てるみくらぶのマネジメントは何がマズかったか
中堅旅行代理店の「てるみくらぶ」による突然の破産申し立てが、大きな話題になっています。負債総額は151億円、被害を受けた旅行申し込みは3万6千件にのぼるとみられ、被害人数に至っては7万人とも8万人とも。世間に大迷惑をかける破産劇となりました。
会見に臨んだ山田千賀子社長は、涙ながらに「お客さまに安くて良い商品をと思ってやってきました」と弁明したそうですが、なぜここまで被害が広がる前に何らかの手が打てなかったのか。旅行代理店ビジネス的な側面からの分析は他稿に譲るとして、ここではマネジメント的な観点からみてみたいと思います。
報道情報から知る限り、この一件は「素人経営者の悲劇」であると断言できます。山田社長がなぜ素人経営者なのか、理由は主に3点挙げられます。
1、キャッシュフローに対する理解不足
まずひとつ目。経営者として財務面、特にキャッシュフローに関してあまりに無知であったこと。同社は売れ残りの航空券やホテル宿泊を大量に抑えることで安価に仕入れ、ツアー申込者から集めた申込金で決済するという、飲食店などの日銭商売に近いビジネスモデルです。ところが、日銭商売でキャッシュフローが枯渇するというのは、既にビジネスモデルが破綻しているのであり、それでもなお、そのモデルにしがみついて高価な宣伝広告費をかけて必死に集客したとすれば、それは自殺行為以外の何ものでもありません。
銀行が飲食店の資金ショートにほとんど協力しないのは、この手の資金ショートはビジネスモデルを変えない限り早晩の破綻が見えているからです。この状態のてるみくらぶになお、銀行がつなぎ資金を融資していたということは、恐らく粉飾があったことが想像に堅くありません。自社のビジネスモデル上でのキャッシュフローに対する理解不足と、その結果として苦しまぎれでの粉飾。素人経営が陥りやすい致命的過ちです。
2、「正しいたたみ方」が出来なかったこと
2つ目は、会社の再建、あるいは正しいたたみ方に関する知識が欠如していたこと。今回のてるみくらぶの件は、どうにもならなくなっての破産申し立てという、いわゆる「バンザイ倒産」です。これは経営者として一番やってはいけないことです。マネジメントのセオリーから言えば完全なルール違反なのです。
会社の再建、たたみ方には主に3つの方法があります。民事再生、会社更生、そして破産です。簡単に言うと、民事再生は新たなスポンサーを見つける等により既存経営者が再生を目指す形、会社更生は管財人が事前に策定された更生計画に則って再建をめざす形。ともに再建型倒産と言えます。一方の破産は清算型倒産であり、再建ではなく整理により資産を債権者に配分して終わるというものです。「もうやりたくない」か「継続不能」か。
すなわち、てるみくらぶは打つ手が遅く、既に「継続不能」に陥り破産を選択せざるを得なかったということになるのです。まともな経営者であるなら、破産以外の選択肢を模索する余地がなくなる前に何らかの手を打つのが常套です。てるみくらぶの場合には、恐らく民事再生が選択としてあったはず。あるいはもっと早い段階であったなら、他の大手企業グループに身売りして救済統合してもらうなどの道もあったでしょう。粉飾に手を染める前に経営者としてやれることは何か、それをせずに破綻に追い込んだ責任は重大です。
3、「個人の夢や楽しみを奪う」という罪の大きさ
3つ目は、これが最も罪な無知ですが、破綻による個人に対する迷惑・責任というものに対する無知です。企業対企業の取引の場合には、もちろん肯定はしませんが、まだお互い様的な部分での納得の余地がゼロではありません。しかし対個人は何のお互い様もなく、人によってはなけなしのお金を失ったり、生活に大きな影響を及ぼしたりするかも知れません。特に旅行業界は、個人の夢や楽しみを奪うという、お金だけではない罪の大きさもあります。
従業員に対しての責任も同じです。破産によりどれだけの個人の生活に迷惑がかかるのか、その想像力を持たない人間は、ハッキリ申し上げて企業経営をするべきではありません。てるみくらぶの場合には、4月入社予定の新人50人に内定を出していたとも言います。あまりに無責任な経営姿勢には怒りすら覚えます。山田社長は迷惑をかけたすべての個人に直接会ってお詫びを伝えるという、最低限の誠意は見せるべきでしょう。それが、経営者としての果たすべき責任であり、それなくしてビジネスでの復権はありないのです。
世の経営者の方々やこれから起業をめざす方々には、てるみくらぶの一件から経営者として何を意識し何を身につけなくてはいけないのか、しっかりと心に刻んで同じ不幸を繰り返して欲しくないと切に願うばかりです。
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