以上規模の貸出残高の地方銀行が数多く存在しています。メガバンク各行は1行でも欠ければ命取りの状態であり、基本的には協力姿勢を確認し合っていますが、問題は地方銀行です。規模の大きくない地方銀行にとって、マイナス金利下でただでさえ苦しい経営環境にある中、億単位の引当金を積むということは自身の首をも絞めかねない由々しき問題なのです。
 

もし地銀の何行かが取引解消を申し出るなら、他の取引地銀も一斉に我も我もに動く可能性があり、そうなってしまったらメインの三井住友銀行はじめ大手行をもってしても、もはや手の打ちようがない、そんな状況にもなりかねません。監査法人未承認のままの決算発表という、なりふり構わぬ奇策に出た裏にはこんな苦しい台所事情があるのです。
 

監査法人が結論を出すまでの間に、大手銀行の追加融資と半導体子会社の売却でなんとか息をつなぎたい東芝ですが、地銀の出方次第ではこの青写真に大きな影響を及ぼしかねず、まだまだ予断を許さない状況が続くと思われます。
 

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