実は、東証プライム市場の時価総額の「約2割」をこの3グループが占めており、その特徴を知ることはビジネスだけでなく、就職・転職の会社選びや投資判断の強力な武器になるでしょう。
なぜ同じ財閥系でもこれほど違いがあるのか? 自分に向いているグループはどこか? 東洋経済新報社の記者・山川清弘氏の著書『教養としての三菱・三井・住友』(飛鳥新社)より一部を抜粋・編集し、日本経済の「背骨」を支える3大グループの本質と活用法を解説します。
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「財閥」は消えたが、「グループ」は生き残った
少し歴史を振り返ってみましょう。戦前、三菱・三井・住友は、強力な持株会社(本社)が傘下の企業を支配する「財閥」という形態をとっていました。しかし1945年の敗戦後、GHQの財閥解体指令により、これらの持株会社は解散させられ、各企業はバラバラに切り離されました。
法的には、この時点で「財閥」は消滅しました。
しかし、一度切れたはずの絆は、戦後の復興期に再び結び直されます。ただし、かつてのような「支配・被支配」の縦の関係ではなく、社長たちが定期的に集まって情報交換をする「横のつながり」として復活したのです。それが、三菱の「三菱金曜会」、住友の「白水会」、三井の「二木会」といった社長会です。
これらは法的な拘束力を持つ組織ではありません。あくまで「任意の親睦団体」です。
しかし、だからこそ外部からは実態が見えにくく、それでいて内部には「同じ釜の飯を食った仲間」としての強い帰属意識や不文律が温存されることになりました。
そして、この「緩やかな連合体」こそが、アンケート結果(※本書の執筆にあたり、三菱・三井・住友の3グループと仕事で関わりがある、あるいは自身がグループ企業に所属しているビジネスパーソン500名を対象にアンケートを実施)にも表れていた、三つのグループそれぞれに全く異なる「人格(キャラクター)」を与えることになったのです。
三者三様の「人格」——組織、人、結束
ビジネスの現場でよく語られる言葉に、「組織の三菱、人の三井、結束の住友」というものがあります。これは単なるイメージではなく、歴史的背景に裏打ちされた、各グループの本質を見事に突いた表現です。1. 国家とともに歩む「組織の三菱」
東京・丸の内。東京駅と皇居の間に広がる日本屈指のオフィス街は、かつて「三菱村」と呼ばれました。明治時代に政府から払い下げられたこの土地を、三菱地所が開発し、今もグループ各社の本社が密集しています。三菱の創業者・岩崎弥太郎(やたろう)は、海運業を通じて明治政府の軍事輸送などを一手に引き受け、国家とともに成長しました。
そのDNAは今も色濃く残っており、三菱重工業がロケットや防衛装備品を手がけ、三菱商事が日本の資源エネルギー調達を担うなど、「お国のため」という気概と、ピラミッド型の強固な組織運営が特徴です。
2. 自由闊達な「人の三井」
一方、東京・日本橋に拠点を置くのが三井グループです。そのルーツは江戸時代の豪商「越後屋呉服店(現・三越伊勢丹)」にあります。三井は古くから、現場の番頭に権限を委譲する「分権型経営」を行ってきました。
三井物産に代表されるように、個人の才覚やバイタリティを重視するため、「組織よりも個人」が際立つ傾向があります。
戦後の再結集も、個社の独立心が強かったことから遅れました。そのため、グループとしての縛りは比較的緩やかで、自由で華やかな社風の企業が多いのが特徴です。
3. 信用と理念で結ばれる「結束の住友」
そして最後に、大阪を本拠地として発展したのが住友グループです。住友の精神的支柱は、江戸時代から続く「文殊院旨意書(もんじゅいんしいがき)」という家訓です。その中にある精神は、近代の「住友家法」営業要旨で「信用・確実」「浮利に走らず」という言葉に
まとめられ、今もグループ各社の経営理念の根幹に据えられています。
住友は、三菱のようなトップダウンの組織でも、三井のような放任主義でもありません。
「理念」の下に人間同士が固く結びつく、家族的な結束が特徴です。戦後の再結集が最も早かったのも、住友の伝統精神を中心とした「人のつながり」が強固だったからです。
なぜ今、この「教養」が必要なのか
「古い財閥の話なんて、今のグローバル経済に関係ないのでは?」そう思われる方もいるかもしれません。しかし、数字を見ればその考えは早計であることがわかります。
現在でも、東証プライム市場の時価総額ランキングを見れば、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、三菱商事、三井物産、住友商事といった名前が上位を独占しています。
3グループの主要企業の時価総額を合計すると、東証プライム市場全体の約2割を占めています。日本経済の「背骨」は、今なおこの3大グループによって支えられているのです。
さらに、彼らは決して「ドメスティックな古い企業」ではありません。
海外売上高比率を見てみましょう。三菱系のニコンは86%、AGCは約70%、住友系の住友ゴム工業も70%に達しています。彼らは日本という枠を超え、世界市場で戦うグローバルプレーヤーなのです。
円安が進行している現在、個人でも投資をする方が増えているのを、経済誌の編集に携わっていても実感します。投資をするためには、その会社の理念、目指す先、起こした失敗、これからのビジョンなどを知っておく必要があります。
成長への期待は、今だけを見ればいいというものではありません。歴史やグループのなかの立ち位置からも、株価に表れるものはあるでしょう。投資をしている方にも、ぜひ参考になればと思います。
また、就職や転職を考える際にも、各グループの「色」を知っておくことは極めて重要です。
たとえば、同じ商社でも、三菱商事は東京大学をはじめとする難関国立大学出身者が多く、三井物産や住友商事は慶應義塾大学からの採用が目立つなど、求められる人材像には微妙な違いがあります。
アンケートでも「財閥系では学歴を聞かれる」「東大・慶應の派閥がある」といった声が寄せられました。
あくまでも私がアンケートから感じた印象ですが、「大きな組織の歯車として、国家規模の仕事を動かしたいのか(三菱)」、「個人の名前で勝負し、自由な発想で働きたいのか(三井)」、「固い絆で結ばれた仲間と、実直に社会課題に取り組みたいのか(住友)」、こういった捉え方ができそうで、それは自分のキャリアを考えるうえで偏差値や年収ランキング以上に役立つ指針となるかもしれません。 この記事の執筆者:山川清弘(東洋経済新報社 記者) プロフィール
1967年、東京都生まれ。東洋経済新報社に入社後、記者として放送、ゼネコン、銀行、コンビニ、旅行など担当。『会社四季報プロ500』編集長、『会社四季報』副編集長、『週刊東洋経済プラス』編集長などを経て『株式ウイークリー』編集長および「会社四季報オンライン」編集部編集委員。著書に『世界のメディア王 マードックの謎』(今井澂氏との共著、東洋経済新報社)、『ホテル御三家 帝国ホテル、オークラ、ニューオータニ』(幻冬舎新書)、『教養としての三菱・三井・住友』(飛鳥新社)など。



